SoulどRetLife 《ソールどリトライフ》

夜鷹キズイ

第1話 終わり始まりの地


  ―――プロローグ―――



 皆さんは、[死後の世界]

 いわゆる"あの世" と呼ばれている場所をご存知だろうか?

 どんな世界なのか。どこにあるのか

 人が想像で作り出した幻の世界なのか。

 未だ発見されていない、その世界。


 しかし、"それ" は存在する。

 通常生きていては行けない場所に。


 死の間際、人間が見ると言われている

 自分の過去を映し出した "走馬灯"

 それも、あの世から送られた最後の送り物なのかもしれない。


 

 ――気になっても、絶対に来ないように…



 そうは言っても、自分が望まずとも来てしまうことはある。



 この少年もそうであった――


 とある事故に巻き込まれ、17年の命を終えてしまった災難な少年。


 "死"

 それは、そこで少年の人生の幕を閉ざす


 しかし死後、もう一度あの世で人生をやり直せるとしたら…

 そんな世界もあって欲しいかもしれない


 これはそんな世界にやってきた、少年の物語――



 死んだ後自分がどうなってしまうのかなど想像もつかない。

 魂は、どこへいくのか。来世とは…?

 この世界は、どうなっているのか。

 

 何も分からないまま、"それ"は突然と訪れてしまう時がある。


 少年は、"あの世" で何を見るのか…



 "死"

 その時が訪れるまで自分の魂の行く末を想像しながら、あなたもこの物語で


 "あの世"の世界を覗いてみては…?



 ―――――――――――――――――――




「い"って"ぇ…」


 俺は、急に尻もちをついた。

 驚いて目を開けると 綺麗なエメラルドグリーン色の川が流れている。

 頭を打ったのだろうか… 中々記憶を思い出せない


「つか、なんだここ。森…?こんなとこあったっけ。」


 立とうとすると、強い衝撃が走り頭が揺れる。


「んぐ… いったァ…… 」


 世界を諦めたような目の上に、しわをよせ顔を強ばらせながら周りを見渡していた少年は、衝撃により何か思い出したかのように、慌てて立ち上がる。


 「そうか、あれは三途川ってやつか…

 やっぱりあの時俺は…」





 ―――事は数時間前に遡る。―――



 母に言われた通り、俺は新幹線で東京の祖母の家に向かう途中だった。


 今までそんな話、ニュースでも聞いたことは無かったが、その日たまたま俺の乗っていた新幹線で、脱線事故が起きた。


 大きな衝突音と共に車内が揺れ、乗客の様々な悲鳴が聞こえた。

 俺の目が覚めた時点で、車内はぐちゃぐちゃ。周りには人が倒れていた。


 違和感を覚え、目だけそちらへ向けると俺の上には、先程まで俺の隣に座っていたと男の人が…


 男の人は、俺をかばうような形で覆いかぶさってくれていた。

 俺はそんな光景をみて、薄らぐ意識の中でこんなことを考えた


 「なんで、俺じゃないんだよ…俺の人生なんか。」    


 俺の瞼の裏で今までの人生の投影が流れ出したのが分かった。



   ***************



 5年前、女を作って出てった親父の代わりに母さんは遅くまで働いて、俺をここまで育ててくれた。

 そんな母さんも過労で倒れて、「大丈夫」って言いながら辛い顔一つせず逝っちまった。

 元々貧乏で給食費の払えない家庭環境にある俺は、後ろ指を指され虚しい小学生時代を送っていた。

 卒業後は中学校にも行かず、バイト三昧だったために親友と呼べる友人もいなければ兄弟だっていない。


 俺は、ここに残したもんなんて何もない。



   ***************


 

 「ね、君名前は?一人じゃ心細いでしょ?」

 

 「え、ああ。能場 祐のばたすくです。一人は別に慣れてるので…」

 

 「そっか!俺は、稲元いなもと

 ただのサラリーマンなんだけど、京都に転勤で来てて今から東京に帰るんだ。能場君は?」


 「そうすか… 俺はちょっと野暮用で祖母の家に。」


 最初は、急に何だよ。喋りかけてくんなよと思っていたが、あまりに嬉しそうに話す隣の男の人の話を無視することは出来なかった。


 稲元さんは、これから生まれたばかりの娘と奥さんに会いに行くって…

 さっきまであんなに楽しそうに話してたのに。

 

 俺が…俺が、代わりに死ねば良かったんだ…



 ――――――――――――――――――




 「ここにいるってことは、俺も死んだのか…」


 ふと顔をあげると、時代劇に出てくるような服を来た女の子がいた。

 何やら時計を持って何者からか逃げているかのように慌てて走っている


 「なんだ、もしかしてなんかの撮影?

