第11話「兄弟」

 暗闇の世界にいた。


 すべてが黒く塗り潰された景色の中で、白髪の少年の姿だけが見える。


 足首に触れる液体を掻きわけるように歩みを進めながら、少年のほうへと近づいていく。

 液体には僅かな粘性が感じられた。純粋な水というわけでは無いらしい。


 白髪の少年の元まで辿り着く。改めて、その顔を見た。


 男の子の幼い顔立ち。けれど、無表情なせいだろうか、やけに大人びて見えた。まるでユウと同い年くらいのようだった。


「きみは……キングなの?」


 ユウの問いかけに対して、白髪の少年は眉ひとつ動かさない。無表情のままユウのことを見つめ返す。何を考えているのか全く読めない。


「どうしてそう思うんだい?」


「キングは強力なサイキックだ。精神感応テレパシーを使うことで、遠くからオレに干渉することが出来るのかもしれない。きっと――オレに助言を与えて助けることも。キングは友好的だったって、なんとなくだけど覚えてるから」


「……そっか。思い出してきてるんだね、チカラも、記憶も。それならもう、僕の出番は無さそうだ」


 白髪の少年の姿が、ぼやけて見えた。霞みがかったように輪郭が薄れていく。

存在が弱くなってきている……?


「やっぱり、きみは――」


「キングだって? そうだと言えるし、そうじゃ無いとも言える」


「どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ。いずれ分かる。それよりも……」


 白髪の少年が天を見上げる。


「――来た。ジャックとクイーンだ」


 ユウは下を向いた。今はもうユウの目にも見えた。千里眼クレヤボヤンスで心臓の拍動まで分かる。俯いた理由は、これから起こることを悲観したが為だ。


「また、殺すことになるかもね。同じ人間から生み出された、兄弟を」


 エースを殺したときは知らなかった。

 五人のサイキックは、歪んだ父親オリジンに命を弄ばれた同じ被害者であり、兄弟に似た関係性といえた。


 彼らと過ごした年月のことは、まだ、思い出せない。


 だが、知ってしまった。


 覚えていなくとも、彼らとの繋がりは確かに在る。


 もし、そのときが訪れてしまったなら――


 トウコやミナギ、友人たちとの思い出は覚えているのに――選んでしまっていいのだろうか。


 盲目的に、今の絆を。


 過去の繋がりを、断ち切って。


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