カッシーと精霊

家つくりスキルで異世界を生き延びろ4巻発売記念として

SS第一弾

(四章まで読んでいただけてたら問題ないです)


**********




 カッシーは成人の儀を受けてすぐに里を飛び出した。締め付けの厳しいエルフの暮らしに飽き飽きしていたし、せっかく念願の姿に転生したのだから自由に生きたかった。保守的なエルフの暮らし方が合わなかったのもある。

 しかし、弓矢の技術に関しては幼い頃から教わっていたので、狩りをして食べることはできた。けれど、成人になったばかりの少年が「自由気儘」に生きるには少々見通しが甘かった。結局、行き倒れたところを偶然にも同じ転生者の少女に助けられた。

 その少女カロリンの家出を手伝って、二人は冒険者として生きることになった。

 まずは生きる。それが第一なので、得たばかりの精霊スキルについては精査する暇もなかった。「レベル上げ? なにそれ」状態だ。

 そうこうするうちに別の転生者に目を付けられ、呪われ、精霊が全く見えなくなった。憧れの精霊と触れ合えなくなったのだ。それはもう落ち込んだ。

 けれども人生なんとかなるもので、カロリンに助けられた時のように、今度はクリスという少女の縁で呪いが解かれた。実際に解呪してくれたのは精霊だ。

 そう、あれほど憧れていた精霊によって、呪いが解除されたのである。

 カッシーが喜ぶのは当然だった。



 その精霊は名をハパといった。クリスを気に入って、彼女の後を追うように旅に付いてきた。カッシーもまたクリスの仲間になった。カロリンももちろん一緒だ。しかもクリスには加護を与えてくれたという精霊が他にもふたりいた。ドワーフっぽい姿の小さなプルピと、蓑虫型のククリである。

 カッシーは喜んだ。大いに喜んだ。別にそれが目当てではなかったけれど、クリスと一緒に旅が出来て良かったと思う。

 何よりも、カロリンと二人だけの旅に少し疲れていた。彼女が悪いという意味ではない。お互いしか頼れる相手がいない、それが精神的に堪えていた。呪いを受けてからは特に追い詰められていたのだろう。

 ところがクリスと出会った。小さい女の子ながら一生懸命生きる姿に、カロリンのみならずカッシーも胸を打たれた。珍しい「家つくり」というスキルを使って作る家も、面白い。

 クリス自身が住まいにもして移動の手段にもなっていた家馬車もすごかった。触れているだけでスッと楽になれるのだ。不思議な心地だった。屋根に乗せてもらったらワクワクした。少し視線が高くなっただけなのに、何故か大きな木に登ったかのような錯覚に陥る。里で遊び回った時のような楽しさだった。

 旅を一緒にと話した時にはクリスの保護者である鬼人族のエイフもいたけれど、彼もまた安心できる冒険者だった。

 その全てに、カッシーは安堵したのだ。休めるとも思った。たまには力を抜いていいのだと安心できた。

 それはカロリンも同じようで、同じパーティーとして受け入れてくれたクリスに感謝していた。もちろん、エイフや精霊たち、そして同じ転生者なのに何故か妖精になっていたイサにも。



