第7話 テレビ取材で大騒ぎ!(前編)

 

 ぴゅう、と吹き抜けた風の冷たさに、思わず身を縮こまらせる。ぱらぱらとせっかく集めた落ち葉が無情にも風でふたたびまき散らされた。風に乗って赤や黄色の色とりどりの葉が舞う様は、とても風情がある、と思う。


 ただし、それは庭の掃き掃除担当でさえなければ、の話だ。


 はあ、とため息をつきながらあちこちに散らかってしまった葉っぱを再び竹ぼうきで掃き集め始める。この時期、竜泉閣の中央にある日本庭園も毎日のように掃き掃除をしないとすぐに落ち葉でいっぱいになってしまう。特に池の周りでは葉っぱが水に濡れてしまい、掃き集めにくくなってしまうので、こまめに掃除をするのが結局は一番なのだ。

 それは十分わかってはいるつもりなのだけど、ついついさぼりたくなってしまうのは、このところ急激に下がってきた気温のせいもある。竹ぼうきを掴む手もずっと外にいるとかじかむようになってきた。


 もうすっかり秋も本番だなぁ。


 ちゃぽん、という音に振り向くと、池に小さな波紋が出来ていた。一瞬、白いお皿を乗せた緑色の頭が池の奥深くに沈んでいくのが見えた。

 きっと河童の次郎吉だろう。「あんまり池に落ち葉が多いと、次郎吉の機嫌が悪くなるみたいなんですよね」と板長から前に聞いたことがある。それによってどんなことが起こるのかは分かっていないけど、おそらく良いことではないだろうし、私は改めて竹ぼうきを握り直し、掃き掃除を再開する。


 ハロウィンも過ぎて十一月に入ると、山もすっかりと色づき、本格的な紅葉シーズンとなる。山の中の温泉旅館である竜泉閣にとってみると、一年で一番集客が見込めるハイシーズンと言える。当然のことながらこの時期の集客が宿の一年の収支を大きく左右するため、気合いもより一層入るというもの。

 この前のハロウィンは予想以上ににぎやかに過ごすことが出来た。あの日の出来事は、竜泉閣のあやかしが思った以上に皆に受け入れてもらえるということを私に教えてくれた。これまで竜泉閣があやかしが出る旅館だということは、昔からの常連のお客さまをのぞいて、どちらかというとなるべく隠してやってきた。ただこの前のことを考えると、もしかしてあやかしが出るお宿ということをもっと積極的にアピールした方がいいのではないかと思うようになってきた。


 あやかしをアピールすることについて、継春に意を決して相談をしてみたのは、そんな秋口のある日のことだった。


「継春はどう思う?」


 継春と私は宿の本館と裏手側で繋がっている従業員宿舎に住んでいる。自分たちの部屋で、朝ご飯のハムエッグトーストを頬張りながら私は継春に問いかけた。継春はトーストにバターを塗る手を止めて少し考え込む。


「どうなんだろう。難しいね。正直なところ、そんなことを考えたことがなかったよ」


 継春は見るからに戸惑った様子だった。発した言葉の通り、いままでそんなことを考えたことがなかったのだろう。


「まあ、そうだよね。普通は秘密にするよね」


 彼の反応を見て私は考え込む。もしかしたらこの発想は外から来た人間である私特有の考え方なのかもしれない。それなら逆にいままでになかった新しい発想なのでは?「硬直した組織を変えるのはよそもの、ばかもの、わかものである」とかなんとか、どこかで読んだ経営学の本にも書いてあった気がするし。私なんてまさにそうじゃない?


