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配ってみると反応は様々だった。それは総じてなんだか不思議な時間になった。そのときのふわふわした時間の流れのことを特別に思い返す。
近所に地図上、線で繋がる家々は、「サワ」「ザワ」という音を含む名字でもってして真横にいそいそと並んでいた。家にいて、居留守を使わない。ドアノブを持ったままの「沢」=「サワ」「ザワ」の人たち。
横隣のオオサワのおばさん。ぼくらはにこにこと笑いかけた。
次のクロサワさん。クロサワのご主人がしゃがれ声で「何の用」と言った。ぼくらはにこにこと笑いかけた。
アイザワさんはとても色っぽい。四十歳になるかならないかの女性。アイザワさんにもぼくらはにこにこと笑いかけた。
最後に向かったのが、サワベさんち。サワベさんが応対せずにLが出てきた。
ぼくはやっと「ぴん」ときた。「ぴん」ときたが、身を硬くしたまま。その時の姉の顔は見なかった。ぼくはだまされた。にわか肩こりでぼくは肩をぐるぐると回しただけ。ぼくはあのとき怒っていただろうか。誰かに聞かれたら「ニュートラルだよ」と返事したはず。しかし言葉とはいつもどこでも裏腹である。こんなぼくはどこまで責任がとれるだろう?
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