死にぞこないの腐敗勇者

乙女座野郎

第1章

第0話 血も滴る良い男はお好きですか?

 腹部から臓物が溢れ出る。

 敵の胴体を突き破った槍の主は興奮を隠しきれない。


 忌々しい奴を殺せることがこんなに心地良かったとは。

 日本ではナイフを常時しているだけで変人扱いされた。

 それがどうだ。

 この国では、この世界では!

 勝者こそが全てだ!

 学校のムカつく奴らもこの世界に来ているだろうか。

 もし会えることが出来たら、こいつのように――


 命の灯が消える寸前まで、槍の主は自分の死を感知できなかった。

 確かに敵のどてっぱらには風穴が空いている。

 湯気の立った内臓、熱湯と化した血は辺り一面を色濃く染めている。

 それでも。


「……大丈夫?」


「問題ない」


 矛を己の身体から引き抜き、幼馴染は先端に触れながら武器の検品を始めた。

 焼け石に水なのは承知の上。

 雑嚢から手拭いを引っ張り出し、彼の顔に飛び散った返り血を拭き取る。


「もう少しスマートなやり方はないの?」


「あるならやっている」


 検品の方はどうやら満足だったらしい。

 何人も切り捨てた短剣を捨て、今度は槍を担ぐ。

 長さも重さも彼には合っていないように見えるが、それでも刃の欠けた短剣よりはマシなのだろう。


「私としては、あまり無茶をしないでほしいんだけど」


「無茶ではない。この体質を最大限有効活用した戦い方だ」


「殺したと思わせて、隙を突くこのやり方が?」


「さっきの奴の顔を見てみろ。自分が死んだなんて思っていない」


 身体から切り離された頭部は血の池に沈んでいる。

 

 生命の感じられない痙攣を見たのはこれで何度目か。

 もう人の死を見ても動揺しなくなった、いや、動揺出来なくなってしまった。

 赤く染まった両手を敵の服に滑り込ませ、金品を掻っ攫い、最後には服まで脱がせる。

 死者への冒涜もいいところだ。


「行くぞ」


 吐き捨てるような彼の言葉はいつだって冷徹に聞こえる。

 ほんと、手のかかる幼馴染だ。

 十数年の付き合いがある私だから良いものの。

 他の人に言うときはもっと言葉を選ばないと。


「ふふっ」


 それでも、彼は変わっていない。

 私がしっかりと後ろをついて行くのを目で、耳で、音で確認しながら歩く。


「どうした」


「べっつにー」


 いつの間にか頼もしい背中をする彼を見て、ふと昔の事を思い出した。

 この世界に来た、最初の頃を。

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