第10話 巨乳の谷間を見せながらおはようと言ってもバチは当たらないぞ!(泣)

 汚染された土地の視察を終えてから、俺は数本のゴボウを住宅区に持ち帰った。


 それから、ゴボウの根と茎を斜め切りにして塩水で茹で、葉っぱは苦みとえぐみを取るために、水に浸してから、同じく塩水で茹でた。


 ちなみによくある勘違いだけど、ゴボウの根はアク抜きの必要が無い。世の奥様がたがアクだと思っている黒いのは、ゴボウの栄養成分だ。


「はいおまちどう!」


 集会所に集まった人たちの前で、俺はテーブルの皿に山盛りのゴボウを盛り付けていく。


 みんな、ナナミと同じく訝し気な顔で俺を取り囲んでいる。


「え? ショウタさんあれ食べるのか?」

「あれって、あの根っこのやたらと太い雑草だよな?」

「ショウタさんて先進国から来たんだろ? 先進国の人って木の根っこ喰うのか?」


 ——なんて失礼極まりない連中だろう。

 俺の名誉のためにも、さっさと食べることにする。


 箸でゴボウの塩茹でを口に運んだ。

 醤油とごま油を使った金平ごぼうと違って単純な塩味だけど、シンプルでゴボウの味が引き立っている。


「美味いぞ、みんなも食ってみろ」


 俺が皿を押し出すと、村の人たちは恐る恐る、塩ゆでゴボウを指先でつまんで食べてみる。


 すると、みんなの表情が変わった。


「ん!? あーこれ食えるな!」

「うん、食える食える!」


 そう言って、みんな、次々皿からゴボウを手に取っていく。


「こうしちゃいられん、すぐに取ってこよう!」

「俺ら毎日、食い物の横を通り過ぎていたのかよ!」


 村の人たちは我先にと集会所から走り去る。


 どうやら、ゴボウが食材だと、理解してくれたらしい。

 俺は胸をなでおろした。


「ふぅ、これで、最初の二か月はゴボウでなんとか食いつなげるだろう」

「で、ですね……」


 テーブルの横に立つナナミが、気まずそうに視線を逸らしている。


「あ、ショウタ、水持ってきてあげますね」


 そそくさと逃げ出すナナミの背中に、一言。


「俺を疑ったこと気にしてんのか?」


 びぐぐーん! と、ナナミの肩が跳ね上がった。

 どうやら、図星らしい。


 俺に背中を向けたまま、もじもじする彼女の姿に、笑みが吹きこぼれた。


「お前、意外と可愛いのな」


 ナナミの鋭い眼光が、ギロリと振り返った。


「余計なことを言うなです!」

「銃口を向けるな暴発したら俺死ぬから!」


 誰もいない集会所には、俺の絶叫だけがこだました。


 ——あぁ、本当に早く日本に帰りたい。


   ◆


 翌朝、俺は硬いベッドの感触に目を覚ました。


 ――なんだ? ホテルのベッドにしては妙に寝心地が悪いな。


 学校め、さては修学旅行先のホテルをケチったか?


 おかげで、せっかくハワイに来たのに最悪の夢を見てしまった。


 急に飛行機がハイジャックされて、俺だけが逃げ遅れて拉致され、そこでテロリストたちにコキ使われるという最悪の夢だった。


「コーケコォッッコォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ンモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ヒーヒヒヒヒヒン! ぶるるるるるる!」


「ですよねぇ! 夢じゃないですよねぇ! はいはい現実ですよわかってますよ!」


 本来なら、ハワイのホテルでフカフカのベッドに身を沈め、オーシャンビューを眺めながら起きて、上品なモーニングセットを食べるはずだったのに。


「なにがどうしてガチガチの木製ベッドで家畜の鳴き声に起こされなきゃなんねーんだよフザケんな!」

「朝からうるさいですよ」


 部屋の出入り口で、いつものテロリストルックのナナミが、不機嫌そうな顔で俺を睨んでいた。


「そこは俺と同じベッドで前ボタンを三つ外したノーブラパジャマ姿で谷間を見せながら『もう、翔太ってば寝相激しいんだから♪』だろうが! 嘘でもいいから!」

「ちょっ? お前は何を言っているのですか!?」


 ナナミは両手で大きな胸を抱き隠しながら、顔を真っ赤にして怒鳴った。


 飛行機でホックを壊して以来、サイズの合ったブラをしているのか、相変わらず立派な胸である。


 ちなみに、俺が寝ているのは集会所の客間だ。


 政府の役人が泊まりがけの視察に来た時に使うらしい。


 ——この野郎ぉ……俺からハワイ旅行を奪ったなら、せめてこのピンク髪ツーサイドアップ巨乳美少女が俺にデレまくってイチャラブエロハプラッキースケベライフが約束されていないとバランス取れねぇじゃねぇかぁ! 神様の馬鹿野郎! 間違って君の運命を不幸に操作しちゃったからお詫びにチート能力あげるよって言うならいまのうちだぞゴルァ!


「ショウタ、瞳孔が開いてて怖いのですよ」


 ベッドのシーツを握りしめながら、心の中で怨嗟の呪詛を呟くも、ナナミはデレるどころか、呆れた溜息をもらすだけだった。



   ◆



 朝食に山盛りのゴボウを食べてから、俺とナナミは、車で港に向かっていた。

 昨日、俺が上総掘りのやぐらの図面を引いている間に用意して貰ったモノは、24時間待たないといけないので、次の作業には移れない。

 だから、昨日俺が提示した四種類の肥料【魚】【海藻】【鶏糞か米糠】【馬糞】のうち、村では手に入らない【魚の残飯】と【海藻】を手に入れるのだ。


 港に着くと、ジープを停めて、船着き場へ向かった。


「それでショウタ、どうやって魚をもらうのですか?」

「売り物にならない魚が狙い目だな。理想は腐りやすくすぐ土に還るイワシだけど、魚ならだいたいチッ素成分が入っていて成長促進効果がある」

「また能天気なことを。毒魚でもない限り売り物にならない魚なんてないですよ」

「え、でも小さいのとか傷ついているのとか」

「魚は重さで売るから小さいのも市場に出回るし、傷ついているのも売りますよ。食糧難なんですから」

「え、そうなのか……?」


 ——やべぇ、どうしよう。


「やれやれ、これだから先進国のお坊ちゃまは……まぁ、貴方も好きで日本に生まれたわけではないので貴方に罪はありませんが」


ナナミは被りを振って呆れ返るも、なんだか優しい。どうしたんだろう?


「ま、まぁとにかく手に入るかどうかの確認だけでもしないと。貝の収穫量がキモだな。貝の身は海藻と同じでカリ成分が豊富で根を強くしてくれるし、貝殻からは石灰が作れる。上手くすれば石灰がタダで手に入るぞ」

「貝殻から石灰が作れるのですか?」

「すり潰して熱するだけで簡単にな。石灰は便利だからあればあるほどいい。農業だけでなく建築材のモルタルも作れるし石鹸も作れる」

「なーんか話がうますぎませんか?」


 ジトーっと睨んでくるナナミ、俺は口を返した。


「俺だって日本に帰るために必死なんだ。嘘なんてつかねぇよ」


 ナナミたちパシク解放軍に協力して、オウカのご機嫌を取り、日本に帰してもらう。


 それが、日本に帰る一番の近道だ。


「お、漁師さんだ」

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