CASE:05 SHE IS A PREETTY GIRL.
あたしは
18歳。花の女子高生。LJK。
趣味は・・・死体観賞。
「あたしね、死体が好きなんだ」
ある日、心を許していた友人にそう告白した。
満面の笑みで自分の趣味の告白。
歯が矯正中だったから彼女にはそれが余計不気味に感じたのかもしれない。
彼女の目は人を見る目ではなかった。
当然、理解はしてくれなかった。
「・・・芽衣子ちゃん、きもい」
なんでそんなこと言うんだよ。それが感想。きもいは言い過ぎじゃん?
誰にだってそんなことを言われる筋合いはない。
いいじゃん。死体。綺麗じゃん。
目玉が飛び出ていたり、内臓飛び出てたり、可愛いじゃん。なんでなんでそれが理解できないの?って言うか、なんで「きもい」なの?
・・・あの女、生意気だ。
むかつく。だから、
(–––殺してしまえ)
首を締めて絞殺する事にした。
必死に抵抗する友人。苦しそうにもがく姿。
苦しそうにする彼女に対して、あたしは決して許してやるつもりはない。
絶対に、この手を緩めてなんかやらない。
(–––殺せ。殺せ。殺してしまえ!)
「–––で、あるからして。この問題はこのように解いていくというわけです。それでは教科書、51ページを開いて」
そこであたしの空想は途切れる。
そう。全部、空想だ。
実際に人を殺したりしない。
あたしは死体を見るのが好きなだけであって、人が苦しんだり、人を殺したり、そう言った猟奇的なことがしたいわけじゃない。まあ、全然嫌いじゃない・・・特に見ている分にはむしろ好きな部類ではあるんだけど。
あたしは頭の中で何度もあの友人をぶっ殺してきた。
昨日は包丁で滅多刺し。あの可愛い顔をズタズタにして、目玉を抉り出してやった。
でも、あたしは実際に人殺しなんて絶対にしない。だって、法律で決められているし、もし人殺して捕まったりなんかしたら・・・。
牢獄に入れられるのなんて考えられない。
不味そうなご飯を食べるのなんて考えられない。
あのダサい服(囚人服っていうの?)を着て過ごす自分が全く想像できない。
私服は大好きなゴシックロリータファッションって決めてるの。
(・・・あー、人殺しが許される世界、どこかにないかなー)
そんな夢物語のような話。
馬鹿げた空想で日々の鬱憤を発散させる、つまらない日々が延々と続いていく・・・はずだった。
事件が起きる。お昼休みの時だった。みんなが校内で昼食を取ったり、雑談に興じだり、趣味に没頭したりする中で、一つの校内放送がかかった。
「校内に不審な人間が侵入した。生徒の皆さんは直ちに教室に戻って–––」
生徒全員が何事かとざわつき始めた。不穏な空気が立ち込める。
侵入者はすぐに見つかった。まだ見た目は30そこそこのおじさんだった。
「おい、お前!」
警備員は呼び止める。それがいけなかった。
侵入者は明かな言葉にならない叫びをあげるかと思うと警備員に
その時一瞬、世界から時が止まったかのように感じたのは、あまりにも意味不明なことが起きて、理解に頭がついていかなかったからだろう。警備員は悲鳴をあげながら必死に抵抗する。力の限り、侵入者の背中を何度も何度も殴って抵抗する。でも、その甲斐なく、警備員の首元からは大量の血が噴き出すように流れ出した。
悲鳴をあげる生徒。先生方もたじろいでいる。
侵入者の男は振り返る。
口元が動いていた。
(え、食ってる・・・?)
咀嚼。人肉を咀嚼している。あまりに常軌を逸した行動を目撃して、校内は完全にパニックになった。
「逃げろおおおおおおお!!!!」
先生の叫び声と共に悲鳴が校内全体に響き渡り、何かが弾けたかのように全員が逃げ出す。凄い顔で逃げ惑う生徒たち、生徒を突き放して逃げ出す先生。あたしは逃げ惑う群衆にぶつかるのが嫌で教室にヒョイって回避する。
(あの血、凄い量だった。あの人、死んだのかな・・・?)
