第32話ヘタレ

学校。俺の前には坂口が詰め寄ってきていた。

これが意味することは、唯花先輩との噂の確認だろうな。


「お前。今週末はどこに行ってたんだ?」

「え~っと、中華街?」

「誰と?」

「生徒会長と?」

「お前……絶対許さないからな」


どうしてだよ……。許してくれよ。


「お前も声かけてみたらどうだ?」

「いやだよ怖いよ」


なんでそこでヘタレ発揮するんだよ……。

普段の感じなら話しかけれるだろ。

あんな変態みたいな感じを全開にしてるんだから。


「話してみたら案外気が合うかもよ?」


絶対合わないことわかってはいるけどな。


「そうか?」


お、意外といけそうだぞ?


「放課後とかに話しかけてみたらどうだ?意外と気があったりしてな」

「そうか!生徒会に入ってほぼ毎日一緒にいる九重が言うなら間違いないな!俺勇気出して話しかけてみるわ!!」


ちょろいな。正直言って小学生レベルのちょろさだった。

俺の口車に乗せられた張本人は、そんなことには微塵も気づかず、少し浮かれたように頬を緩めていた。

唯花先輩に身の危険がないようについて行くか?何かあった時にはもう遅いからな。



そしてやってきた放課後。俺は生徒会室に向かうふりをして、教室から出ていった坂口後ろをつけていった。

坂口が止まったのは、生徒会室のある棟と皆が授業を受ける教室のある棟の渡り廊下だった。

本当に声をかけようとしていることが面白く思えてしまって、俺は声を出さずに笑う。お腹が痛くなってくる。

腹を抱えて笑っていると坂口の背中がなくなっていた。

急いで渡り廊下を見に行くと、反対側から歩いてくる唯花先輩と、その唯花先輩の方へ歩いていく坂口の背中が。

そして、坂口は……唯花先輩とすれ違った。

――結局声かけないんかい

やっぱり坂口はヘタレだった。

安心からか、落胆からか、あるいは両方かのため息をこぼし、こっちの棟に向かってきた唯花先輩に声をかけた。


「唯花先輩こんにちは」

「あ、凪くん。やっほ」


ちらっと坂口の方を見てみると、苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。

ヘタレのお前が悪い。


「唯花先輩?疲れてそうですけど大丈夫ですか?」

「うん……。とりあえずは……」


どうしたのだろう。唯花先輩がこんなに疲れを露にしていることなんて珍しいし、余計気になってくる。


「何かあったんですか?」

「何かって言うほどじゃないけど、朝来た時、下駄箱に7通もラブレターが入ってて、あと凪くんとのことをめっちゃ聞かれた」


全部自分でやったことが原因なんだよなぁ……。


「そ、そのラブレターはどうするんですか?」

「とりあえず断ろうかなと思ってる。あんまり話したことのない人たちばっかりだし」


そんな人からラブレターをもらうって……。唯花先輩はすごいなぁ。

ちなみに俺はラブレターもらったことなんて一度もない。


「も、もし、俺が唯花先輩にら、ラブ……を上げたらどう思いますか……?」

「え?もう一回言ってくれない?」

「ご、ごめんなさい!!無理ですぅぅぅ!!!」


俺はその場から羞恥の感情に悶えながら逃げた。







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