12:天魔八将

魔王城ーー


「皆さん、お集まりでしょうか?」


 キリッとした女性が部屋を見渡す。

 彼女は『天魔八将』の統括を務める

 堕天使のフォリン。

 魔王様が魔王となる前から仕えていたと

 聞いている。

 黒い髪と黒い翼を持つ、魔王様の右腕。

 実力もあり、頭も切れる。

 魔王様からの信頼が厚く、

 能力を見込まれて

 天魔八将のまとめ役を担っている。

 ちなみに魔王様の愛人であるという噂がある。

 実際の所は不明。


「まだブラドが来ていないようだが。」


 今、声を発したのは『天魔八将』、

 暗黒騎士ペトロフ。

 元人間ではあるが実力は確かだという。

 ウルフが殺した『鬼神のオーガス』の

 後釜に入った。

 なのでコイツだけは彼とは面識がない。

 公式ではないが、あのブラドに勝ったと

 言われている。

 しかし、これは眉唾ものの噂だ。


「彼は、構いません。」


 ブラドが来ないのは

 わかっていたことなのだろうか?


「それで? 魔王様はどうしたの?」


「魔王様はここには来られません。」


 魔王様がこない?

 『天魔八将』を全員召集して?


「どういうこと?

 私たちは魔王様に呼ばれたのよ?」


「魔王様は現在、少々厄介な案件から

 離れられない状況にあります。

 なので私が魔王様よりお言葉を

 お預りして参りました」


 厄介な案件?

 それはブラドがいないこととも

 関係しているの?


 どうにもあの一件依頼、

 私はその動向が気になって仕方がない。

 何か悪いことが起きそうな気がして……。


「ふん! ならば早く話すといい。

 私の軍は現在、敵と交戦中なのだぞ。

 早く戻らねばならん」


 黒い軍服に燃えるような赤髪。

 彼女は『天魔八将』不死鳥のフェニス。

 頭の硬い、軍人の鏡のような女。

 正直苦手だ。

 彼女の軍は今現在、魔王反乱軍と交戦中らしい。


 とは言っても、魔王軍の歴史の中で

 魔王反乱軍がいなくなったことはない。


 誰が魔王になっても必ず発足される。

 歴史上、魔王軍はずっと反乱軍と

 小競り合いを続けている。


 ただ反乱軍の規模は

 それぞれの魔王様に寄って違うようだ。


 今回の反乱軍はさほど大した数でもない。


 反乱軍への対処は持ち回りで

 『天魔八将』のそれぞれの軍が相手をしている。


「では、魔王様からのご用件をお伝えいたします」


 場に緊張が走る。

 魔王様からの直々の用件。

 ことは魔王軍全体の問題であるのは確かだ。


「ブラドが離反しました」


「ブラドがっ!」


 ブラドは『天魔八将』発足からの古株のひとり。

 何代も前の魔王様の時からだ。

 それが今になって離反!?


 先日のあの時のことを思い出す。


 おそらくはウルフに話していた

 『準備』というのが関係している。

 帰ったら彼に伝えないと!


「そこで皆様からのご意見が欲しいのです。

 特に『九尾』さん。

 貴女のご意見は非常に有用です」


 そこで急に私の名前が挙がった。

 初めは理解出来なかった。


「……いったい何のことかしら」


「魔王様の目は誤魔化せません。

 あなたが人狼のシリウスと繋がっていることは、

 魔王様もご承知しております。

 彼と共に人間の支配圏にいることも」


 バレてた! ヤバいどうしよう!!


「しかし、魔王様はこれを不問とすると

 仰っております。」


「そんな馬鹿な話があるか!

 例え『天魔八将』であろうと人間の支配圏に

 無断で入るのは重罪だろ!」


「はい。ですので、

 あくまでも貴女が大人しく話してくれたらの

 話です」


「…………。」


 ここで彼のことを話すのは彼に対する裏切りだ。

 自分の身可愛さにそんなことは出来ない!


 でもどうしましょう!


 ここで何も言わなくても、話からして

 魔王様には彼の居場所も知られてしまっている。


 ここで私が捕まってしまっては

 彼にその事を伝えることが出来ない。


「話して貰えませんか?

 それでは次の条件を提示しましょう。

 貴女だけではなくシリウスの人間支配圏への侵入、

 及び貴女方の今後、この件に関わる

 如何なる行動も一切を不問と致します。」


 私は驚かずにはいられなかった。

 あまりにあり得ない条件。

 この件とはブラドの件ということで

 間違いなさそうだけど。

 魔王様は一体何をお考えに?


「ふざけるなっ!