わからない。
ただあたしはこう思った。
あの血はすごく綺麗だったと。もっと、もっと間近で見たい。
スマホを取り出す。カメラを起動させた。
(撮りたい。撮りたい。撮りたい・・・!)
その欲求がどんどん抑えられなくなる。
あたしは侵入者に向けてカメラを向け、近づくことにした。
その時だ。
後ろの方から悲鳴が上がった。
「バッター、大きく振りましたあああああああああ!!!!!!!!!!」
彼との出会いは後から振り返ってみても正直刺激的だったと言わざるおえない。
彼は満面の笑みを浮かべていた。
その手には血塗られた釘付きバット。倒れている生徒や先生方は酷い血を流している。理由はすぐにわかる。逃げ出す生徒たちが邪魔だったのだろう。思いっきり加減することなく持っているバッドをフルスイングしていたのだ。
「あはは♡気持ちいい♡」
晴れやかな朝を迎えているかのように爽やかな顔。とても楽しそうにバッドを振って、生徒や先生たちを薙ぎ倒し、真っ赤な血肉が壁に飛び散った。騒がしい悲鳴が再び響き渡る。
でも、あたしの耳にはそんなのもう聞こえていなかった。
(え・・・?何あいつ?)
青天の霹靂。眼から鱗。あたしの全人生、10数年かけて築いてきた常識ってやつとは明らかにかけ離れた存在。
あいつは一体何なんだ?
「ふぅーっ、まず10点ってところかな?そしてあいつは・・・・20点♡」
侵入者にバットを向けながら確かにそう言った。
「お前えええええええ!!!!!」
一人の先生が叫んだ。
そしてあの侵入者に対してとか、この男に対してとか、なんで生徒や先生を殴るんだとか・・・とにかくパニックになっていたのだろう。捲し立てるように叫ぶその先生の声は、あたしにとっても、多分男にとっても、不愉快なノイズにしか聞こえなかったのだろう。
「あは♡」
バッドで殴打。
黙るまで何度も何度もバッドで殴打を繰り返す。
「ふぅーっ、これでまた1点」
あ、あれ殺した人の数か、ってこのとき思った。
その時だ。
侵入者は明らかに興奮していた。
それは血肉の匂いに反応したのか、それはわからない。でも明らかに興奮の唸り声をあげて、そして加賀美へと飛びかかる。
「さあ、遊ぼう!!!!!」
映画のワンシーンみたい。
男は本当に無邪気な子どものように楽しそうに笑っていた。
侵入者をバッドで殴って、蹴って、壁に叩きつけて、何度も何度も頭をバッドで叩きつける。楽しそうに何度も何度も。
「よっしゃー!!!20点!!!!!」
男は大興奮気味に叫ぶ。飛んで跳ねて、狂うようにはしゃいでいた。
あたしは・・・・もう、我慢できなかった。
「・・・・あ、まだいたんだ?」
あたしの存在に気付いて、加賀美は言った。
再びバッドを握り直し、あたしに微笑みかける。きっとあたしのことをこいつらみたいに殺そうとでも思っているのだろう。
そんなことはどうでもいい。
「・・・どいて」
「え?」
「そこをどいて」
「・・・はい?」
「綺麗に、綺麗に映せないじゃん」
「・・・はい?」
「あたしは!!!!死体をカメラに映したいの!!!!!」
もう無理だ。我慢の限界だ。
こんな可愛らしい死体がたくさん転がっているのだ。
自分の気持ちを抑えられるわけがない。
そこを、そこをどけ!あたしはこの子たちをカメラに残したいっていう強い衝動に駆られていた。男を跳ね除け、転がっている死体をカメラに映す。
「あああ・・・可愛い♡あ、この肉片たまんなーい♡あ、この血綺麗ー!舐めたーい♡」
「・・・・君、大概やばいね」
「あなたにだけは言われたくない」
そんな時、転がっている死体の中からか細い声であたしは呼ばれた気がした。
「・・・め、芽衣子ちゃん」
その声はあたしにきもい発言した友人だった。