「若者……?」


 むちゃくちゃ怪訝そうな顔で継春がこちらを見る。むう、失礼な。どちらかといったら若者でしょうが。比較対象が大女将とかだけど。


 実際のところ宿のスタッフの平均年齢はわりと高い。私が仲良くさせてもらっている莉子ちゃんとか板長は宿のスタッフの中では若手になるのだ。

 こう、スタッフ同士の年代が分かれてしまっているとなんとなーく大女将派と若女将派にスタッフが分かれてきたりするので難しい。大女将との仲は良好なので特に大きな問題にはなっていないのだけど、正直なところ、やっぱり年が離れているスタッフにはお願い事をしずらいというのはある。立場的には私は雇用者の立場だから依頼をすることは出来るのだけど、年齢も若いし、なによりこの宿にいた時間が圧倒的に違う。

 この前初めて若女将同士の集まりの会、なるものにいってみたけど、私みたいに結婚してよそからきた若女将は軒並み同じような悩みを抱えているみたいだった。なかにはあからさまに年配のスタッフから嫌がらせを受けている人もいて、そういう意味では私の悩みなんて大したことじゃないとは思うのだけど、こういう話は比較できるものでもないしね。だからこういうちょっとした相談も話す相手は継春か莉子ちゃん、板長などのいつもの年の近いメンバーになってしまう。

 今回の話の内容としては大女将にも相談する必要があるとは思っているものの、私の中の勝手なイメージとして大女将はあやかしを受け入れはするものの、積極的にアピールすることについてはあんまり乗り気じゃなさそうだと思っていた。

 継春の反応を見てもいまいち乗り気ではなさそうだったし、相談するのをなんとなく躊躇しているうちに、紅葉シーズンも本格化してきてにわかに忙しくなり、ずるずると相談しそびれたまま、日にちだけが経っていってしまった。


 竜泉閣に、テレビの取材が入るという話になったのは、そんな矢先のことだった。



♨♨♨ 



「テレビの取材ですか?」


 私に向かって板長が怪訝そうな顔で聞いてくる。どうにもにわかには信じられない、といった表情だった。それはそうだろう、言っている私の方もまだいまいち信じられないでいるのだから。


 テレビ取材の連絡は一本の電話でだった。たまたまフロントに着いていて電話を受けたのが私だったのだけど、やたらと明るい間延びする男性の声でこう告げてきた。


「どーもー、わたくしGテレのディレクターで、番場と言います-。実はですね-、おたく、竜泉閣さん、ですかねぇ?そちらを取材させていただきたくってですねー、日程はこんどの月曜日なんてどうでしょうかー?」

「……はい?」


 私は突然の話に頭がついていけず、ずいぶんと間の抜けた言葉を返してしまった。答えたあとから、やっと内容の理解が追いついてくる。テレビの取材。竜泉閣に。ええと……これはまたとないチャンスなのでは?


「しょ、少々お待ちください」


 ひとまずそう答えて時間を稼ぐと、さすがにこれは相談をすべきだろうと思い受話器を手で塞いで、隣に座っていたはずの継春の方を見る。しかしタイミング悪く継春は宿に到着してチェックインをするお客様の対応に当たっている最中だった。玄関のあたりでは大女将が愛想よくお辞儀をしながら別のお客様を出迎えているのが見えた。そろそろお客様が宿にチェックインをし始める時間帯となっており、スタッフみんながその対応に慌ただしく動きまわっている。私は受話器を取り直すと、電話口の向こうへ話しかける。


「ええと、すぐにお答えが難しいのですが、折り返しでお返事させていただけませんでしょうか?」


 電話の向こうの男性は私の答えに少々不機嫌そうに答える。


「えー、そうなんですか-。こっちも忙しくてですねー。すぐにお答えいただけないのであれば-、取材はまたの機会ということになるんですけどー」


 いやいやいや、それはまずい。せっかくのチャンスをここで逃すわけにはいかない。この取材を逃す手はない。こんどの月曜日……、パソコンを操作して予約状況を確認するとその日は大口の団体さんの予約が入ってはいたけれど、取材には私が一人で対応すればいいわけだし、直前でもどうにかなるだろう。

