第2話『思惑の絡まるパーティー』

王城で行われる十歳になる貴族の子息、令嬢をお披露目するパーティーが開催されるまで後数日というところまで迫っていた。


お披露目といえば聞こえはいいが、実際にはドロドロした派閥争いを繰り広げる政戦の最前線だ。


力のない者達は有力貴族達と婚約させようとする。もちろん政略結婚をしない貴族も存在するが、そういった貴族達は大抵公爵、侯爵、辺境伯や一部の伯爵家のみだ。稀に例として挙げた爵家以外にもあったりするが殆ど存在しない。


王族だと当然だが政略結婚は当たり前の様に行われる。本当に嫌になる。何故婚約させられるのか、何故よく知らない者と結婚しなければならないのか。前世での記憶があるからかも知れないが、本当に此れは心からの願いだ。


父オットー国王から開会の挨拶が行われてから、目の前で行われている立ち食形式のパーティーは、それぞれの思惑が絡まり、齢十歳の少女が親の命令からか、有力貴族達に媚びを売っている。


勿論だがアーレント王国第四王子たるこのユートリヌス・フォン・アーレントにも媚びを売りに来ている者達は多い。前世で俺は裏切られ続けた。真桜に関しては自分の思い違いという事を知ったが、其れ迄のことを考えれば中々人を信頼する事はなかった。


信頼出来るのは、父に、実母の第一王妃、同じ第一王妃を母にもつ第一王子、執事のセバスチャン・スチュアートに気づけばいつも隣にいたノエリア・フォン・アエトス公爵令嬢のみだ。


他の者達は殆ど信頼出来ない。というよりも信頼したくない。王族に転生してから常に裏切りに気をつける様になった。


自分の印象では権力争いで常に政戦が執り行われるというのが強い。少しでも隙を見せる事が有れば、見えない敵に謀殺または、権力を奪われる。


其れは王族内でも当然おこる。自分が次期国王として、派閥争いの道具として、内乱が起こる事もアーレント王国の歴史の中で度々起きて来た。


此処二百年は大きな内乱は起きていないが、反乱の疑いありとして処刑される王族は勿論いる。大抵病死とされるが、実は裏で処刑されていたりするのだ。


二時間程経っただろうか?既に俺は十数人の媚び売りを軽くあしらっている。しかし一人だけあしらってもあしらっても懲りずにやってくるものがいた。ドレスの袖から視れる痣が気になり、少しばかりだが話を聞いてやる事にした。名前はアリシア・ブラックというらしい。美しい金髪と碧眼をしていた。彼女は新興貴族のブラック伯爵家の令嬢らしい……


新興貴族と言っても二百年程前の内乱で功績を挙げ貴族としてなった者、または大きく爵位を挙げた者達だ。正直新興貴族が相応しく無くなっていると思うが突っ込むのはやめた方がいいだろ。


アリシアは常に怯えた様子で、下手くそな作り笑いをしていた。嫌という気持ちを隠しきれずに……話だけを聞いているうちに少しだけだが興味は湧いた。


もう少し話を聞いてあげようと思っていると、国王が閉会の挨拶を行いパーティーはお開きとなった。


会場からさっさと立ち去ろうとすると、国王に呼び止められた。


「陛下、何か御用でございましょうか?」


公式の場では『陛下』と呼ぶ様に強制されている。普段は『父上』なのだが……


「かしこまらなくても良い。お開きとなったのだ父上で良い。」


父の言葉で緊張を直ぐに解き、普段の口調に戻した。


「父上、どうかしましたか?」


「後で余の部屋に参れ」


「分かりました」


父が部屋に呼ぶのは大抵何かしでかした時が多い。俺が貴族令嬢達を軽くあしらっていた事で文句を言われるのだろうか……そう考えると無性に足が重くなった。








〜〜〜〜〜〜








軽く扉を三回ノックした。


「父上ユートリヌスでございます」


「うむ…ユート入れ」


扉を開くと父はソファーに腰掛けていた。

紅茶がテーブルに二つ置かれており、自分は空気を読み父の向かいに座った。


父の事は信頼しているが変な空気感である。一応紅茶に解毒魔法をかけておこう。


「で父上何かありました?」


「うむ……パーティーはどうであった。上辺の答えでなく本心を聞きたい」


聞かれて直ぐに建前を考えたが必要ない様だ。建前をこのまま話しても良いが、此処は一つ本音を言うべきであろう。


「諸侯の思惑が絡まり合い、本心より楽しむ事が出来ませんでした。やはりパーティーは苦手です」


「そうか……気づいているかも知れぬが、パーティーのことを聞きたかった訳ではない。此れからは念話を使いたいがユートよ、使えるか?」


「もちろんです『父上何か?念話を使うと言う事は重大なことでも?』


『あぁ……其れなのだがな、単刀直入で言う。王国隠密に所属するつもりはないか』


隠密……其れはこの世界で莫大な力を持つ王国がその力を持つ事が出来ている理由の一つ、世界最高の情報収集機関だ。噂では裏で粛清を行い、他国の隠密を抹殺し王国が強くあれる様にしているとか。


『余も隠密に所属していた。此れは王国の為だ。国政は綺麗事では片付けれん。誰が汚れ仕事をしなければならん。歴代の国王の半分近くが隠密に所属していた』


『なんと……隠密ですか。しかし兄上がいらっしゃいましょう。何故私なのですか』


『お前が重鎮達からなんと呼ばれているか知っているか?王国史上最高の王子だ。常に周囲に気をつけ、身の安全を図ろうとする。人を中々信用せずこれ程適性のある者を余は知らん』


思っていた以上に評価されているらしい。一応信頼はしなくとも信用はしていたつもりだが、周りには信用してもらえない王子という評価の様だ。


『適性があるのは分かりましたが、隠密こそ身の危険が高いのでは……』


『だからこそお前に頼んでおる。頼む王国の為、民の為、隠密になってくれないか』


父がこれ程にも願い出るのは初めて見た。

余り国王たる父に頭を下げさせるのは忍びない。


『嫌になったら辞めてもよろしいですか?嫌になるまでは必ず務めます。其れが王族としての責務ならば』


『ありがたい!ところでパーティーで気になったものはいたか?此処からは普通に会話しよう』


「はい。アリシア・ブラックという少女が……ドレスの袖より痣が見えまして……普通なら治癒魔法で回復するのですが、何故か残っていまして」


「そうか分かった。では夜も遅い。部屋に戻りなさい」


「はい。失礼します」


部屋に戻ると、結界を張って睡眠した。

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