第2章 もう一つのパワードスーツ

第9話 発見

『ヒューマノイドの現在地が分かりました。実験区にあります』


 エルノアは中央管理室の制御端末にアクセスし、ヒューマノイドの現在地を空間に映しだした。


「実験区に行くには?」

『今いる中央管理室から、3時の方向に降っていけば実験にたどり着きます。居住区を通過する必要がありますが、問題はないでしょう』

「分かった。しっかり準備をしてから向かおう」

『了解です』


 ヴァリアブルソードと新たなスキルを手に入れた俺たちは、別の電力制御室に向かい、コロニーの電力を回復させた。


 そして現在、今いる中央管理室へと辿り着き、エルノアのヒューマノイドがある場所を特定した。


「そうだ、ここまでモンスターと戦うことがなかったからさ、この機会にヴァリアブルソードと、手に入れたスキルと魔法を試さないか?」

『了解です』


 というわけで、ヴァリアブルソードから試してみる。


 今は指輪の形をしているが、こいつは契約者のイメージを読み取り、姿かたちを変える魔剣だ。


 まずは、慣れ親しんでいた片手剣をイメージする。すると。


『形が変わりましたね』


 指輪が光り、片手剣へと变化した。


「本当に剣になった。それに、どことなく黒剣を連想させるような刃の色だ」


 鑑定を発動し、形が変わった魔剣を確認する。


 ヴァリアブルソード(片手剣):世界最硬度を誇る金属、オリハルコンを使用した魔剣。ヴァリアブルソードの通常形態。


 オリハルコンだと?

 あの伝説の中でしか存在しないという金属を、この剣は使っているのか。


『オリハルコンですか……とんでもない金属ですね。……金属ということは、これを素材にしてパワードスーツを作れば、最硬度のパワードスーツが作れるのでは?』

「エルノア、それは無理な話だ」

『何故ですか?』

「過去に大勢の冒険者が、オリハルコンを探したけど見つからなかったんだ。今はたまたま、それを素材にした武器を持っているけど、本来なら世紀の大発見なんだぞ」

『なるほど、なら諦めたほうがいいですね。ですが、ちゃんとした施設や設備があれば材質を確認できるのに』

「確認してどうするつもりだ?」

『もちろん、パワードスーツに取り込みます』


 エルノアの話には俺も賛成だが、それは絶対に無理なことだ。

 しかし、オリハルコン製のパワードスーツか……案外すでにあったりして。


『オリハルコンで話が脱線しましたが、他の武器にも形を変えませんか?』 

「そうだな……じゃあ次は大剣で」


 あれから色々な武器をイメージし、ヴァリアブルソードの形を変えていった。

 どんな武器にもすぐに変化するので、「変幻自在の魔剣」というのは伊達ではない。


 ヴァリアブルソード一通り試し、次はスキルと魔法を確認する。


「まずは転移だな」

『お願いします』

「それじゃあ、この部屋の入り口をイメージして……転移!」


 発動したが、なにも起こらない。


「あれ? 不発?」

『ちゃんとイメージをしましたか?』

「したはずだぞ? う~んヴァリアブルソードと違って、正確なイメージをしないとダメなのかな……エルノアもやってみて」

『分かりました。具体的な場所をイメージすればいいのですね……転移』


 首にかけていたペンダントが、白く光るマナに包まれ、中央管理室の入り口へとワープした。

 俺は慌ててペンダントがある場所へと向かい、首にかける。


『転移が無事発動しましたね。使えれば有効なスキルですが、転移したい場所を正確にイメージをしないと発動できないのが欠点ですね』

「だよな……それにエルノアが転移を発動すると、俺は置いてけぼりを食らってしまう」

『それも課題ですね。このスキルの使い所は要検討です』


 転移があれば、すぐにダンジョンから脱出できると思ってたけど、現実は甘くなかった。


「じゃあ、次は無詠唱だな」


 こうして、俺たちは貰ったスキルと魔法を試していった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「なぁエルノア、そろそろ終わりにしないか?」

『終わりですか? まだまだ試したいことが山程ありますが』

「もう数日も過ぎてるよ!」


 あれから、エルノアが調子に乗って色々と試していた。

 俺はそれに付き添わされ、気づいたら三日も経っていたのである。


『……分かりました。基本的な使い方は試したので、そろそろ出発しますか』


 俺の思いが届いたのか、エルノアの確認作業がやっと終わった。


『では、改めて私のヒューマノイドの現在地を確認します』


 制御端末にアクセスし、ヒューマノイドの場所を映し出す。

 数日前と同様に、ヒューマノイドは実験区にあることを示している。


『ヒューマノイドは数日前と変わらずですね。パワードスーツを装着して実験区に向かいましょう』

「分かった、早速向かおう……うん? 居住区に青いマークがある」


 実験区に行くためには、居住区を通過しなければならない。

 その居住区に、謎の青いマークがあった。


『このマークは……パワードスーツです!』

「パワードスーツ?」

『私たち以外のパワードスーツの反応があります。それに……動いている?』


 青いマークは規則的な動きで、居住区の中を移動している。


 まるで、徘徊しているように。


「……居住区を通らないで、実験区に行くルートはあるか?」

『ありません。コロニーの外壁を破れば行けますが』

「それはできないだろうな」


 こうしている間も、青いマークは動いている。


「なにが待っているのか分からないし、戦うことになるかもしれない。だけど、ここに行く準備はできている。そうだな、エルノア?」

『……はい、準備はできています。この先なにが待っていようとも、私たちなら大丈夫です、クロス』

「ああ、俺たちならなんとかなる。行くぞ!」


 あのパワードスーツの正体が分からないが、エルノアのヒューマノイドまで、あと少しのところまで来ている。


 ここで引き返すという選択肢は、俺たちにはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る