 私は緊張でごくりとつばをひとつ飲み込むと、受話器に向かって返事をする。


「分かりました。取材をお受けいたします。私、この宿の若女将をしています、清水優菜と申します」

「あー、あなたが若女将なんですねー。じゃ、そもそも取材依頼出したのはそっちじゃないですかー」

「え?」


 意外な台詞に私が驚いてよくよく確認すると、話の発端は確かに私からだった。以前から私は昔のイラストレーター仲間にいま若女将をやっていることを伝えていて、宿の宣伝のために取材を受けられないかという話をお願いしていたのだ。そのときはどこかの雑誌にでも取り上げてもらえればというつもりで話をしたのだけど、それが巡り巡ってテレビ取材の話になったのかもしれない。それであれば種を蒔いておいたことがいまになって効いてきたということなのだろう。なんでもやっておくものである。


 次の月曜日に朝から取材に訪れる、取材内容は部屋、料理、お風呂となるので、撮影できるようにあらかじめそれぞれ準備しておいてほしいということを告げて、電話は切れた。


 電話のあと、私が最初に訪れたのが板長のところだった。部屋とお風呂の対応については私だけでもどうにかできそうだったけど、料理はさすがにどうにもならないからだ。私は板長にテレビの取材が来る旨と、その際に撮影用の料理を準備してほしいのだとお願いする。初めての取材ということで不安な面持ちを隠さないまま板長は答える。


「なるほど、まあテレビに取り上げてもらえるのは悪い話では無いと思いますが。それで取材はいつ来る予定なんですか?」

「それがね……明日なの」

「早っ!?それはいきなりすぎませんか」

「私もそうは思うんだけどね」


 そう、問題はそこだ。電話の時は次の月曜日、なんていかにも先の予定であるように言っていたけれど、今日は日曜日なのだ。次の月曜日というのは何のことはない、明日なのである。先方が言うことには明後日の夜の情報番組のコーナーに今回の取材内容をどうしても入れ込みたいのだそうだ。ずいぶんと急なスケジュールではあるけれど、行楽シーズンのさなかに宿のことをアピールできるのは、こちらとしてはとてもありがたい。

 ただいきなりの話であることは確かで、料理のための食材だって普段からなるべく無駄が発生しないように、板長が客の入りの状況を見ながらぎりぎりを見計らって仕入れている。突然増やしてくれと言って、はいそうですかと気軽に対応できるものでもない。板長もうーん、と腕を組んで困り顔で思案している。


「なかなか厳しいですね。明日は大口の団体客の予約が入っていることは若女将もご存じでしょう。俺一人じゃとてもさばけないので、明日は知り合いを通じて応援の料理人に来てもらうよう頼んでいるんですよ。その人たちを放っておいて俺がテレビ取材の対応をするわけにはさすがにいかないんですよね」

「うん、そうだよね。それは十分わかってる。それでもなんとかお願いしたいの」


 私は両手を合わせ、頭を下げて頼み込む。うちの売りは板長の料理だ。せっかく取材が入るというのに、それを紹介しないわけにはいかない。板長は腕を組んだままぶつぶつとつぶやいて、頭の中で算段を組み立てているようだ。「あれをこっちに使って……これはあの材料があるから……仕込み時間は今夜の時間で出来るところまであれば……」私はそんな板長の様子を邪魔をしないように無言ではらはらと見つめる。しばらく考え込んでいた板長が、小さくこくりとうなずいたのは、彼が考え出してから十分ほど経ってからのことだった。


「うん、なんとかやれる気が、します」

「ほんと?!」


 板長の言葉に自分でもぱあっと表情が明るくなったのが分かる。しかし私の表情とは対照的に、対応することの大変さを理解している板長の表情は晴れないまま、こちらにくぎを刺すように言ってくる。


「ただし、急遽予定を変更して今夜から材料の仕込みを始めますので、普段のように夕食のまかないは出来ませんし、仕込み作業を若女将にも手伝ってもらいますけど、いいですか」