 三途川はセットだったりして…

 な、わけないか。無いよな、死後の世界が舞台の時代劇とか。」


 現実逃避のようなことを思いながら、一つの疑問が浮かぶ。


 「ん、死んでるならなんで俺川渡ってないんだ。

 もしかして自主的に渡るシステムなのか…」


 更に顔を強ばらせながら、俺は疑心暗鬼なまま、川にかかった橋を渡ろうと足を踏み出した…


 が、自殺行為をしようとする人間を止めるかのと如く、勢いよく俺は首元の襟を引っ張られる。


 「おい、馬鹿。死にたいのか。」


 鋭く、落ち着いた声で一言だけ言われ、本日2度目の尻もちをつかされた俺は間抜けな顔で声の主を見上げる。


 そこには、狼のような顔をした少年が鋭い目付きで、俺を見下ろしていた。


 「死にたいも何も、俺死んだんじゃ…?」


 俺は少年が何を言っているのか分からず、薄い声で尋ねると


 どこから出てきたのか、優しげな顔をした男が一人。

 少女を引っ張りつつやってくると先程の少年の横に立つ。


 「ごめんねえ、急に来たんだから分からないよね。ここは 能場のば たすく君の思っている通り死後の世界だけど、君は死んではいない。今君の状態を言うなら瀕死かな?」


 説明口調で話す優男だが、ほわほわした喋り方とその言葉のせいで俺の混乱は増していく。


 「は…?」


 「詳しく説明すると、瀕死状態により本体から抜けた魂だけこっちに来たっていう状況だね。だから、死んでないよ」


 「今は…?」


 死んでいないことを安堵するべきか、という単語に注目し怯えるべきなのか。

 分からず俺は更に困った表情で男を見つめる。


 その表情を見て察したのか、男は真面目な声色で話し出す。


 「瀕死状態でこちらに来た場合、魂は速やかに 命の時を計るもの、命時計めいどけいの針を止めなければならない。期限は1ヶ月。それを超えると死にます ってことかな。」


 以外と長いな… と思いつつ、俺はこれからしなければならないことが分かり、任務を得た勇者かのように、少しわくわくしてしまう。


 「てか、あなた達誰なんすか。なんで俺の名前知ってるんですか…」


 説明を聞き入っていたせいでスルーしてしまったが、今冷静になると先程名乗ってもいない、俺の名前をスラスラ口にした男に恐怖を覚える。


 「あぁ、まだ自己紹介してなかったよね。俺は鶴靭 玄乃つるしな くろの。天界に務める天徒あまとで、瀕死状態の魂を現世に戻す、"運び屋"ってのをやってるんだ」


 現世で聞いたら、危ない仕事を想像される単語を平然とした顔で述べる優男


 「それで…」

 と更に続ける。


 「こっちのが、百福ももふくツバメ。この世界には、魂をエサに生きている死狩しきがりって言うのがいるんだけど、そいつらの動きや、こっちに来た魂の情報を管理してる "情報屋" をやってる。」


 鶴靭つるしなという優男は、先程一緒に引っ張って来た少女の説明をした。


 何故自分で名乗らないのか。と疑問を抱きつつも、情報屋 がいるなら、俺の名前も知っていて当然か。

 と片方の疑問は解決したので良しとする。


 「あの、なんで引っ張って来てたんですか…」


 俺は先程の理にかなった疑問とは違い、ただの興味本意でとりあえず聞いてみる。


 「それがさ、こいつ俺ん家に居候してるんだけど、俺が引っ張ってかないと仕事行かないんだよねぇ。あははは」


 何が面白いのか分からないが、呆れまじりに高々と笑いながら説明する優男に俺は、同情を覚えつつ、次に俺の襟を掴んできた男に目を受ける。


 男は、俺と目が合うと、何で見られているのか分からないとでも言うかのようにキョトン としている。


 「あの、そちらは?」


 では1番まともな、優男に説明を要求する。


 優男は またも当たり前かのように狼顔少年の紹介を始める。


 「こっちは、"送り屋"をやってる雅火みやび沖刀ちゅうと

 寿命を終えた魂を正しく輪廻へと巡回させる仕事をしてる。

 凶暴かもしれないけど、目が悪くて距離感掴めてないだけだから許してあげてね。普段は命令に忠実な大人しい子だから。」


 聞いていない性格まで丁寧に紹介する優男。


 紹介を聞いて、俺が雅火という男の方に顔をやると


 少し申し訳なさそう顔をしている…ように感じた。


 先程俺を強く引っ張ってしまったことについて、謝ろうとしているのだろうか?


 その光景を見ると、優男が代わりに弁解をしていたのだろうと納得がいく。


 3人全員の紹介を終えて、次の話題に移ろうとしたが、またも優男が口を開く


 「あ!それで、これからは俺たちの事は、"鶴"、"もも"、"雅火" って呼ぶようにしてね。」


 出会って10分で、いきなりあだ名呼びか と 優男の発言に驚く俺だったが、そんな俺をスルーし、続ける。


 「死狩しきがりっていう組織に本名を知られると、魂を乗っ取られるから、君もこれから本名はあんまり教えない方がいいかもね」


 相変わらずほわほわした声で言う男。


 いつになったら、俺の任務が始まるのか…


 長々と続いた説明もそろそろ終わりを

 終わりを告げようとしていた。





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