第45話災厄のジュース

午前は雑談を交わしながら流れるプールにのんびりと流されていた。

それにつられて時間もゆったりと長く感じる。ということはなく、楽しい時間はあっという間に過ぎていきお昼時になっていた。


「先輩、そろそろ昼にしませんか?」

「そうだね、私もお腹が減ってきたし、何かお腹にいれたいな」


ということで二人でお金を持ってお店に向かっていく。


「何が食べたいとかありますか?」


先輩は「うーん」と頬杖を突くようにして大して多くもないメニューを眺めている。


「凪……これ飲んでみたい」


別に許可なんて取る必要なんてないのにな。と思いながら、先輩の指が差している方向を見た。


『トロピカーナジュース』


少しな不思議な色をしたジュース。それだけならまだいい、ただしある注意書きが大きく書いてあった。


『カップル限定!!』


その文字を見て俺は一瞬だけ顔をしかめる。

しかもその商品をよく見てみるとストローがハート上になっている。

俺はもう一度小鳥先輩の顔をみてみると、伏し目がちな上目遣いで俺を見ている。


「凪に迷惑がかかるとは思ってるんだけど、だめ……かな?」


無理だ。この表情を見て断れるわけがない。


「先輩も、ずるいです。そんな表情されたら断れるわけないじゃないですか……」

「じゃあ……」

「いいですよ、買いましょうか」


女の子の上目遣いというのはやばい。今回は違ったがあれに加えて目を潤ませられると俺は自分を抑えていられる気がしない。

小鳥先輩は早く行こうと言わんばかりに俺の腕を引っ張って来る。

もしかしてあのジュース俺も一緒に飲むなんてことにはならないよね!?




とりあえず焼きそばやホットドッグを購入しそして、俺を好奇の目線で痛めつけたジュースも購入。

俺たちはレジャーシートをもともと引いていたので席取り合戦に参加する必要もなく、日差しの当たらない涼しい場所で昼食を取り始めた。


「こういうところで食べるジャンクフードって普段よりも何倍もおいしく感じるよね~」

「すっごくわかります。雰囲気とか周りの環境とかもあるんでしょうね」


そして、先輩はついにそのジュースを持って自分の口元に持って行った。


「ん~!!冷たくておいしい!!凪は飲まないの?」


俺は一瞬悩んだのち、飲むことを決めた。

飲み物もそれしか買ってなかったし……。べ、別に小鳥先輩が飲んだのを飲みたかったわけじゃないんだからね!


「じゃあ……いただきます」


すると小鳥先輩は手を精一杯伸ばし、俺の口元まで持ってきた。


「あの、自分で飲めますけど……」


小鳥先輩は言葉は発さずに首を横に二、三回振ってそうさせる意思はないことを示す。

心の中でため息をついて、俺はストローに口をつけそのまま変な色をした液体をのどに流し込む。


「意外と……おいしい。もう一口飲んでみてもいいですか?」

「もちろんいいよ」


そしてもう一口飲もうと口をつけると、小鳥先輩が一気に肉薄してきた。

俺は動揺からか目を思いっきり開く。でも先輩はなぜかこちらを向いておらず首を横に向けながらストローを加えていた。先輩が見ている方向になにがあるのか。

そう気になってしまうのは当然のことだろう。

そして俺が横を向くと先輩に写真を撮られてしまった。


「せ、せんぱいっ!」

「ごめんごめん。思い出ってことでいいでしょ?」

「だっ、だめです……」


だって恥ずかしいもん。誰かに見られでもしたらどうしようか。

まあ、先輩はそんなことしないか……。


「誰かに見せたりしませんよね?」

「うん。多分」

「多分……?約束してください」

「わかった!スマホのキーボードの背景にするので許して!!」

「だ、ダメですって!そんなの恥ずかしすぎてしにます!!」

「じゃあ凪もキーボードにしていいから!」

「そういう問題じゃないんです!!」


この不毛とは言いずらいが、くだらないことではある論争は、二人の手中にある災厄のトロピカーナジュースがなくなるまで続いた。

やはり最後は俺が折れてしまうのは何というかいつもの展開。だった。


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