「うんうん、それくらいは全く構わないよ。ありがとう、板長」


 私は思わず板長の手をぎゅっと握りしめてぶんぶんと上下に振る。板長は顔を赤くして戸惑っているけど、私は構わずに振り続けた。


「……なにやってんの、二人とも?」


 厨房の入り口からかかった刺々しい声に振り向くと、不審そうな目で莉子ちゃんがこちらを見ていた。板長は声を聞いた瞬間、慌てたように両手をぱっと振り払う。


「莉子ちゃん、いいところに!実は頼みたいことがあって」


 話しかける私に対して莉子ちゃんは珍しく眉間にしわを寄せながら答える。勢い込んで言ってはみたものの、よくよく彼女の様子を見れば、だいぶ疲れているのが分かる。


「えぇ?今日も朝からずっとバタバタしてるんだけど」

「それは分かってるんだけど、急ぎでやらなきゃいけないことがあって」


 お風呂の準備と部屋の準備について、莉子ちゃんにも手伝ってもらえないかとお願いしようと考えていた。なにしろ彼女は竜泉閣にいる仲居さんの中でも作業のスピードがとても速いのだ。莉子ちゃんに手伝ってもらえるならずいぶんと作業の手間が減らせると踏んでのものだったのだけど、テレビ取材が急に入ることになって、と理由を説明すると、まず彼女がこちらに確認してきたのは大女将のことだった。


「それ、話を聞く限り優菜が受けてるみたいだけどさ、本当に大丈夫なの?テレビの取材を受けることって、大女将にはちゃんと伝えてるの?」


 う、と私は言葉に詰まる。さすが莉子ちゃん、実に痛いところをついてくる。彼女に言われた通り、時間もない中で板長への依頼が先だという思いもあり、ついつい大女将への連絡がおろそかになっていた。あやかしアピールの件もあってどうにも大女将と話しにくいな、と思っていたところにこの話が飛び込んできて、話しそびれていたのは事実だ。


「やっぱり取材の件、ちゃんと言わなきゃ駄目だよね」


 私の自信なさげなつぶやきに対して、呆れたように腰に手を当てて莉子ちゃんが返してくる。


「いや、結局は優菜と大女将の間のことだから、別に私にどうこう決めるような権限はないんだけど。でも大きな話なんだし、話しておいた方がいいんじゃないの」


 少々突き放したような莉子ちゃんの言葉に、私は内心、忙しいのは分かるけどそんなつっけんどんな態度で言わなくてもと思う。ただ彼女の言っていることは正論なだけに反論することも出来ずに、私はもごもごと言葉にならない言葉を返すことしか出来なかった。

 その流れのまま、莉子ちゃんに助力を求めることは出来ずじまいになってしまった。仕方なく明日のお部屋と風呂の準備については自分でやることにして、大女将への報告をしなくては、と思いながらロビーへの廊下を歩いていると、慌てた様子でこちらに一人の仲居さんが駆け寄ってきた。何かトラブルでもあったのだろうか。


「ああ、若女将、こちらにいたんですね」


 彼女は私の目の前で息を切らして立ち止まる。彼女の息が整うのを待ってから、私は「なにかあったんですか」と質問する。


「実は大女将が腰を痛めてしまったらしくて」

「ええっ!?」


 私は来た道を戻り始めた彼女の後を追って、廊下を急ぐ。とはいえお客様に見られてしまう恐れのあるところは可能な限り急ぎつつ、慌てた様子は見せないことを心がける。これは大女将に教わったことだ。ロビーまで戻って、フロントの裏側にある小部屋に入ると、大女将が顔をしかめながら椅子に座っていた。隣には継春もついている。


「お義母さん、大丈夫ですか!?」


 私も慌てていたのか、仕事上での呼び方の「大女将」ではなく、プライベートの呼び方の「お義母さん」になっていた。私が声をかけると、大女将はこちらを向いて無理に笑顔を作りながら「大丈夫、大丈夫。ちょっとね、立ち上がる時に間違って腰をひねっちゃっただけだから」と答える。

