実践してみて分かること


 木綿着物に半幅帯を締めて、すっかり調子に乗った私は、よっしゃ! 次はあの小紋だ!! と、意気込んだわけで。

 そう、私が一番最初に購入した、墨色の生地に雪輪と桜の花びらが散っている、あの飛び小紋ですよ。

 もちろん正絹。長襦袢もおあつらえした、絹のやつ。

 お姑さんのもので、銀の生地に傘と桜、藤が刺繍されている、とっっっても感じの良い名古屋帯を発見していたので、これをあわせたい! と思っていました。

 おりしも、母が紹介してくれた琴の先生に会う機会があって、さっそく着付けを教えてもらうことに。

 わざわざこちらまで足をはこんでくれた琴の先生は、上品でおっとりとした印象の優しそうなお方。

 けれど常日頃から着物を着ているだけあって、てきぱきと着付け方を教えてくれる………のだけど。

 するすると、半分以上、彼女が着付けているようなものに。


「良い小紋ねぇ。着なきゃもったいないわ。

 大丈夫よ、ほら着れたでしょう。見よう見まねで着ていくうちに慣れるから。とにかくたくさん着ることよ」


 褒めながらそう言ってくれたけど、お太鼓結びはほぼほぼ先生が締めていて、正直に言えば、着れるようになる気がしなかった。

 それに、脇を整える「タックをとる」というのも、よく分からず難しい。

 とっても優しい人だけれど、やはり着付けの先生ではないのでそこは考えなければ、ということは理解した。

 しかし本当に優しい人で、肌襦袢の上の補正タオルは紐と一緒に縫い付けたものがやりやすいと、ミシンで縫ったそれを見本にくれました。

 これが、もう本当に重要。補正!

 胸、アンダーバスト、そして尾てい骨の上あたり? らへんは補正をした方が綺麗に着られるということを、あらためて実感。

 自己流で木綿着物を着たときはこれがいい加減だったので、なおさら分かりました。

 アンダーバストにタオルがきちんと入っていれば長襦袢が汗でぐっしょりという事態にもならないんですね。

 ともかく、補正の重要さとそのコツを覚えて、琴の先生にお礼をしました。

 教室(もちろん琴の!)に通ってみる? と誘われたけど、それは丁重にお断りして。

 いや、だって琴ってお高いのだもの。楽器ですし。貸してくれるって言うけど、欲しくなったら危ないですから!!

 この手の誘惑は事前に減らしておくに限ります。


 さて、その後、呉服屋さん紹介のワンコイン着付け教室。

 これがお得で一回百円。コースは基本の着方。名古屋帯の締めかた。袋帯の締め方。と、なっていました。

 同じ着物で参加したところ、着付けの先生はきりっとしたご年配の品があるお方。

 あ、この雰囲気は、もしや。と思っていたら、やはりというか。


「はい! 背中を丸めない!! 帯枕をそう持っちゃ駄目でしょう! こうです、こう!!」


 手取り足取りのビシバシ指導でした。いやぁ、初対面の人にもきっぱり「そうじゃありません」と指導できる先生って純粋にすごい。

 且つ、絶対に生徒に自ら直させる(文字通り手をとって、というか握られて)指導内容でびっくり。

 教室の最後。

 

「初めてですから、こんなものでしょう。でも絶対に一人で綺麗に着られるようになりますからね」


 笑顔でしたが、「なります」というより「させます」というような圧。

 これはここに通っていたら着られるようになるだろう、と、確信させられました。

 呉服屋主催の着付け教室だったので、きっと商品を買わされる流れだろうと疑っていたのに、それも皆無。あげく。


「古着は今、買い時よねぇ。価格がとんでもなく暴落してるわ」


 とか。


「洗える長襦袢は便利ですよ。でも夏物なら化繊より綿麻がいいわね」


 と、先生が本当に商売っけより現実目線のアドバイスをしてくださる人で。これも好感が持てました。

 化繊の洗える着物を咎めない先生が素敵でした。

 はっきり「着物は装い。時と場合によって使い分けること」として、「そこに時代を加味しながら装っていくこと」という感覚をお持ちの先生だった。

 びっくりしたのは、結婚式の装いを質問した時。


「友人でしたら、色留袖か振り袖か、訪問着。という形式はありますけれど。

 実際は、その式にあった着物が一番です。

 例えばレストランでのお式なんかで、ご結婚される方々もカジュアルな装いをしていたりする場合。振り袖は逆に浮いてしまって失礼でしょう? 洒落小紋や飛び小紋、江戸小紋なんかに格を落として、帯はちょっと豪華にする、なんかでも良いと思うんですよ。

 ようは、どのような装いがそのお式に相応しいか、心を砕くことが大切なんです」


 こういったことを、呉服屋さん主体の着付け教室で聞くのは意外でした。

 てっきり、訪問着でなきゃ、とか、最低でも色無地でないと格が、と言われるかと思っていたので。

 さらに先生が「単の着物は自分で洗濯しますよ。夏着物は特に」と、自宅での洗濯推奨派だったこともあって、私は教室に通い続けることにしました。

 この厳しくも実生活感溢れる先生には多々教えてもらうことに。

 良い出会いというのは本当に貴重だなぁ、と、心の底から思ったしだいでありました。








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