第19話 サンジョナ村

ハルトが住んでたサンジョナ村は、小さな農村だった。ハルトは異世界転生者として目覚めたが、これといったチートスキルもなく、文明的にある程度進み、魔法を使った魔道技術が発達していたこの世界で、現代日本の知識もチートにならず、貧しい農村の長男の人生を甘受していた。


そして、幼馴染の女性と結婚し、赤ちゃんも生まれ、貧しいながらも小さな幸せを得て、慎ましく暮らしていた。


そんな暮らしも、戦争が始まり状況は一変した。戦費の為の増税に次ぐ増税。働き手である成人男子に対する強引な徴兵。


ハルトも徴兵されて、泣く泣く妻子を両親に託し、戦争に駆り出された。


久しぶりに帰って来たサンジョナ村の近くにキュウは降り立つ。


しかし、様子は一変していた。


荒れ果てた田畑、荒廃した家屋。


まるで盗賊やモンスターに荒らされたかの様だった。


ハルトは妻アヤノと娘ナツキの名前を叫び、我が家に駆ける。

「アヤノぉ! ナツキぃ!」


立ち止まるハルト。視線の先は崩壊していた我が家。


「何故、こんな事に?」

家屋の瓦礫を取り除き、妻子の姿を探す。


ガサガサ……。


後ろを振り向くと、田んぼの中から人型の泥が湧き出した。


「タヲカエセェ。タヲカエセェ」


荒れ果てた田んぼから、上半身のみ出て来た数匹の泥田坊。坊主頭に片目を瞑り、三本指の両手を伸ばす。


「な、なんだ? 見たことが無いモンスターだ!」


「モンスターじゃなさそうにゃ」


「え? じゃあ、なんだ?」


『良く分からんが、少なくとも、この世界の生き物ではないな』


ハルトの問にゲイ・ボルグが答えた。


泥田坊に向かって、ゲイ・ボルグを構えたハルトの後ろから声がした。


「おや、まだ生き残りがいたのかい?」


振り向くハルト。

「誰だ!」


そこには妖艶な絶世の美女が立っていた。


「おっほっほ、ワタシは飛縁魔ひのえんまよぉ、この国の戦力を増強しているのよぉ」


「この国? ギーベル王国が……」


「おっほっほ、ギーベル王国は滅びましたのよ。今はドーマン様が治めるドーマン王国になったわ」


「ドーマン王国? ツドイ帝国の軍はどうなった?」


「おっほっほ、ツドイ帝国ねぇ。ドーマン様が全滅させましたわ」


「全滅?! あの軍勢が!!」


「おっほっほ、話は終わりよぉ。さて、貴方もワタシのしもべになりなさいなぁ」


飛縁魔の目が妖しく光る。


ハルトの顔の前に、キュウが飛んで来て、視線を遮る。


キュウは赤い光りに包まれるが、身体を震わせると、光は掻き消えた。


「危ないにゃ」


「あら、邪魔な虎ねぇ。おっほっほ。ぐあっ!」

飛縁魔が口を大きく開けると、口の中に炎が見え隠れする。


「ハルト乗れにゃ」


「おう」


ハルトがキュウの背中に乗ると直ぐに、キュウは飛び上がった。


ゴォオオオオオオオオ!!


キュウのいた位置に、飛縁魔が吐き出した炎が吹き荒れた。


「アイツはヤバいにゃ」

『うむ、強力な力を感じる』


「おっほっほ、逃がさないわよぉ。鬼火、出ておいでぇ」


飛縁魔の周りに数十の青白い火の玉が浮かんだ。


「一度退散するにゃ」


鬼火がキュウを追って来るが、キュウは速度を上げて飛翔した。


「あら、逃げたのねぇ。あの翼の生えた虎は何かしらぁ?」


飛縁魔は、俺達が飛んで逃げるのを見詰めていた。


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修正の報告


キムラサ副将軍とキムラサ町とで、名前が重複していた為、第1話に登場したキムラサ副将軍の名前を、ウナカ副将軍に変更しました。

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