第2話 平凡女子高生がトリップした


「はぁぁぁあ…よかった…」

奈子なこと別れたあと、自宅に駆け込んだ有紗アリサは、買ったばかりの3巻を読んで感慨にふけっていた。


「エリザベスちゃんは、アーサー、スピーサどちらに振り向くのだろう…アーサーの独壇場かと思いきやツンツンのスピーサがちょっとデレてきてるし…かと思えばクールなイオがいい場面サラッと持っていくし…はぁぁあ、早く次が読みたい!」

寝転びながら小説を読んでいた有紗は、半分興奮状態で悶えながら寝返りをうつ。


「…ん?」

不意に有紗は巻末に『プレゼント!』のページを見つけた。食い気味に見る有紗。

「えっ!なんかグッズ出てるの!!!」


『プレゼント!』のページには何がプレゼントされるかは記載されておらず、『プレゼントはこちら』という文字とQRコードのみが記載されている。有紗は少なすぎる情報を不思議に思ったが、まあ小説についているものだしと、とくに不審には思わずに、スマホを取り出し、QRコードを読み込んだ。



画面から眩しい光が放たれる。

「えっ!?え!?」

慌てて電源を切ろうとするが、切れない。びっくりした有紗はスマホを床に投げた。


一瞬、世界が暗転した。




***



頭が痛い。眠たい。体が重い。なんでだろう。

さっき、スマホが光って、それで…


「んん………ハッ!!!」


有紗は目を覚ました。あれ空が見える。草の香りがする。なんで?なんで外にいるの?

しかも、身体が上手く動かない。誰かが上に乗っているよう…


チャキ…

首筋には冷たい感覚。刃物が当てられている。 え、これなんかヤバくない?と有紗は感じ取った。


「だれ…?」

有紗は恐る恐る聞く。

「それはこっちのセリフだ。動くな、なんだお前どこから来た。」 


太陽が眩しくて相手の顔が逆光になっていたが、だんだんと目が慣れてきた。綺麗な肌、金色の髪の毛、鋭い瞳、ほどよく鍛えられた身体…まさか。


「す、すぴーさ?」

「! オレ様の顔を知っているとは、やはりお前は敵国の者か。」


間違いない。この男性は先ほどまで読ませていただいていた小説の登場人物のスピーサだ。喧嘩っ早くてツンツンで、真っ直ぐな男、『雷鳴らいめいの国』第2王子のスピーサだ。スピーサはイラストでしか見たこと無いけれど、有紗の全神経が彼はスピーサだ、と教えてくれている。着ている衣服も、スピーサのものだ。


どういうことだ。私はトリップしたのか。

とりあえず首の刃物を退けてもらわないと。

私死んじゃう。

有紗は半ばパニックだった。


「す、すすすスピーサ様」

「んだよ」

「私は怪しいものではありません。気付いたらここに倒れておりまして…」

スピーサの眼光に力が入る。オーラがすごい。圧でしめられそう。蛇に睨まれたカエルだ。実際スピーサはライオンみたいだからライオンに睨まれたカエル。無力であると感じる。王子というだけあって、気高く生きているんだと再確認させられた。


「そこまでにしておきなよ、彼女無抵抗だから」


「ちっ」

ある人の声でスピーサが有紗から離れる。有紗はこの人の声を聞いたことないけれど、有紗の全神経が、きっとこの人だよって教えてくれている。

スピーサが離れたタイミングで勢いよく起き上がる。スピーサはなんだか声の主が嫌そうだ。顔をしかめている。


「あっあっアーサー!!!王子!」 

有紗は思わず叫んだ。

「へぇ!僕の名前を知っているんだね。僕の国の人じゃないみたいだけど…こんにちは」

青年がびっくりした後に微笑む。


私の目の前には読者投票の人気ランキング1位の、『の国』第1王子のアーサーが立っていた。穏やかに笑う彼は、小説の通りだった。かっこよくて爽やかでザ王子だ。みんながみんな彼を好きというだろう。本当に、太陽みたいな人なのだ。


「スピーサ、女の子に暴力は良くないよ」

「アーサーは甘すぎんだよ、スパイかも知れねーだろ、変な格好だし」



変な格好と言われてムッとしたが、たしかに高校の制服はこの世界の服装には浮く。私の周りにはスマホもカバンもなにもなかった。



何もない…ということはつまり…

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