第6話 魔術はお好きですか?

 地面に転がされた幾つもの骨。

 踏むたびにミシミシと音を鳴らし、白骨化したものから小蠅がまだ群がっているものまで様々だ。


「足元に紐が貼られているっす。どんな罠か知らないっすけど、注意することをおすすめするっす」


 一党パーティーは二列に並び、慎重に歩みを進めた。

 前から野伏レンジャー斥候シーフ、次に武闘家グラップラー魔法使いメイジ、最後に神官プリースト戦士ファイター

 索敵と罠感知は前衛が、敵が現れたら戦士と武闘家が前に飛び出し、野伏は一番後ろまで下がって援護する。魔法使いと神官は状況把握に徹し、斥候は後衛職の二人を守る。

 女神官は暗闇の中、隣を歩く幼馴染戦士の顔を覗いた。


「どうした」


「ん、何が?」


「俺の方を見ていたように思えたが」


「いや、緊張にしてるのかなっーって」


「している」


 ぶっきらぼうな言い方の割に帰ってきた答えは予想外のものだった。歩く姿や素人なりに武器を構える姿勢は堂々としているように思える。


「本当に?」


「嘘をつく理由が無い」


「そのようには見えないけど」


「洞窟の片隅でガタガタ震えて現状を打破出来るなら、とっくにやっている」


「あっそ」


 先頭に位置する野伏の肩がぶるっと震えた。

 背中に背負った弓を手に取り、後方へと叫ぶ。


「敵! 数は四!」


 前衛職二人が躊躇なく前へ飛び出す。

 現れたのは小鬼ゴブリンの集団。手には斧や円匙スコップ、一番後ろには杖を持った者までいる。

 野伏は弦を目一杯引きつけ、呪文使いのゴブリン目掛けて矢を放った。

 狙いは上々、速度も申し分ない。


「あっ!」


 だが、敵も勿論警戒している。

 味方を前に差し出し、盾代わりにして難を逃れた。

 眼窩がんかに矢を立てたゴブリンが後方へ倒れる。


「GAGHLOO!?」


 斧を持ったゴブリンが野伏に飛び掛かる。

 男戦士は盾でそれをはたき落とし、首元に剣を突き立てる。ブクブクと泡を吹き、動かくなるまで抜かない。


「うわっ!」


 円匙が風を切る。

 武闘家の顔に泥が掛けられた。

 ゴブリンの悪足搔き。

 目元を拭いながら咄嗟に距離を取る。


「JAGATTTOGA!」


 武闘家の攻撃範囲は四肢の届く範囲。

 どうしても敵の間合いに入らなければならない。

 怒り狂ったゴブリンは円匙を振り回し、威嚇を続ける。

 そこへ一本の矢が敵の肩を抉った。

 カランコロン、と武器が手から落ちる。


「う、うわぁぁ!」


 悲鳴にも似た咆哮を上げ、手甲を嵌めた拳が小鬼の頭部を凹ます。

 脳脊髄液のうせきずいえきが飛び散った。

 剣や矢と違い、殺した時の感触が手の甲を伝って直に感じる。

 武闘家は思わず顔を歪めた。今までに触れたことの無い感触に生暖かさ。今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯だった。

 それでも彼が逃げ出さなかったのは、森へ逃げた一党パーティーの中に恋人がいたからだ。


「は、はぁはぁ……」


 残るのは杖をもった呪文使いらしきゴブリンのみ。


「もう一発矢を撃ちます! 皆さん、援護をお願い――」


「魔術がくるぞ! 下がれ!」


 魔法使いが叫んだ。

 魔術発動の気配。

 戦士と武闘家は一斉に後方へ走り出した。


「GAAGOHUEHFLJ!」


 真に力ある言葉は世界の理をくつがえす。

 どこまでも深い闇が一党を覆った。

 周りが何も見えない。濁った悲鳴が洞窟内を木霊する。

 小さく舌打ちをし、戦士は足早に闇を駆け抜けた。

 ここにいたって状況は良くならない。このままでは奇襲を受けるだけだ。


「こっちだー!」


 やがて小さな光の下へ出た。

 携帯用照明ランタンの光だった。

 壁に不気味な影を生み出している。


「全員無事か?」


 魔法使いの言葉にみな顔を見合わせた。

 野伏、斥候、武闘家、魔法使い、神官、そして戦士。

 計七人・・の影がランタンに照らされ、揺らめいだ。

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