多分、逃げる途中でつまづいたのだろう。たくさんの人に踏みつけられたのだろう。顔面から血を流していて、前歯は折れ、手足は内出血している。あの感じは多分骨も折れているに違いない。とっても、とってもチャーミングだ。
「・・・それ、貸して」
「え?」
「いいから。貸してください」
「・・・あ、はい」
すっとんきょんな顔をしながら男は大人しくあたしにバッドを手渡す。
この気持ちは多分、今まで沸き起こっていた鬱憤とかとは違う。
もっと、もっと綺麗に。
もっと綺麗に加工したい。
これは・・・”愛”だ。
無償の愛。善意からなる行動だ。
「あなたを可愛くしてあげる」
「・・・え?」
あたしはバッドを大きく振り上げた。
その時の記憶はあまりない。
ただ、気付いたら目の前にぐちゃぐちゃになった死体が転がっているのをみて、あたしは自分のしでかしたことを再認識した。
あ、やっちゃったって。
あたしはひどく後悔した。もう膝から崩れるように頭を抱えて。
何で、何で抑えられなかったんだろう。いや、そりゃこんなあからさまな状況、我慢しろっていう方が無理なんだけど。
「・・・嫌だ。捕まりたくない」
豚箱なんかに行って、まずい飯も食いたくないし、汚くてダサい服だって着たくない。何で何でやっちゃったんだ。
「あー、それは大丈夫じゃない?」
男は楽しげにそう言った。
「え?」
「ほら、見てごらんよ」
そう言って教室の窓越しに見える外を指差した。
あたしは恐る恐る外を見る。
そこには何かのパニック映画で見たことがある地獄絵図。さっきの侵入者みたいなのが路上で人を襲っていた。
「あれね。前にもやったんだけど。ゾンビみたいなんだよね。噛まれるとそいつもゾンビになるみたい。だから、多分あの警備員もなるんじゃないかな。こんな世の中だもん、人殺したって罪になんて咎められないでしょう?生きてくためには仕方ない。そういう建前でなんとかなりそうでしょ?」
男はそう無邪気に微笑んだ。
もし、もし本当に。
咎められないんだとしたら。
「人を殺しても咎められない。そんな世界が来るなんて」
「ねえ、君名前は?」
「あたし?あたしは・・・阿久津。阿久津 芽衣子。趣味は死体鑑賞」
「阿久津ちゃんかー。俺は加賀美。加賀美 悠。趣味は人殺し。何だか俺たち、気が合いそうだね。いい友達になれそう」
加賀美さんとの最初の出会いがそれだった。加賀美さんはそう言って握手を求めてくる。あたしにとって趣味を共有できそうな初めての人。やっと気心を許せる人間が現れた。そんな気がした。だからあたしは彼の手を–––
「じゃ、加賀美さん。その前にあの警備員はあたしがやっちゃいますね」
「えー、マジかよー!ずるー!」
何だか、楽しい毎日がやってきそう。
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ある時、加賀美さんは酷く号泣しながら帰ってきた。
一体何があったっていうんだ?
あの冷血男が泣くなんて。世界が終わる予兆なのか?まあ、今が世紀末みたいなもんだけど。
「ねえ、阿久津ちゃん。知ってる?」
「・・・なんですか、加賀美さん」
「人殺しってね。・・・ふふ、感謝・・・されるんだよ♡」
涙を目頭にこしらえて、嬉しそうに加賀美さんはそう言った。
何を馬鹿なことを言っているんだ。この人は、って最初はそう思った。
だけど・・・あたしは気付いていたんだ。
この顔をする、この人の、こう言った言葉には、従った方がいい。
だって絶対楽しくなる。そうあたしの直感が告げている。
「何考えてるんですか。それ、絶対面白い話ですよね?」
「もっちろーん♡」
楽しそうに笑う加賀美さん。あたしはこの顔が好き。
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