第27話 味方

『幸太郎・・・・・・・幸太郎・・・・・・』また誰かが俺の名前を呼んでいる。


「誰だ、姿を見せろ!」前回と同じく暗闇の中に俺は一人立ち尽くしている。


『あなたは誰の味方なの・・・・・・・・、あなたに真実は見えているの?』声は俺に問いかけてくる。


「何の話だ?! お前は誰だ!」俺は精一杯大きな声で叫ぶ。


 辺りの様子が一変する。 暗闇がいきなり明るくなり俺の周りは真っ赤な炎に包まれている。


「オギャー、オギャー」赤ん坊の泣き声が聞こえる。俺は炎をかき分けて声のする方向に駆けていく。だが、いっこうに赤ん坊の姿は見えない。


「ど、どこ、何処にいるんだ?!」赤ん坊の声は大きくなり、俺の頭の中を響き渡る。

 声の主を探し俺は息の続く限りは知り続けた。何処まで行っても炎は無くならなかった。


「あ、あれは?!」炎の中に人影が見えた!


「おい! 大丈夫か!」駆けつけた俺の目の前に子供を抱いた母親らしき女性の姿があった。


「早くこっちに! 早く・・・・・」二人を助けようと手を伸ばすが届かない。 その母親は俺の言葉が届かないように無反応であった。彼女は赤ん坊の顔を見つめ大粒の涙を流している。  

彼女の腕の中の赤ん坊はグッタリとしている。どうやら先ほどからの鳴き声は彼女の抱いている赤ん坊のものではないようだ。

動かない赤ん坊の様子を見て、落胆した母親は力尽きるようにその場にしゃがみこんだ。その動作と同調するかのように建物が崩れ彼女の姿を隠した。


「うおおおお!」俺は嗚咽を漏らしながら叫んだ。目の前にいた二人を助ける事が出来なかった。俺には普通の人には無い力があるはずなのに、その力を使うことが出来なかった。



「ああ、うあああああああ!」


「幸太郎君! 幸太郎君!! 大丈夫?!」体を激しく揺らされて目が覚める。目を開いた先には、心配そうに見つめる直美の姿があった。


「・・・・・・どうしたの、一体?」


「うわー!」俺は思わず彼女の体を抱きしめた。


「ちょ、ちょっと?!」直美は慌てて顔を真っ赤に染めている。


「うう・・・・・・・」誰かに抱きしめてもらわないと心を保てないほど病んでいた。


「大丈夫だよ・・・・・・・夢だから、大丈夫だよ。何かあっても私が幸太郎君を守ってあげるから・・・・・・」直美が優しく頭を撫でてくれた。その心地良さに俺は赤子のように目を閉じた。抱きしめた直美の体は折れそうなほど細かったが柔らかくて暖かいものであった。

 そのまま、俺はもう一度眠りの底に落ちていった。その夜、もう同じ夢を見ることは無かった。

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