第17話 新政府の支持率を上げる方法


 30分後。

 俺とナナミは、会議室で朝食がてら、朝の閣議に参加していた。


 閣議、とは言っても、大統領のオウカ、農林水産大臣兼環境大臣の俺以外に大臣はいないので、パシク解放軍の各隊の隊長や副隊長が、政府要人として参加している。


 それと、要人の朝食と言っても、特に豪勢なものが出るわけではない。


 圧政を敷いた国王のように、民から搾取した金で贅沢することを良しとしないオウカの方針だ。


 長テーブルに並ぶ俺らの朝食は、ベーコンハムエッグに大盛のサラダ、豆入りの雑穀米だ。


 小麦は囚人たちを働かせるためのビールの材料に使っているので、パンを食べる余裕はない。


 そうした食事を食べながら、各隊の隊長たちが、計画の進捗状況と問題点を教え合う。


 俺も、農林水産大臣兼環境大臣として、各村の農業改革状況と、汚染された土壌の浄化状況を伝えた。


 ——やれやれ、なんで俺はこいつらに協力してんだか。まっ、逆らって拘束されたら余計に逃げにくいし。言うことを聞いておけば逃げるチャンスもあるだろう。


 それに、この国の改革はまだまだ道半ばで、困っている人たちが大勢いる。


 とりあえず、もうしばらくは協力体勢でいようと思う。


 食事が進み、皿が下げられると、オウカが活舌の良い声で、滔々と語った。


「問題なのは前政権、国王派の残党だ。軍隊の中でも国王派の部隊が数千人規模で国内に潜伏している。今は表立った活動はしていないが、連中をあぶりだす必要がある」


 ——つまり、そいつらが勝ったら俺は日本に帰れるかもしれないんだな。頑張れ、国王派。


 心の中で、熱いエールを送った。


「ショウタ、肥料と農村をつなぐ循環網の構築は順調か?」

「ああ。港や漁村から魚と海藻、貝殻、それに魚屋の残飯回収ボックスの残飯を農村へ送るルート、畜産をしている村から馬や鶏を飼っていない村へ馬糞と鶏糞を送る最短ルートの選出は終わった。今、各地と連絡を取って草案を作っている。明日には正式な命令書を発行できるぞ」

「よくやった。やはり、貴君を大臣に据えたのは正解だな」


 ——あまり買い被らないで欲しいなぁ……。


 役に立たないとご機嫌を取れないし、取りすぎると帰してくれない。


 塩梅が難しくて、胃が痛かった。


「ですがオウカ殿、各政策、方針が各地へ伝わるのが遅れています」


 今日は左目に眼帯をしているなんちゃって眼帯美少女カナが、肩のライフルを背負いなおしながら、硬い声音で進言する。


「口で伝えて済むモノは、各県庁に指示を出せば片付きます。しかし、上総掘りや石鹸作りなど、電話や文書だけでは細かいニュアンスが伝わらないものもあり、何よりも問題なのは、我々の命令を聞かない県庁や役所があることです」


 カナの言う通りだ。

 パシクは狭いようで広い。


 日本の本州並に広い国土に数百の自治体と1000万人の国民が住んでいる。


 その中には、山奥のさらに奥や、本土から離れた島もある。


 そうした場所を含めた津々浦々まで、俺らの政策を浸透させるのは、簡単ではない。


 その一因が、カナの言う命令を聞かない自治体だ。


 上総掘りの図面、客土や堆肥のやり方をまとめた書類を送っても、「内容が難解でわかりません」、電話をすれば「役所の人手が足りず実行できません」の一点張りだ。


 ただの通達ではなく、命令無視をした場合の罰則など、詳しい内容を盛り込んだ俺の草案を基に、政府として正式に命令を出せば、言うことを聞かせられるが、自治体との間に溝ができる。


