第3話冒険者ギルドの現状

 職探していたオレは、なぜか“ボロン冒険者ギルド”に就職することが出来た。


 だが、この冒険者ギルドには発注できる依頼が、まだ一つもなかった。

 そのため顔見知りの剣士ガラハッドと女魔術エレーナには、丁重に帰ってもらう。


 帰り際に二人とも「はっはっは……! また来るぞ、我が永遠のフィンよ!」「それじゃ、またね、愛しのフィン♪」と、異様なまでに上機嫌だったので、後日また来てくれるだろう。


 ギルド内に残ったのはオレと、ギルドオーナーの銀髪少女マリーの二人だけになる。

 ちょうど他に誰もいないので、今後の仕事の話にとりかかる。


「あのー、オーナー。雇ってもらったばかりで恐縮なんですが、このギルドの経営状態を、聞いてもいいですか?」


「経営状況を⁉ いきなり切り込んできますね、フィンさん⁉」


「気分を害したら申し訳ないです。でも早くて手を打った方がいいと思いまして」


 雇ってもらった新入職員は普通、いきなり経営状況など訊ねない。

 だがボロン冒険者ギルドは明らかに危険な状況。一刻も早く手を打たないと、廃業してしまう危険があるのだ。


「わ、分かりました。フィンさんには期待しているので、全て見せます。えーと、これが当ギルドの経営帳簿です」


 オーナーが渡してきたのは数冊の帳簿。ここ最近の収支の会計帳簿や、ギルドの依頼の受注と、依頼の発注の詳細の書かれた大事な帳簿だ。


「ありがとうございます。それでは中身を失礼します……」


 全ての帳簿をパラパラとめくっていきながら、オレは内容を確認していく。

 ふむふむ、なるほど。こうなっていたのか。


「記憶しました。お返しします」


「えっ⁉ い、今の一瞬で記憶したんですか、フィンさん⁉」


「はい、そうです。記憶力だけには少々自信があるので」


 なんの特技がないオレだが、昔から記憶力に自信があった。パラパラと流し読みしただけで、だいたいの内容が頭にインプットできるのだ。


 ちなみに記憶力が良いのには、ちょっとした理由がある。

 実は育ての親である師匠に、幼い頃から『フィン! この魔術師辞典を一日で暗記しなさい!』とスパルタ教育をされてきたのだ。


 師匠は鬼のように厳しかったけど、成功したらちゃんと褒めてくれる人。だからオレは自然と記憶力が身についていたのだ。


「さて、オーナー。この帳簿のデータから推測するに、今のペースでいけばこの冒険者ギルドは、あと一ヶ月で潰れてしまいます」


「えっ⁉ い、一ヶ月で潰れちゃう⁉ どうしてですか、フィンさん? たしかにウチには登録冒険者がほとんどいなくて、依頼してくれる人もいなくて貧乏だけど、それでも一生懸命やってきたのに⁉」


「そうでね。その努力は凄いと思います。でも現実は厳しいです。オーナーは知っていましたか? 冒険者ギルドには“成果達成義務”があることを?」


 冒険者の増大に比例して、大陸の冒険者ギルドは増加の一方な現状。特にこの王都は百近いギルドがあり、飽和状態になっている。


 そのため各国は“冒険者ギルドランク”を制定していた。その中にギルドが守るべき“成果達成義務”の規則がある。


“成果達成”は簡単に説明すると、次のような感じだ。


 ――――◇――――


 ・ギルドとして多くの高難度の依頼を受けて、登録冒険者が依頼を達成していくと、ギルド評価ポイントがたまり、ポイントがある程度まで到達するとランクが上がる。


 ・逆に成功率があまりにも低いと、ギルド評価ポイント減っていき、ギルドランクも一段階ずつ降格していく。


 ・また国が定めた依頼を受注できず、最低基準の評価ポイントを達成できないギルドも、ギルドランクは一段階ずつ降格していく。


 ――――◇――――


 このように冒険者ギルドとして上手く運営していないと、ギルド評価ポイントが減り、ギルドランクが段々と下がっていく規則なのだ。


「そ、そのくらいは知っています。私も仮にも冒険者ギルドのオーナーですよ!」


「失礼しました。でもボロン冒険者は今月に入って、一度も依頼の成功結果がないです。このままではペナルティとして一ヶ月に、ランクが更に下がります」


「えっ……ウチは今ランクFだから、その下は、もしかして……」


「はい、ランクの下は『冒険者ギルド経営権の剥奪』およびに、ギルドの廃業となります」


 何度も言うが、今の王都の冒険者ギルドの数は飽和状態。

 そのため成果を出せない経営状況の冒険者ギルドは、どんどん取り潰しされていくのだ。


「そ、そんな廃業する、なんて知ったら、お爺ちゃんがショック死しちゃうわ……」


 廃業の危機と聞いて、オーナーのマリーは顔を真っ青にする。

 元々ここは彼女の祖父ボロンさんが、若い時に立ちあげた冒険者ギルドだという。治療中の創業者は今も病床から、ギルドの行く末を心配しているのだ。


「お、お願いします、フィンさん! うちのギルドを助けてください!」


「助けられるかどうか明言はできませんが、仕事なので出来る限りのことはします」


 毎月の十万ペリカの生活費を、今のオレは稼ぐ必要がある。

 だから新しい勤め先のボロン冒険者ギルドには、潰れてもらっては困る。さすがに二回連続で失業者になるのは、社会人として恥ずかしいし。


 どこまで力になれるか分からないけど、最大限の努力はしていくつもりだ。


「さて、経営状況が危険なことは理解してもらえましたか。とにかくボロン冒険者ギルドはこれから経営を改革していく必要があります。オーナーも協力していただけますか?」


「ええ、もちろん! 私に出来ることだったら、何でも言ってちょうだい! 何でもするから! まずは何からすればいい? やっぱり“さっきの凄い二人”に協力してもらうの⁉」


 オーナーは目を輝かせてグイグイきた。まるで救世主か英雄のような目で見てくる。

 オレは普通の事務経験者でしかないので、あまり期待されても困るのだが。


「協力の申し出ありがとうございます。それではオーナーは留守番をお願いします」


「へっ? 留守番……を?」


「はい。オレはちょっと出かけてくるので、よろしくお願いします。もしも誰か来たら、メモをとって対応お願いします」


「わ、分かったけど……フィンさんは、どこに行くの? ねぇ、ちょっとー⁉」


 後ろからオーナーが叫んでいたような気がしたけど、今は時間がない。オレは気にせずギルドを出ていく。


「さて、まずは“あそこ”に向かうとするか……」


 こうして廃業寸前のボロン冒険者ギルドを潰さないように、オレは職員として改革に乗り出すのであった。

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