 そのシリウスとかいう人狼が誰かは知らないが、

 『天魔八将』でもないザコに

 許すような条件ではない!」


 コイツさっきから五月蝿いわね。

 余計なことばかり。


「シリウスは我と魂の楔で繋がれし永久の同胞。

 奴を軽んじるような発言をするならば、

 貴様は永遠に地獄を彷徨うことになるぞ」


 あの何言ってるかわかんない緑の髪の

 チビッ子は『天魔八将』封印竜ドラコ。


 少年のような見た目だがこの中でも最年長者。

 でも何言ってるかよくわからないことが多い。


 いつも眼帯として、腕に包帯を巻いている。

 噂によると目も腕も傷があるわけでもないし、

 目も普通に見えているらしい。

 なんでしているかは謎だ。


「シリウスか……確かに奴が居れば、

 我らの軍の力は一気に強大になるだろうな」


「人狼一匹で!? ハッ! 馬鹿馬鹿しい!」


「シリウスは貴様以外のここにいる

 『天魔八将』の全員を退けた猛者だぞ」


「ハッ!そんなのはお前らが

 ただのザコだったってだけだろ?」


「貴様……もう一度、言ってみろっ!!」


「鎮まりなさい……」


 フォリンが重苦しいオーラを放っている。

 威圧のオーラ。


 これはこの地上に住まう

 すべての者の上位存在である天使の特性のひとつ。


 殺気や闘気の様なものではなく、

 上位の存在に対して本能的に威圧されるのだ。


「ペトロフさん、貴方はまだこの中でも新参ですよ。

 もう少し自分を弁えてください。

 そしてフェニスさん。

 貴女の方は『天魔八将』の中でも古株。

 自分の感情を律することを覚えてください。

 ……それにこれは魔王様が

 お決めになったことです。

 それでも、魔王様に意見があるというなら

 今、申してください」


 あの言い方をして意見できる者なんて

 この場にはいない。

 流石は、『統括』。

 言葉だけでこの場を制してしまった。


「ペトロフさん、宜しいですね」


「……了解した」


「誤解なき様に言いますが、

 これは彼女等を『特別扱いするもの』

 ということではありません。

 それだけこの件が重要であるということ。

 それだけの価値がある情報、ということです。

 その事を皆さんにも重々承知していただきたい」


 困ったわ……。

 まさかこんな話になるなんて思わないわよ!

 私、どうしたらいいの!

 助けてよぉ!ウルフぅ!!


「……私の口から『彼』のことは話せない。

 でもブラドとのことは話すわ」


 もはや妥協点を探りながら話すしかなかった。


 私は『彼』と地下通路で起きた出来事と

 彼とブラドの関係を話した。


 ただし今、彼の暮らす環境や状況は伏せて。


 でもこれは彼にちゃんと報告しないと……。

 大丈夫かしら! 私、怒られないかしら!


 私が話を終えた後は、

 最近までのブラドの動向について

 各自の八将からそれぞれが知りうる話を聞いた。

 その中には目立って有益な情報はなかった。


 話し合いの末、全軍から抜粋した者を

 ブラド捜索に当て、ブラドの起こそうとしている

 何かの兆候、又はその事態に

 必要なだけの人員を持って撃破することとなった。


 ブラド自身には捕縛が最も好ましいが

 難しければ殺害の許可も降りている。


 ただ彼の能力を考えると

 どちらも難しいように思える。


 本当に厄介な相手だ。


「本日は以上で解散としますが、

 最後に何か言いたいことが

 残っている方はいますか?

 ……セレンさんは宜しかったですか?

 ここに来てまだ一言もお話していませんが?」


「わ、私は……大丈夫……です」


 おどおどしている彼女は

 『天魔八将』人魚姫のセレン。

 正直、この場にいるのが

 相応しいようには見えない。


 この場にいるほとんどは実力で選定され

 この場にあるが彼女だけは違う。


 魔族の中で水軍を保有するのが

 彼女の一族しかいないからだ。

 先代は彼女の父だったが引退して、

 彼女を後任者に指名した。


 先代の方は威厳も実力も

 申し分なかったのだけど……。

 何故彼女を後任にしたの?


 彼女自身は気が弱く、口数も少ない。


 あと余談だが服を着ていない。

 恥ずかしがりやなのになんで服を着ていないの?

 下半身は魚のような鱗で覆われているかも

 知れないけど上半身は裸よ!

 確かに綺麗な肌をして、

 スタイルは抜群なんだけど。


 人魚に服を着るって文化がないのは知っているけど

 どうにも見慣れることができない。


 いけない。

 今はそんなことより、今後のことを考えないと。


 とりあえずは帰ってウルフに相談ね。


 本当に大丈夫なのかしら……。


「それではこれにて軍議を終えます。

 各自、魔王様のため、ご尽力をお願い致します!」




クレアの家ーー


「ただいまー」


(お、帰ったか。ギリギリ夕食に間に合ったな)


「はぁー、疲れたー」


(だいぶお疲れみたいだな。何かあったか?)


「結構、話さないといけないことも多いから

 夕食の後に話すわ」


(おお?了解だ)


 私は子狐の姿に変わる。

 身代わりの人形も消さないといけない。

 と、思ったけど……。


(ところで……。なんで私の人形はこんなに

 ボロボロになっているの?)


(ん?そうか?まあ、昨日はハッスルしたからな!)

 ※クレアが。


(なっ!私の人形に何、変なことしてるのよ!)

 ※ウルフが。


(ん?変なことなんて……。)


★昨日の変なこと一覧★

・扉をぶち破る。

・シチューに顔面ダイブ。

・水没。

・天井貫通。

・コサックダンス。

・キュウビ人形を生け贄に安らぎの眠りを召喚。


(……していない)


 彼は目を背ける。

 確実に何かしている!

 嘘でしょ!

 なんで人形なんかに!?

 もしかしてそういう趣味なの?

 お人形が相手じゃないと駄目なの!?


(ちゃんと私の目を見て言いなさいよ!

 ……やっぱり私の人形を弄んだのね!)


(違う!俺は真剣に!)


 もう間違いない。


(真剣にって!……なお悪いでしょ!)


(何故だっ!)

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