第34話  デレるナナミが誤解を加速させる。お前敵なの?




 ミカン畑を目指して、ナナミの案内で畦道――畑と畑の間の道――を歩いていると、人とすれ違うたび、お礼を言われた。


 井戸を掘ってくれてありがとう。

 石鹸の作り方を教えてくれてありがとう。

 畑を良くしてくれてありがとう。

 客土をしてから作物の育ちが全然違う。

 おかげでお腹いっぱい食べられるようになった。


 そう言ってくれるのは嬉しいけれど、ちょっと照れ臭い。


「ふうん、貴方、テロリストのくせに随分と人気者なのね」


 ミイネが、長い金髪を指で弄びながら、つまらなさそうに吐き捨ててくる。


「そ、そうでもないよ……」


 ――すっかり嫌われているなぁ。なんとかしないと。それにしても、たかが水と石鹸で、こんなに感謝されていいのかな?


 お腹いっぱい食べれるようになったと言っても、まだ多くの野菜は生育中だ。


 今、食べているのはお腹に溜まりににくいキュウリやほうれんそう、ミニトマトなどの野菜や、実は食べられると教えてあげたイナゴとセミ、それにカエルだ。


 この村の人たちの生活は、まだまだ貧しい。

 …………。

 感謝されればされるほど、俺の中で、釈然としない想いが湧いてくる。


 ——今、俺が帰ったらこの人たちの生活はどうなる? 新産業は? 堆肥作りのコンポストは? 遠洋漁業計画は? 農業機械導入は? インフレ問題は? 貿易による外貨獲得は?


 自分のことではないのに、だんだん、不安な気持ちが募っていくと、ナナミが不意に呟いた。


「……ショウタ……いつも怒ってすいません」


 しおらしくうつむきながら、ナナミはらしくもなく、弱々しい声で謝る。


「ショウタは凄いのです。さっきの子供たちもみんな楽しそうで、でも、それは私にはできなくて、正直に言うと悔しかったんです。みんなのことは、私が笑顔にするはずだったのに、私の嫌いな、先進国で生まれ育った苦労知らずのお坊ちゃま国民のショウタがドンドンみんなを笑顔にして、この国を救っていくのを見て、それは私や姉様の役目なのにって。でも、今なら姉様が貴方を愛した理由がわかります。結局、私が子供だったんですよね」


 言って、ナナミは顔を上げて、俺を見つめる。


「だからショウタ。私のことは嫌いになってもいいから、この村のことはお願いします」


 ちょっと潤んだ眼は、反則的に可愛くて、日本に帰りたい、なんて言えなくなってしまった。


 ナナミには、昨夜、レストランで命を救ってもらった恩がある。


 それに、朝、オウカが言っていた言葉を思い出す。


 オウカは言った。ナナミが、俺のことを気に入っていると。


 本当は、ナナミも俺のことが好きだけど、素直になれないだけなのかもしれない。


 そう思うと、ナナミのことが、どんどん可愛く見えてくる。


 ナナミは俺を拉致して、俺からハワイ修学旅行を奪った諸悪の根源だ。なのに、恨みよりも好感が増していく自分に気付いた。


 だから、俺は小声で、ささやくように言った。


「デレてくれれば、嫌いになんてならないよ。お前は、命の恩人だからな」

「ショウタ……」


 ナナミの顔に喜びが浮かぶと、不意に彼女は足を止めた。


「ここがミカン農家をしているおじさんの家なのです」


 着いたのは、周囲をミカンの木でぐるりと囲まれた、一見のログハウスだった。

 畦道を挟んだ反対側には、一面にミカンの木が並んでいて濃いオレンジ色の実が、まるまるとすずなりになっている。


「この時間なら、畑仕事をしているはずです。探してくるので、三人はここで待っていてください」


 そう言い残して、ナナミはミカン畑の中に姿を消した。


 すると、ミイネが近くのミカンを勝手にもいで、食べ始めた。


「おいおい、ドロボウするなよ」

「ふん、人殺しに言われたくないわよ」


 反省もせず、ジロリと睨んでくるミイネ。


 彼女に取り入るかとは関係なく、とりあえず、誤解は解いておきたい。


「あのなぁ、お前何か勘違いしているみたいだけど、俺はクーデターに関与していないぞ。さっきも言ったけど俺は日本人だし。影の支配者なんかじゃない」

「嘘よ」

「嘘じゃねえよ。カナ、俺はクーデターに関わってないよな?」

「はい、ショウタ殿が仲間になったのはクーデター後であります」

「え、じゃあ……」

「しかし! ショウタ殿の策謀により国王派の残党の居場所を突き止め、昨夜一斉逮捕に成功いたしました! クーデターはオウカ殿が本丸を落とし、ショウタ殿が仕上げる。まさに二人の共同作業であります!」

「だから言い方!」


 カナは鼻息を荒く胸を張り、得意げだった。あたかも、ショウタ殿をフォローしたであります、と言わんばかりの態度だ。


「くぅ、なるほど、影の支配者ではなくオウカの右腕だったのね」

「ちっげぇよ! お願いだから話を聞けよ! いいか、俺はだなぁ!」


「ショウタ、おじさんの居場所がわかりました。あと、姉様との結婚を認めてあげるのです」

「ななみぃいいいいいいいいいいいい!」


「良かったですなショウタ殿。大統領の夫となれば、ファーストジェントルマンでありますぞ」

「かなああああああああああああああああ!」


「何が違うのよ悪の手先の分際で! 鬼! 悪魔! 外道! 鏡銀鉢!」

「みいねぇえええええええええええええええええ!」


「ではカナ、ミイネのことは任せたのです。ほらショウタ、来るのです」

「おいナナミ! お前ら狙っていないか!? 絶対狙っているよな!?」

「何を言っているのですか? ほら、早く早く」


 こうして、ミイネからの誤解を雪だるま式に増やしながら、俺は連行されるのだった。


 ナナミの案内に従ってミカン畑の奥へ行くと、黒く日焼けした中年男性が待っていた。



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