 それは避けたい。


「くっ、オウカ殿が暴君を打ち倒し、この国を救ったと言うのに、何故奴らは指図に従わないのだ!」

「認められていないんだろ」


 頭を抱えるカナに、俺はぽつりと言った。

 会議室が静まり返る。

 みんなの視線が俺に集まる。

 いつもの光景だ。

 オウカが尋ねてくる。


「ショウタ、それはどういうことだ?」

「オウカたちがやったのは軍事クーデターであって正式な政権交代じゃない。戦国時代じゃあるまいし、大統領を殺した奴が次の大統領なんて認めない奴もいるんだろ」

「ですがショウタ殿、事実我々はこうして国政を担っているのですよ」

「一応はな。でも、もしも国王派の残党が攻めてきてまた政権を取られてみろ。オウカに従った自治体は国王から睨まれるじゃないか。ようは様子見だな。オウカが大統領の地位を固めるまで、国王派復権の可能性がなくなるまで、どっちつかずでいたいんだよ」


 カナは歯を食いしばり、握り拳を震わせた。


「ぐぅっ、なんという見下げ果てた根性だ」

「国民を飢えから救う方法が目の前にあるのに無視するとか何を考えているのですか! 姉様、そいつらを全員始末しましょう!」

「それは最終手段だ」


 憤慨するナナミを、オウカが手で制する。


 一見冷静なようで、最終手段の選択肢に皆殺しがある辺りは、オウカもテロリストである。


「ショウタ、我らを主権者として認めさせる方法はあるか?」


 タカやハヤブサのように鋭い、オウカの眼光が俺に突き刺さった。


 相変わらずの威圧感に気圧されつつ、頭の中の最強異世界転移計画書を紐解く。


「主権者が誰か、目と耳でわからせて人民の心をつかむことかな」

「ショウタ、目と耳とはどういう意味なのですか?」

「たとえば、俺の故郷日本ではこんな話がある。500年前の戦国時代、領民たちは自分らの殿様の顔なんて知らないし、自分らがどこの誰の領民なのかわかりにくくなっていた。国境付近の村なら特にだ」


 それが原因で、複数の領主から二重に税金を取られる村もあったというから、理不尽この上ない。


「そこで、戦国の覇王、織田信長は戦争に勝って、新しく国を手に入れると、各地の山の上に背が高くて派手で目立つ城を作った。遠くからでもよく見える豪華絢爛な城を目で見て、周辺の領民はみんな思った。領主が凄く力のある人に代わった。あの城の城主が俺らの領主。あの城の人に従っておけば間違いない、てな」


 会議室に、感嘆の声が響いた。


 みんな、好奇心たっぷりに前のめりになった。


「これを現代風にするなら、テレビとラジオだな。テレビで王政が廃止されて民主化されたことを説明して、新政権の長、初代大統領オウカの姿を映して、ラジオにはオウカの肉声で新大統領の挨拶をする。そうやって国民に『この人が大統領か』て思わせればいい」


 しかし、オウカは残念そうに被りを振った。


「残念だが、パシクはテレビやラジオがあまり普及していない。私の姿や声が伝わるのは都市部だけだろう」

「ん、そっか……」


 やっぱり、現実はライトノベルとは違う。


 そう上手くはいかないか、と思ったところで、昔見たテレビを思い出した。


「じゃあスマホは? アフリカとか発展途上国の村でも、一家に一台はスマホがあったりするぞ」

「スマホなら普及しているぞ。貴君の言う通り、家族共有のものが各世帯に一台ずつある場合が多い。電話とメールは遠くの村や町との主要な連絡手段だ。だが、スマホでどうする気だ?」

「ネット環境は?」

「ネットなら役場にスポットがあるはずだ」


 つまり、役場に行けば使えるわけか。なら、あれが使えるな。


「よし、じゃあ動画投稿共有SNS、ツイチューブを使おう」


 会議室に並ぶ顔が、一斉にまばたきを始めた。オウカは、逆にまばたきを忘れ、眉間にしわを寄せた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 タイトルを

 異世界転移だと思った?残念、途上国転移でした

 から

 美少女テロリストたちにゲッツされました

 に変えたら読者が増えました。

 ありがとうございました。

 

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