 そんな安心できる旅の間に、カッシーはなんとか精霊と友好を深めたいと思っていた。

 ただ、彼等はクリスが大好きだ。彼女が一番だというのを忘れてはいけない。

 当然だが、クリスからその立場を奪おうだなんてことは一切考えていない。ほんの少し、付き合ってもらえたら。

 そのためにも必死に絡んでみたのだが、まあ最初は逃げられた。


「どうにも態度が気持ち悪い。しまらぬ顔をしておるからな」

「えー、そんなぁ」

「ククリも『や!』と言っておったぞ」

「可愛かったですよね!」

「……そういうところなのではないか?」


 と、呆れた風だ。プルピは大人の対応で話をしてくれるが、彼も塩対応だった。というより、たぶん、興味のない人間にはああなのだろう。

 ハパの方がまだ仲間になって日が浅いので仲良くなれるチャンスはある。

 本当はククリが一番可愛いのだけれど、とことん逃げられているので仕方ない。

 ちなみに妖精のイサも可愛いが、彼は元日本人だ。同じ男だったということも加味されて、かつ精霊スキルとは関係ないという理由もあって可愛がるつもりはなかった。

 ともあれ、カッシーは呪いを解いてくれたという感謝の気持ちを理由に、ハパにせっせとゴマすり&おべっかを使った。

 クリスなどは「あからさますぎる」と言っていたけれど、案外通じるものだ。

 ハパは段々、カッシーに慣れてきた。



 そんな日常を経て、事件は起こった。

 新装開店したばかりの闘技場で、何故かニホン組と戦闘試合になったのだ。

 相手が卑怯な手を使ったと分かって、カッシーは大声でハパを呼んだ。来てくれるかどうかは半々だった。来てくれたとしても、クリスを思ってのことだろう。

 実際、ハパはちゃんと現れた上に、カッシーを助けてくれた。

 クリスの仲間だから助けてくれたのだとしても、嬉しかった。

 皆で褒め称えているとドヤ顔になるハパも可愛い。

 そのうちに、自分が精霊スキルを使ってハパを呼んだことが実感として湧いた。だから、ついつい泣きながら「すごいです~」とハパを褒めたのだが――。

 皆がドン引きした。

 ところが、だ。肝心のハパが引くどころか喜んだ。しかも見所があるとまで言ってくれた。


「ハパさん!」


 クリスから手渡されたハパを抱き締めて「さすがです」と叫べば、彼は満更でもないといった態度で胸を反らした。

 どうやら普段のクリスが塩対応なので、褒められたのがよほど嬉しかったらしい。

 その後も時折チラチラとカッシーの方を見るので、これは出番だとハパを褒め続けた。カッシーはヨイショが得意だ。

 イサもそうだけれど、自分たちはどうやら先輩方をヨイショして気持ちよくさせるのが上手い。パシリをやりつつも、実はちゃっかり休んでいるし、自分のしたいように動いている。

 となれば、前世で得た世渡りを今生で総動員し、上手くやろう。


「ハパさーん、ナイスですー。めっちゃ飛行が楽でしたー」

「おお、そうか!」

「さすが上位精霊! よっ!」

「うむ、うむ。カッシーは分かっておるな」

「へへー」


 ですよね、ですよね、とゴマすりよろしくハパに阿っていると。


「カッシー、あなた、鼻の下が伸びているわよ」

「デレデレになってるよね」


 カロリンとクリスに白い目で見られた。しかも。


「くく、かしー、や!」

「えぇー、ククリちゃん、そんなぁ……」

「ピルゥ」


 イサにまで溜息を吐かれてしまった。

 エイフはといえば呆れた顔で、プルピも似たような雰囲気だ。

 けれど、せっかく得たハパの好意を逃したくない。カッシーはこれからもハパを褒め称えようと決めた。もちろん、可愛いククリにだっていつか振り向いてもらいたい。大人対応のプルピにも。


「でもほら、皆で仲良くした方がいいと思うし!」

「今更キリッとした顔をしてもダメよぉ。さっきの崩れ顔、忘れられないもの」

「まあまあ、カロリン。仲良くなるのは良いことだよ。特にカッシーは精霊スキルがあるんだもん。ね?」

「うん、そうそう。だから、仲良くしよう!」


 プルピは呆れつつも「カッシーの一大事があれば呼ばれてやってもいい」と返事をしてくれた。ハパは胸を張って「精霊スキルを使うと声がよく通るのだ、聞こえが良い」と少しズレた答え。でも言い換えれば「呼ばれたら行ってやろう」になる。

 さて、ではククリはどうか。


「かしー、ぴゅっ、する?」

「ピルル?」

「ぴゅーん、する」

「……それはカッシーをどこかに移動させるって意味かしら?」


 カロリンの台詞に、カッシーよりもクリスの顔が青くなった。慌ててククリを掴まえて「ダメだからねっ?」と懇々と諭し始めた。


「まあ、ゆっくり仲良くなればいいだろう。焦るな、カッシー」

「エイフさんの優しさが身に染みるなぁ……」


 もちろん、いきなり仲良くなるなんて無理だ。徐々に親しくなれたらいい。

 できれば精霊スキルなんて使わなくても駆け付けてくれるような、そんな関係が築けたら一番だ。

 精霊スキルは、ハパが話した通り「声を届ける」能力のようなもの。そして、レベルが上がれば強制的に精霊を従えさせるものだ。

 そんなスキルは、なるべく使いたくない。

 カッシーが思う精霊との関係は「友達」だ。

 そうなれるよう、これからも自分の全力を使おうと思った。




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