第41話襲撃者の目的

 マリーとレオン姉弟と一緒に帰宅中、謎の武装集団に包囲されてしまう。


「マリー、レオン、こっちに」


「は、はい、フィンさん」

「お、お姉ちゃん……」


 急いで二人の幼い姉弟を近くに呼び寄せ、孤立しないように固まる。

 すぐに脱出ルートを探すが、今のところどこにも見つからない。逃げることは難しい状況だ。


「安心しろ、オレたちは優しいから、命までは取らねぇぜ」

「まぁ、でも三人とも、数週間ほど動けなくなってもらうがな」

「そうだな! げっへっへっへ!」


 相手の人数は前に六人で、後ろに四人の総勢十人。下品な笑みを上げながら、短剣やナイフを見せて威嚇してくる。


 対するこちらは十四歳の少女と十歳の少年。あと戦闘能力に自信がないオレの三人だけ。

 客観的に戦力差を見たら、戦いにするならない絶体絶命な状況だ。


「ど、どうして、こんな場所に強盗集団が……」

「どうしよう、お姉ちゃん……」


 姉弟が言葉を失っているのも無理はない。

 基本的に王都の中は貧民街スラムなどを除き、治安はそれほど悪くない。再開発中とはいえは、この辺は二人が生まれ育った比較的治安が良い下町区画。


 まさかこんなに大人数の武装集団が襲撃してくるとは、夢にも思ってもみなかったのだ。


「ど、どうしよう、お姉ちゃん……」

「大丈夫よ、レオン。仕方がけど、有り金を全て差し出して、見逃してもらうしかないわ……くっ」


 マリーは自分の財布を取り出し、相手に渡す準備をする。

 基本的に王都での強盗の目的は金品。有り金を全て差し出せば、命だけは見逃してもらえる可能性が高いのだ。


「待て、マリー。今それは意味ない」


 だが財布を出そうとした隣のマリーを、オレはすかさず手で制する。むしろ相手を逆に刺激させるだけだと教える。


「えっ……それって、どういう意味ですか、フィンさん?」


「コイツらは普通の強盗や物取りじゃない。先ほどの連中の言葉を思い出してみろ」


 この武装集団は会話の中で『オレたちは優しいから、命までは取らねぇぜ』『でも三人とも、数週間ほど動けなくなってもらうがな』と口にしていた。


 普通の強盗は開口一番、そんな言葉で脅してこない。

 しかも『数週間ほど動けなくなってもらう』などという、具体的な期間の目的をもっていないのだ。


「た、たしかに! でも、逆にどういうこと⁉ お金が目当てじゃなくて、私たちが目的だなんて⁉」


「よく考えてみろ、マリー。今日のギルドでの出来ごとを思い出しながら」


「えっ、今日の出来ごとですか、フィンさん?」


「あっ、お姉ちゃん……わかったよ。この人たちは誰からに依頼されて、ボクたちを襲撃しているんだ! もしかしたらタレコミの件と関連性があるかも……ですね、フィンさん⁉」


「ああ、正解だ。十中八九、間違いなくレオンの言っているとおりだろう」


 この連中の態度と口調から、推測できる目的は一つだけ。

 ギルド職員のメインの三人であるオレたちが、しばらく働けなることだ。つまり営業妨害が本当の目的なのだろう。


「えっ、営業妨害が目的⁉ でも、いったい誰がそんなことを⁉ ウチみたいな弱小ギルドを⁉」


 襲撃の事実の推測を聞いて、マリーは言葉を失っていた。たしかに彼女の言っている通り、弱小ギルドを営業妨害するメリットは少ないのだ。


「も、もしかしたら盗賊ギルドの怖い人を怒らせちゃったとか⁉」


「いえ、この連中は盗賊ギルドのメンバーではありません。かと言って、尾行して先回り包囲した手際から素人でもありません」


 包囲している連中は、明らかに無法者。だが盗賊ギルドのメンバーのような独特の鋭さはない。


 だからといって素人ではない。

 その証拠にボロン冒険者ギルドから、ここまでオレたち三人を尾行。待ち伏せに有利なこの再開発区画で、一気に包囲をしてきたのだ。


 今はオレが“軽く”ひと睨みしているが、素人の威嚇などほとんど意味はないだろう。相手はそれほどの存在なのだ。


「盗賊ギルドでもなく素人でもない集団……フィンさん、それって、もしかして……」


「ああ、彼らは冒険者だ。それもあまり良くないことを専門とする」


 冒険者の中には違法行為の依頼を専門とする集団が存在する。

 あまり表に出てこない連中だが、雰囲気的にこの連中も同じに間違いはない。


「そ、そんな冒険者がいるんですか……信じられない……」


 マリーが生まれ育ったボロン冒険者ギルドは、経営的にまっとうな依頼しか出してこなかった。

 そのため、この集団のような違法行為を行う冒険者のことを、彼女は知らなかったのだ。


 何より冒険者という存在に敬意を表しているマリーは、違法行為を行う冒険者の存在にショックを受けている。

 推測が間違いであって欲しい……そんな悲しい視線で襲撃者に視線を移す。


(だがコイツらは間違いなく冒険者。証拠もあるからな……)


 マリーには言ってはいないが、襲撃者の数人に見覚えがある。

 彼らは一年前に、“一度だけ”前の職場で見た顔……つまり間違いなく冒険者なのだ。


(前の職場に来たことがある冒険者が、オレたちを襲ってきた……か。まさか今回の首謀者は……)


 襲撃者を軽くひと睨みしながら、そう思慮を深めていた時。

 更に第三者がこの乱入してきた。


「おい、お前たち! さっきから固まって、どういうつもりだ! 早く依頼とおり、あの三人を……フィンを痛めつけるのじゃ!」


 乱入してきたのは、ヒステリックな叫び声の男。

 小太りな中年男性であり、オレも見覚えがある顔だった。


「リッパー……さん。やはりアタナでしたか」


 嫌な予想が当たる。

 襲撃者の首謀者は、かつて勤めていた冒険者ギルドの経営者。リッパー冒険者ギルドのオーナーのリッパーだったのだ。

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