 そうは言いつつも、こういう時の本人の「大丈夫」はあまり額面通りに受け取らない方がいい。私は大女将本人に聞かれないように注意しながらこっそりと継春に耳打ちする。


「お義母さん、本当に大丈夫なの?」


 継春も私の意図を察して小声で返事を返してくる。


「そうだね、実は前も一回こういうことがあったんだけど、その時は一日安静にしていたら直ったから、とりあえず様子を見ようと思ってる」


 話を聞く限り、そこまで深刻な事態ではなさそうだったので、ひとまずほっと胸をなで下ろす。最悪は救急車を呼ばなくてはいけないかもしれないというところまで考えていたのだけど、その事態が避けられたことにとりあえず感謝をする。

 とはいえ大女将が腰を痛めているのは確かだ。このままずっとここに座っていてもらうわけにもいかないので、私は継春と二人がかりで左右から大女将の肩を支え、大女将が普段生活している部屋までなんとか移動する。


「大丈夫ですか、痛かったりしませんか」

「ええ、大丈夫よ。やあねぇ、年は取りたくないものだわ」

「実際、それなりに年なんだから、母さんもあまり無理しないでくれよ」


 継春が軽口を叩く大女将に対して呆れたように言う。私たちの住む部屋のすぐ近くにある大女将の部屋は、和のつくりをベースにした部屋となっており、やはりお茶やお花をたしなんでいるからか落ち着いた中にも品のある、凜としたたたずまいの雰囲気をまとっている。キッチンスペースにはさりげなく一輪挿しが置いてあったり、決して派手ではないのだけど、落ち着いた華やかさのようなものが感じられる部屋だった。大女将は基本的に床生活なので腰の痛みがあるのはだいぶしんどそうであった。  

 継春と相談して私たちの部屋にあった椅子と小さなテーブルを一セット、後で持ってくることにして、ひとまず大女将の部屋を辞去する。


 大女将の部屋を出る際に、視界の端にちらりと小さな着物の端が写ったようにも見えた。もしかしたら座敷童のお華ちゃんが大女将のことを心配して出てきたりしたのかもしれない。


 仕事に戻って時計を見ると、すでに板長と約束していた仕込みの手伝いの時間だった。私は足早に板場に向かい、板長と合流する。さっそく大量の野菜のカットを頼まれた。今回は特に応援が必要なくらいの大人数のお客さんなので、カットする野菜の量もかなりの量になる。ひいひい言いながらひたすらキャベツの千切りやタマネギのみじん切りを必死になって進める。ときおり床にこぼれた野菜類を調理台のしたから伸びた緑色の手が拾っていった。次郎吉の食いしん坊さがこういうときはありがたかった。山のようだった野菜の仕込みをどうにかやっつけ終わると、いつの間にか時間は夜の十時を回っていた。


「お疲れ様です。こっちもなんとか準備は終わりそうですから、今日はもういいですよ」


 同様に大量の仕込みでふらふらになりながら言う板長の言葉を受けて、私はおぼつかない足取りで自室への道をたどる。今日は大女将に取材のことを相談しようと思っていたのだけど、普段の生活習慣ではもう自室で寝てしまっている時間だし、腰を痛めてしまった件もある。

 継春にだけは寝る前に話をしようと思い、一足先に布団に潜って横になっている彼に寝る前の肌のお手入れをしながら、これまでの経緯と状況を説明する。継春の反応は莉子ちゃんと似たようなものだった。


「ずいぶん急な話だね……。母さん、大女将には伝えてないの?」

「うん、今日の昼間の騒動で、伝えられないままになっちゃって」


 私は自分でも言い訳がましいな、と思いながら説明する。


「だからできれば継春には明日大女将に説明しておいてほしいの。多分私は取材対応でばたばたしちゃうだろうし」

「まあ、それは分かったけど、そんな大事な話があるなら僕にも早めに一言相談して欲しかったな」

「……それは、ごめん」


 ちくりと刺してくる継春の言葉に痛みを感じつつ、内心では「でも相談する暇すらなかったんだもの」と思わなくもない。モヤモヤした心をくすぶらせたまま、でも明日も忙しくなりそうなので早く寝ないといけないという焦りで逆に寝付けなくなりながら、その日の夜は更けていった。


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