第2話 概要

 さあ『お姫様の婿養子になってくれる』とかいうトンデモ条件を飲んでくれる殿方を探さなければならなくなったわけだが――


 それ抜きにしてもこの姫、この国、そしてこの世界そのものについて僕は知らなすぎる。婚活を手助けしなければならない以上、交渉の場が増えまくるってのを頭に入れておかなきゃなんだよな。無礼を働きなんてしたら確実に首が飛ぶ。おーこわ。


 姫、と呼びかける。

 他のお偉いさんは「無知は罪だー」とか仰ってきそうなのでこうする他ない。


「なんでしょうか? もしかして、もう婚姻の目処がついたのでしょうか??」


 早すぎるわ。あなたねぇ、会ってもない奴と『よし結婚!』だよ? 怖いとかないの??


「いえ、そうではなく……この世界や姫のことを何も存じ上げないので、まずはそのあたりのことについて、説明をくださると私も策を講じやすいかと思いまして」


 素直に教えてもらう。これで罪扱いされたらたまったもんじゃないけど、初回だし、こっちは救う立場だし、なんやかんやで許してくれるでしょ。おじいちゃんズに聞こうとも思ったが、『姫のことについて』知るためには本人に聞くのが一番早い。

 どうやら速度重視の御方らしいので理由さえ言えば納得してくれそうだ。


「ではまず、この世界のことから。一言で表すと、『海』……ですかね」


「海?」


「ええ。遥か昔に『地』の力を持つ者がこの世界に降り立ち、人々に多くの技術をもたらしたそうです。そしてここを『海』と名付けられました」


 天・海・地ってか。微妙なジョークをぶち込むあたり、地の者とは馬が合いそうな気がしないでもない。しかし、天が技術をもたらすならまだ分かるんだけど、また違う能力者が出てくるとはな。弱っちぃスキルでもいいから僕も欲しかったなぁ……


「なるほど。では次に姫、あなたのことをお聞かせ願えますか?」


「そうですね……名前がアリシア・ソーラ・ヴィ・モーリで、歳は十七です。

まあ、他に私についてお話するようなことは恐らくございませんね」


 お、同い年。っていうのはどうでもいいか。

 ちょっと親近感が湧いてきたぞ。


「あ、それと。二人でいる時は無礼講でいいわよね? あんたもさっさと名乗りなさいな」


 わーギャップ萌えだー。

 アリシア様が蟻を見るような目で仰っておられる。

 ああ、ありがたい、ありがたいと心中はヤケになってしまっている。


「分かったよ。僕は西場麻理せいばまり。あなたと同じ十七歳で、今まで人を好きになったことがないのに婚活の手伝いをさせられる哀れな奴さ」


 置かれた状況が決して良くないからこそ、嘆くことが逆に心の安らぎになっている。

 アリシア姫は『二人でいる時は無礼講』と言った。つまり今のように本音をぶつけられる環境を構築したということ。こんなに人に気を配れるのになぜ僕を呼んだのか……そしてもう一つ気になること。


「地の技術というのは、具体的にどのようなものなの?」


 特殊能力の線を切って、地の技術を会得する作戦。

 一端の人間ができる業じゃないんだろうけど、まあ可能性の話ってことで。


「それこそ、こうやって会話してるじゃない。地の者は文字ではなく言葉で意思疎通を図るのが主流で、ご先祖様はひどく感動したみたい。それで代々この言語が受け継がれていって、私も小さい頃に覚えなきゃでホントに大変だったわ」


「え? これが技術なの!?」


「驚きすぎよ。というか従者にその態度がバレたらあんたどうなるかわかってんの?」


「ごめんごめん。いやー、僕がいた世界ではこの言語が使われてるからさ、なんか拍子抜けちゃって。なんで会話がスムーズにできるのか気になってて、そういうことかぁ! って」


 確かに妙だ。夢と思い込んでいたから自然に会話もしていたが、よく良く考えればなんで日本語で流暢に話せてるんだ?


「当たり前じゃない。私は地の技術を持つ者をランダムで呼んだのだから、こうやってのは前提条件よ。寧ろそれが理由と言うべきかしら」


 言葉による交渉が必至となる婚活において、海からしたらネイティブである地の者は即戦力だからということか。もたらした技術でこき使われる未来が来るとは、先行者の顔が浮かばれないな。

 会話が成立する日本人は全員地の者なのか、はたまた違う世界で日本語っぽい言語を使う種族も指しているのか。

 どっちにしろ期待して損した感は強い。婚活以上に気になることが多すぎるし、そのことを聞けば聞くほど謎が増えるってなんだよ。考えてもきりがないので、自室に戻ろう。


 王国からは部屋が手配された。

 客人を泊める部屋だそうで、その一つを僕に明け渡したということらしい。王家なだけあって設備は一級品であり、ふかふかすぎるベッドや二メートルほどもある姿見などあまりお目にかかれなかった代物達が一通り揃っている。内装を確認した際にさほど違和感がなかったのは、地の者がもたらした技術によるものが大きいと推測できる。

 自分が『地の者』である以上、その視点で見れば意外とヒントは多いのかもしれないし、僕のように異世界転移した人がいるかもしれない。


 あくまでの範疇は越えられないものの、参考資料があるのは非常にありがたい。これもアリシアが『地の者であること』を前提条件にした理由の一つなのか。そんなに頭が切れるくせに効率厨のあいつはなんで僕を呼んだんだよ。


 とりあえず今日は休んで、明日から婿探しとするか。

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