第18話 憩い

 直美の案内でテーマパークへ行く事になった。外国の映画を題材にしたアトラクションを堪能できる施設が満載である。実は、俺もここに来るのは始めてであった。人気のアトラクションは行列が出来ていて、ファムは並ぶことに抵抗を示したが、それも楽しみの一つだという直美の説明に納得していた。


「なんじゃこれは?! 人間界にも恐竜がまだいたのか?」ファムは立ち上がり身構えた。船に乗って作り物の恐竜の中を進むアトラクションで彼は興奮しているようだ。


「い、いえあれは、作りもので」彼は興奮して俺の言葉は耳に入っていないようであった。

 次は車に乗ってタイムスリップ!


「おお、人間界はすごいのう!」無邪気に少年のように感動している。

 女の子が風船を持って走ってくる。


「迷子になるから待ちなさい!」後ろから母親が追いかけてきた。


「あっ!」女の子の足が絡みころんだ。その弾みで風船を手放してしまった。「あーん!」彼女は泣いてしまった。結構高くまで飛んだ風船を、ファムがジャンプして掴み着地した。


「ほら!」彼は言いながら女の子に風船を返してやった。


「あ、ありがとう・・・・・・」女の子は顔を赤くしながらお辞儀した。


「すいません! 有難うございました」追いついた母親も頭を下げた。


「お、おう」ファムは少し照れたように返答した。

 なんだか、魔王に抱いていたイメージと違っていたので驚いた。俺は初めて彼に会った時は冷酷無比の女好きの印象しかなかった。 まあ、今とは姿容も違っていたのだが・・・・・。


「どうした、コウ」また俺の尻をファムが撫でている。女好きには変わりないようだ。


「いかがですか? 人間界の感想は」神戸がファムに感想を聞いた。


「うむ、人間界は楽しいところじゃ! ワシは気に入ったぞ」ファムは満面の笑顔で返答した。キュー・・・・・・突然、ファムのお腹の虫が鳴いた。


「うふふふ、そろそろお腹が減りましたね、食事でもいかがですか」直美が提案をした。


「おお、飯か! 直美、でかしたぞ!」ファムは満面の笑顔を見せた。俺達は、テーマパークを後にして、ファミリーレストランに移動した。ハンバーグのセットを人数分注文する。


「魔王様と一緒に食事なんて・・・・・・」神戸は少し躊躇している様子であった。


「ワシは構わんぞ! むしろこういう食事に昔から憧れておったのじゃ」本当に嬉しそうであった。

 注文した品が運ばれてきた。


「美味い、美味いぞ」ファムは美味しそうに食べる。 その様子を俺は微笑ましく感じた。


「お城では、もっと良いもの食べているんじゃないのですか?」俺は素直に疑問を言った。


「そうじゃな・・・・・・でも、肉はもっと硬いし、こんな味付けも初めて」そこまで言ったところでファムの表情が激変した。「やはり、来おったか!」彼は立ち上がると店の外に飛び出した。


「え、ファム?!一体なにが・・・・・・、 直美御免!」俺は彼の後を追いかける。会計はとりあえず、直美に任せることにした。

 暗い人目につかないビルの間にファムは仁王立ちしている。


「一体、どうしたんですか?」真剣な顔で宙を見上げるファムに向かって聞いた。


「ワシを追って来たようだ!」ファムが見上げる辺りが美しく輝いた。 そこに人影が現れた。


「あ、あれは?!」見覚えのある顔であった。 たしか、魔界に行った時にファムの横にいた天使だ。


「あやつは、ワシの命を狙っておったのじゃ! 魔界では我に寝返ったふりをしていたが、やっと本性を現しよった」ファムはしてやったりという顔をしていた。


「魔王様、無用心ですぞ! お一人で外遊とは」美しい顔をして天使は言った。彼、いや彼女? 性別は良く解らない。姿は女のようであったが、声は明らかに男のものであった。胸は豊胸手術でもしているのではないかと疑う位巨大であった。

 ファムは両手を頭の辺りでクロスして、手の平を開いた。強烈な光を発したかと思うと天使に向かって飛んでいく。彼はその攻撃を右手一つで軽くかわした。


「ありゃ?!」ファムは拍子抜けした声で呟いた。


「考えが浅かったですね。貴方はその姿では、本来の力の半分も出せないようですね」天使が掌をかざすと、先ほどのファムより更に激しい光線を発射した。


「危ない!」俺は無我夢中でファムの前に飛び出て、両手を使い攻撃を弾き返した。光線は方向を変えて、上空に飛んでいった。俺は自分の力に驚愕する。


「ちっ、またあなたは邪魔をするのですか」天使は訳の解らないことを言いながら攻撃を繰り返す。その攻撃を俺は片っ端から上空に弾き飛ばした。


「コウ君!」直美と神戸が駆けつけてきた。 直美は指輪に触れると、魔法衣へと姿を変えて桃色の髪の少女へ変身した。


「おお、これは!」ファムは変身する直美の姿を食い入るように見た。


「きゃ!」ナオミは恥ずかしそうに両胸を覆った。


「ナオミさん! 魔法円を使って!」神戸が叫ぶ。

 ナオミは自分の右手の手甲を確認すると宙に円を描いた。彼女の作った魔法円の中に二つの目が光る。


「な、なんだ!」中から巨大な蛇が飛び出して、天使の体に巻きついた。


「くっ! 召喚術ですか!」彼の体に蛇が食い込んでいく。


「コウ君、電撃よ!」神戸が叫んだ。彼女の合図に合わせて俺は人差し指から電撃を、天使を狙って発射した。

 電撃が当たったかと思った瞬間に天使の体は四散して花びらに変わった。


「逃げおったか」ファムが苦笑いしながら呟いた。天使はどうやら電撃をかわす為に、姿を消したようであった。 ナオミの召喚した大蛇も魔法円の中に姿を消した。


「どうして、あの天使は貴方の仲間じゃなかったのですか?」俺は電撃を発した脱力感の襲われながら聞いた。


「あやつは天界を裏切ったふりをして、近づいて来てワシの命を狙っていたのじゃ。まあ、それなりに有意義な情報も引き出したし、そろそろ頃合かと思ってな。ワシが一人になれば狙ってくると踏んで人間界にきたのじゃが・・・・・・まさか、力が半減するとは誤算じゃったわ」呑気に反省の弁を述べた。


「それならそれで先に言ってくださいよ!」


「ワシ一人で決着をつけるつもりでおったからの。まあ、何とかなったのじゃからいいではないか」頭の後ろで両手を組みながらファムは笑った。

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