第5話 真峠家にて

 八月最初の日曜日。

 世間は夏休みの真っ最中。俺も休みなんだぜ? 望んで休んでるわけじゃないがなっ!


 ってなわけで、地元に帰って来たハートブレイクな俺は、ブレークタイムする為にまっすぐに実家に向かう。ちなみにブレークタイムの使い方があってるのかはわからない。


 今日帰ることは事前に伝えてあるから、親も家にいるって言ってたな。飯あるかな?

 そうそう、向こうの部屋にあった荷物も全て送ってある。……着払いで。

 ちなみに部屋にあったあの女絡みの物は全て売り払った。

 さて、久しぶりの我が家だ。二年ぶりか?


「ただいまー」

「「「「おかえりー」」」」


 おかしい。声が多い。うちには父さんと母さんと愛しの妹しかいないはずなんだが……。

 気のせいか? さて、もう一度。


「たっだいまぁー!」

「「「「おっかえりぃー!」」」」


 あぁもうわかった。この悪ノリは絶対そうだ。

 リビングへと続くドアを開くと、そこには俺の両親の他にも後二人いた。

 ちなみに妹はいなかった。夏休みだしな、遊びにでも行ってんだろうな。

 さて、


「なんでここに柚と柚のお袋さんがいるんだ?」

「やほー! 晃太おひさ! そしてどんまいっ! あはははは 」

「あらやだ晃太くん。[柚のお袋さん]じゃなくって、か、[日菜子さん]でもいいのよ?」


 なんでだよ。つか柚笑いすぎ。


「いや、いいから質問に答えてくれ」

「いやぁ、あんたの親からアタシの親に連絡きて色々頼まれてね。そのついでに顔見に来たのよ」

「頼み事? 父さん母さん、なんのことだ?」


 天音母娘の反対側に座る両親に目を向けると、父さんがどこぞの司令官みたいなポーズをして言った。


「知りたいか? 晃太よ」

「いや、かっこつけなくていいから。その変な柄のシャツで台無しだから」


 なんだその柄。

 見たこともないような動物が手招きしてて、その上に[へい!かもん!]って印字してある。

 ダセェ。


「これは彩那がプレゼントしてくれた服だ」

「最高だ。ナイスセンス。超最高」


真峠まとうげ 彩那あやな】今年小五の妹。年が離れてるせいもあるのか超可愛い。

 はやく会いたい。


「それで、柚ちゃんに頼んだのはお前の次の仕事先だ」

「仕事? なんでまた。まぁ、探す手間がないのは楽だけど。で、決まったのか? 履歴書もなんも書いてないけど」

「もちろん! あんたは盆明けからうちの学校の用務員になってもらうわ。履歴書はいらないわよ。うちらの高校の時の教頭覚えてる? その教頭が赴任してきて、今校長やってるの。頼んでみたらオッケーだって」

「まじか……。散々説教された記憶しかないのによくオッケーだしたな」

「まぁ、人柄じゃない? いたずらはするけど、悪さはしなかったじゃない?」

「そういうもんかね。……ん? そいえばお前の学校遠くなかったか? 確か、通うために部屋借りてるって言ってたよな? 俺がここから通うのキツくね?」


 俺がそこまで言うと四人ともニヤニヤし始めた。なんだ?

 そこで初めて母さんが口を開いた。


「誰がここから通わせるっていったかしら?」

「は?」

「晃太、いつからお前の部屋があると勘違いしていた?」


 いや、勘違いも何も二階に俺の部屋あるだろうが。

 ……ちょっと待てよ。そいえば俺が送った荷物がどこにも見当たらない。

 自分で運ぶから玄関に置いといてくれって、言ったはずだが……。

 嫌な予感がして階段を上がり、自分の部屋があった場所にむかう。すると扉には木製の【あやなのへ〜や♪】って表札がぶら下がっていた。手作りかな? 上手上手。後で褒めないと。

 ……じゃないっ! ここは俺の部屋だったはずだ!

 覚悟を決めて扉を開くと、そこはぬいぐるみと様々なパステルカラーで彩られたメルヘンルームだった。


 俺はそっと閉じて下に降りた。


「見たか? 目は大丈夫か?」

「父さん……。大丈夫だ。少しチカチカするけど」

「うむ。父さんもそうなった」

「ってそうじゃない! 俺の部屋は? 送った荷物は?」

「あぁ、それは日菜子さんから説明してもらおう」


 柚のお袋さんから?

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