第25話屋敷の最深部へ

 盗賊ギルドから受注したのは、高額すぎる怪しい除霊の依頼。

 周囲を負のオーラに包まれた不気味な屋敷の中を、オレは事前調査することにした。


 屋敷の正面の扉を開けて、玄関ホールに足を踏み入れる。


「うっ……外観も不気味だったけど、建物の中はもっとヤバイ雰囲気ですね、これは……」


 一緒に付いてきたマリーは、玄関ホールの不気味な雰囲気に、言葉を失っていた。

 彼女の感じている通り、屋敷の内部はかなり異質な雰囲気。重い負のオーラが更に強くなっている。


「でもオーナー、屋敷の中は、意外と整美されていますよ」


「あっ、本当だ⁉ お化け屋敷はもっとボロボロなイメージなのに! どうして⁉」


 よく見てみると、屋敷の中はかなり整っていた。つい最近まで人が住んでいたような雰囲気だ。負のオーラさえなければ、かなり立派で手入れがされていた屋敷なのだろう。


「なるほど。段々と分かってきました、今回の依頼の事情が」


「えっ、どういうことですか、フィンさん⁉」


「説明するのはもう少し調査してからです。あっちに行きましょう。たぶん、この“屋敷の主”がいるはずです」


「えっ、“屋敷の主”⁉ それは、どういう意味ですか⁉ って、置いていかないでください、フィンさん!」


 今は調査をすることが先決。怯えながら質問するマリーは無視して、屋敷の奥に向かっていく。

 オレの勘的には奥に“屋敷の主”がいるはずだ。


 しばらく廊下を歩いていくと、一番奥にひときわ豪華な扉が見えてきた。


「オーナー、たぶん、この部屋の中に“屋敷の主”にいます」


「うっ……この禍々しい重い感じは……よく分かりませんが、この部屋の中に、とてもヤバイ物がいる気がします」


 扉の前に立ち、マリーの顔色が悪くなる。かなりの負のプレッシャーを感じているのだろう。


「で、でも頑張らないと。ギルド再建のために……3,000万ペリカをゲットするために……」


 それでも逃げ出さないのは、冒険者ギルドのオーナーとしての資質だろう。何やらブツブツ小声でつぶやいて変だが、度胸はたいしたものだ。


「ん? と、というか、フィンさん。よく考えてみるとギルド職員の調査って、ここまでやる必要があるんですか?」


「はい、もちろんです。ギルドの掲示板に依頼を張り出す時に、対象相手が分からないのは、依頼とは言えないじゃないですか、オーナー?」


 冒険者ギルドの仕事は『受注した依頼を、そのまま冒険者に依頼する』ことではない。大事なのは下準備。


 事前に綿密に調査をして、情報を細部まで集めていく。難易度を設定して、的確な登録冒険者に依頼をふる。


 一般の市民は気がつかないが、そうした影ながらの調査と努力があってこそ、冒険者ギルドの経営は成り立っているのだ。


「そ、そう言われてみれば、たしかに一理ありますね。でも、お爺ちゃんは、そこまでやっていなったような気もするけど……」


「きっと、ボロンさんは孫たちに努力を見せない方だったのでしょう。さて、部屋の中も調査しましょう」


「あっ、待ってください、フィンさん⁉」


 重厚な扉を開けて、部屋の中に入っていく。部屋はけっこう広い。

 中央にソファーとテーブルが置かれ、奥には仕事机も置かれている。ここはおそらく屋敷の主の執務室だったのだろう。


「フィ、フィンさん……あ、あそこに誰か、いますよ⁉」


 マリーは声を震わせながら、薄暗い執務室の奥を指差す。

 そこに立っていたのは、ローブを着た一人の老人。後ろ向きフードを被っているので、顔はよく見えない。


『ほほう? この屋敷に入ってこられて、ワシの“この姿”を見ても発狂しないとは、ただ者ではないな、お前たち?』


 老人は大陸共通語で……だが“人とは違う不気味な声”を発しながら、ゆっくりと振り返ってきた。


「フィ、フィ、フィンさん、あの人……顔が⁉」


 振り返ってきた老人の顔を見て、マリーは腰を抜かす。

 何故ならローブの下にあったのは、人ならざる骸骨面。下級アンデットのスケルトンとは明らかに違う異形な顔だ。


「ええ、そうですね。この人は実体のある霊……“不死王リッチ”ですね」


「えっ……“不死王リッチ”、まさか、あの魔物辞典に載っている、超危険な⁉」


 こうしてボロン冒険者ギルドの調査隊は、超上級者アンデットである“不死王リッチ”に遭遇するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る