吟遊詩人と異世界聖女

15杯目 聖女は街を散策したいそうです

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月二十日・ノーム・天気:晴れ


 さて、今日から当代の聖女を護衛するために朝も早くから冒険者ギルドを訪れたわけですが……どうして私が選ばれたのか分かりましたよ!

 

 似てるんです色々と! 身長、体型、髪の色に長さなどなど……唯一はっきりと違うのは瞳の色ぐらいですか? 彼女は黒で私は青……。

 ただ、それも色眼鏡などをかければさほど問題にはならないでしょう。


 これは……もしかして私、替え玉とか身代わりに利用されようとしてませんか?!

 そんな悪い予感がして同席しているエルフィーナ氏へ確認すると、察しがよくて助かるわ、って……やっぱりだ! これ、実は凄く面倒な依頼ですよね?!


 思わずその場で頭を抱えそうになっていると、


「えっと……よろしくお願いします!」


 こちらに向かって丁寧にお辞儀をしてくる当代の聖女。

 うぅ……これは本気で断れない流れですね……。はぁ、しかたありません。諦めてお仕事の詳細な内容を聞きましょう……。


 その結果! 予想通り私は身代わりというか、囮でした!

 ここ数日、当代の聖女カナエ・スズキ氏を狙っている不審な影があるそうです。なので、彼女の安全を確保するために身代わりが欲しいと……。

 そして、あわよくばそれを囮に犯人を捕まえたい……。


 わぁ~い、割と本気で面倒で危険なヤツ! 酷い! 騙された!

 しかし、抗議しようにもこの場にいるのは、冒険者ギルドマスター、当代の聖女、彼女の後見を務める貴族、護衛騎士、加えてダメ押しで保安騎士隊長。

 

 なんですか、この暴力的な権力者の集まり?! しかも、お縄にしなかった分、しっかり働け吟遊詩人、って保安騎士隊長に耳打ちされるし!

 うぅ……お咎めが一切無しとか、おかしいと思っていたんですよね……。


 そういうわけで、準備されていた服を着てカナエ氏に変装します。

 ふっ……まさか私が歴代勇者や聖女たちが召喚時によく身に纏っているとされる学生服に袖を通すときが来るなんて……。

 最後に瞳の色を隠す色眼鏡を装着すると……うん、遠目にはカナエ氏に見える気がしますね。

 

 さて、あとはこのまま犯人が釣れるまで街で過ごせばいいんですよね?

 もうなるようになれと半ば達観した心持ちで尋ねると、


「はい! では行きましょう、シオーネさん!」


 いつの間にか私が脱いだ服に着替え、笑顔を浮かべるカナエ氏の姿が……なぜ?

 説明を求め周囲へ視線を向けると、カナエ様が目立つ護衛は付けず街を自由に散策されたいとおっしゃいまして……、と気まずそうに答える後見の貴族様。


 なるほど……つまり私はこの服装の状態で、吟遊詩人シオーネに変装したカナエ氏を護衛するというわけですか……。

 

 そんなこんなで色々と想定外な街の散策を終え夕方。

 私はカナエ氏を連れて馴染みの酒場を訪れました。え? もちろん飲むために決まってるじゃないですか! むしろ飲まずにやってられますか、この状況?!


 それにほら……カナエ氏は今、シオーネさんなので! 酒場に来ない方がむしろ不自然! だからこれもお仕事の一環です! 正義は私にあります!


 あ、カナエ氏? もしかしてお酒は初めてですか? え? 向こうだと二十歳まで飲めない? 大丈夫ですよぉ、こっちは十五歳から飲めますから!

 ささっ、ぐいーっと飲むのです。今夜は楽しくやりましょう!


 ふふっ……なんだ、意外と素晴らしい依頼じゃないですか。お酒美味しいです!



 今夜のお酒

 ユウヒ ザ・リッチ(麦酒)(度数6):一杯

 トッサツル 純米酒(度数15度以上16度未満):三本と少々


 おつまみ

 ポトフ、水煮大豆、ホワイトソースパスタ

 

 連続飲酒日数:十六日目


 カナエ氏?! 意外といける口ですね! 飲みましょう! 歌いましょう!

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