たぶん、大丈夫?


 二回、私は呉服屋さんにうちのめされている。それでもまた行こうっていうんだから、頭が残念なのはもうお察しですね!

 しかし、今回の私は違いますよ。下調べしました。

 とりあえず、黒留袖のクリーニングとメンテナンスだけ! 仕立て直しは絶対にしない!! それなら、まぁ許容範囲内のお値段でしたから。

 ちょっと良いジャケットスーツくらいのお値段で、クリーニングしてくれる呉服屋さんを調べて行ってみたのです。

 もし仕立て直しを口にしたら帰ってやる! くらいの気持ちで行ったけれど、普通の値段でクリーニングできました。

 ただ、お直し(やはり金が剥がれている箇所となんと畳紙たとうが張り付いてしまっている箇所があった)に、もう少しお金がいるけれど、それもバカ高くないことが分かり、ひと安心。

 の、ところに。やっぱりきました、催しもののお誘い。

 あー、きたきた。と、勘づいたわけですが。ここで、私の担当になったであろう女の子が少し気になってしまったのですよね。


 彼女は見るからに若い。聞けばこの春、社会人になったばかりだそう。接客も顔に出る出る。

 無理矢理にでも買わせたい店長と、そこまでゴリ押ししきれない女の子。

 このご時世、着物業界になんて飛び込んで、この子は大丈夫だろうかと老婆心ろうばしんにも思ってしまったくらい。

 何の気なしに、今流行りの漫画の話題をすれば嬉しそうに食いつき、大正時代の着物が自由で好きだと本まで持ってきて。さらに私が和洋折衷コーデの話をすると「店長には言えませんけど、着物にスカートって可愛いですよね! あれ、すごくやりたい」と、まぁ、今風の子で。

 彼女に興味が湧いたので、とりあえず彼女がいる時に顔を出しますね、と、お店を出ました。

 すると、お店からハガキ(おそらくノルマでしょう)がきました。

 催しものの日時、これはパターン通りだったのだけれど、担当の女の子は何を思ったのか、まさかの可愛い着物女子のイラストを描き、さらに着物業界の閉塞感を愚痴めいた文言でびっちりと書いてきたのです。

 なかなかに面白い子がいるものだなぁと、俄然、楽しみで出かけると、これまた買わせたい店長&反物工房の人が待ち構えていました。が、担当の女の子はとにかく押しが弱い。

 私がきっぱりと「買えないからね」と言うと、「ですかー」とあっさり引き下がる。

 一応「とりあえず巻かせてくださいー」と反物を巻きはじめるも、「あれ?」とわたふた。慣れてない手つきで「えりが上手くできないです」とちょっと落ち込みぎみになり、工房のおっちゃんに叱られるという、本当に初々しい感じ。

 しまいには「着物着なくちゃいけないけど、高くて。しかも今、古着屋が開いてなくて。最近引っ越してきたんですけど、土地勘なくて着物安く売ってるリサイクルショップも分からないんです。あつらえた方がいいのかなーって思うんですけど給料安いし、どうしたらいいと思います?」と相談してくる女の子。

 思わず着物を安く売っているリサイクルショップをこっそり幾つか教えると、嬉しそうに「店長に内緒で行きます~」とか言うので、ついつい仲良くなってしまいました。

 それに、どうやら彼女も着物初心者らしく、着ている着物の衿がパカパカしてしまうとか、衣紋が上手く抜けないとか、私と似たような着付けの困り具合。気づけば意気投合し一緒に着付け教室に参加することに。

 う~ん、もしかして、商売上手? そんなこんなで、ワンコイン着付け教室に参加することになりました。

 ちなみに、巻いた反物をきっぱりお断りしたら、工房のおっちゃんに露骨にヤな顔されたけど平気。

 歳を重ねると面の皮も厚くなるものですね! この調子で無駄遣いしないよう気を引きしめつつ着物が着れるようになりたいと思います。










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