第4話 子猫

「な、何だ? このでかい顔だけの化け物は、こんなモンスターは見た事も聞いた事も無い。私は何を呼び出したんだ。確かに即戦力を求めて、強力な勇者を召喚する様に勇者召喚の魔方陣を改変したが、魔王は既に出現してるし、悪魔とも思えない。過去に呼び出された文献のどの勇者とも異なる服だし……」


ヤマツ枢機卿は恐怖で顔を引き攣りながらも、ブツブツと何時までも独り言を続けていた。


「百鬼夜行召喚、さとり!」

続けてドーマンは覚を呼び出した。


ドーマンの直ぐ横に、黒く長い体毛の大きめ猿の様な妖怪である覚が現れた。


「キケケケケ」

不気味に笑う覚は、相手の心を読む妖怪だ。


「さて、色々教えて貰おうかな?」


ドーマンは再度邪悪な笑みを浮かべて、ヤマツ枢機卿とドンギュー将軍の目の前に近付いた。


後ろから4人の修道服の男を蜘蛛の糸で拘束し、引き摺りながら土蜘蛛達も近付いて来た。


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ギーベル王国とツドイ帝国の前線。


ギーベル王国の歩兵であるハルトは、銃弾や魔法が飛び交う戦場で、槍を持って塹壕に潜んでいた。


この世界の銃は命中精度があまり良くない為、殺傷能力も低く、運悪く急所に当たらなければ死ぬ事は無い。


また魔法も魔力の量が少ない者が殆どの為、連射出来ない欠点がある。


従って、白兵戦で決着を着ける必要がある。


魔力がある者と銃を保持出来る中級兵の数は少なく、殆どの者が歩兵である。


常日頃から訓練している職業軍人は剣を持っているが、招集された民間兵は剣のスキルが無い事から槍を持たされる。


つまりハルトは最底辺の歩兵である。


今日でもう1ヶ月、戦場を転々としていた。負けては退き、負けては退きの連続。


初めに一緒に招集された同じ村の仲間は、殆ど戦場で死んでいる。


生き残ったハルトが強い訳では無い。

偶々運が良かった。


一緒に突撃した際に、隣の男が魔法の火の玉で頭を吹き飛ばされたり、隣の班が敵の砲撃で吹き飛ぶのを何度か見ている。


懐にはさっき拾った猫の子が1匹。


どこからか紛れ込んだのか、生まれて間もないぐらいの虎柄の子猫が、塹壕の中で鳴いていた。


「ミャー、ミャー」


「おぉ、よしよし。どこから紛れ込んだか知らないが、こんなところにいたら、潰されちまうぞ」


ハルトは手持ちの水筒から、残り少ない飲料水を子猫に飲ませた。


突撃の命令が出るまで、塹壕の中でジッと身を潜める必要があり、銃声が響いてる今はまだ突撃の命令は出ないだろう。


「ハルト、良いのを見つけたな。美味そうな子猫じゃねえか。撤退したら半分喰わせてくれ」


つい先日撤退した後、同じ班になった隣の男が、話し掛けてきた。


暫くまともな食事をしていない兵達は、鼠やもぐらを食べる事があった。


「馬鹿を言うな、こいつを喰う気は無い」


「ハルトが死んだら貰う事にするよ。それまで大事に守ってくれ」


「うるせぃ」

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