第5話 ホラーを見よう

 翌朝。

 

 手短に朝食を済ませ、学校に行く支度もまたぱぱっと済ませて家を出た。

 学校は歩いて通える距離にあるため、朝は電車通学の人に比べて余裕がある。

 

 しかし女子というのは朝大忙しなようで、また今日も七奈の家の前で七奈のことを待つことになりそうだった。

 これはいつものことなので、待ち時間用に持参しているワイアレスイヤホンを耳につけ、流行りの曲をかける。


 最近はクイーンヌーの『白目』って曲にハマっている。今大人気の曲だ。

 中毒性があって、ボーカルの声が寝ぼけた頭を起こしてくれるのでアラームにもしていた。


 数分後、七奈が万全の状態で家から出てきた。


「お待たせー」


「おう。じゃあ行くか」


 イヤホンを外して、並んで登校する。

 前も言ったが登下校を共にするというのは小学一年生のころからの習慣であり、七奈は歩けば必ず誰かが振り返るほどの美少女だが、そんな七奈と歩くのはもう慣れている。


 そのため、「あいつ誰だよ。冴えねー」といわれることは慣れっこである。

 周囲の評価などくそくらえ、と常に思っているし、周囲を気にしすぎては自分が狭くなってしまうような気がするのでもはや堂々の域にまで達していた。

 

 今なら悟りを開けると思うほどである。


「今日の数学の課題学習終わったか?」


「まぁ一応終わったわ。結構時間かかったけど」


「ほーん」


 こんな脈絡のない、なんの面白みもない会話をすることも慣れっこである。

 ちなみに、自分が発展性もない、一瞬で終わる会話をしていることは自覚している。

 コミュ力が低いのだ。


「そういえば、私昨日ネッ〇フリックスで見たいホラー映画見つけたんだけど、今日の放課後見ない?」


「俺の家?」


「そのつもりだけど」


「了解ー」


「じゃあ放課後、ほかの人と予定入れないでよね!」


「俺に放課後予定できたことあるか?」


「……謝るわ」


「謝んなよ! まぁ誘導したのは俺だから結果俺が悪いんだけどさ」


 ただそこは少し「うーん」とうなるくらいには心当たりあってほしかったというのが本心で、俺ってまさかの乙女心の持ち主なんじゃね? と思ってしまう。

 しかし本当の俺はただの男子高校生。乙女もくそもないのである。


「まぁとりあえず放課後、逃げるの禁止ね」


「はいよー」


 ホラーは別に苦手じゃない。

 というかある意味あのノートはホラーと同じで非現実的なカテゴリーだよな。


 そういえばあの予言が正しければ、俺の部屋で抱き着かれるということなのか?

 それにホラーってジャンルだし、何気にホラーを全力で怖がることを七奈は楽しみとしているので、抱き着かれる可能性はやはり高いのかもしれない。


 あらかじめちゃんと自分の部屋を掃除していた自分をほめる。勲章ものだ。


 さらにノートが現実味を帯びてきた。

 ホラー展開なら間違いなく、あの予言の末に『明日、お前は死ぬ……ってか死ねぇ!』と書かれていただろうな。


 ……大丈夫かな? ほんとそういう展開にならない? 急に現実恋愛から作者の気まぐれでホラーにジャンル変更とかされないよな⁈


「ど、どうしたの急に怖がって」


「いや非現実的って恐ろしく怖いよなって。やっぱりいいことにはリスクが伴うよなって」


「……慶ってやっぱり頭おかしいわね」


「うるっせ!」


 もし頭のバグった末の予知ノートなのだとしたら、それもそれで嫌だなと思いながら、冷めた目をこちらに向ける七奈に程度の低いツッコみを入れる。


「あと慶の家に行く前に、コンビニ寄ってホラーのおともに甘いもの食べたいわ」


「よくホラー見ながら甘いもの食おうと思えるな」


 気持ち悪くなったりしないのかよ。

 ただそういうことに関しては、七奈の神経は図太い。ツンデレだし、まっすぐだし。

 

 誰に対してもこんな感じだけど、学校では人気を博している。堂々としていて、女子生徒からは憧憬の眼差しを。男子生徒からは異性として好意の眼差しを向けられている。

 それが俺の幼馴染であるということに、もうずいぶんと慣れたが。


「そういうことで、よろしく頼むわね」


「ん、何が?」


「エクレアかなぁ」


「ん、何が?」


 「言わなくてもわかるでしょ?」という視線を向けられ、その意を感じ取った俺は深い溜息をついた。

 

 こんな風にダラダラと話をしていたら、あっという間に学校に到着していた。

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