第4話 事故

 あの日から数週間が経過した。


 モンゴリーはいつの間にか叔母さん達にも認められて家族の一員のように暮らしている。

 あの変身の後、俺達の人差し指には細いリングの指輪が姿を現した。その指輪の表面には、それぞれのカラーの小さな石が埋められている。 俺は何度か外そうと試みるがそれは無理であった。

 指輪に触れて変身する時は、この小さな石が輝き毎度服が飛び散るのである。俺は極力自分が変身することは拒否した。ただ、目の前でシオリさん達が変身する光景を直視することが出来なくて目を覆ってしまう。


「幸太郎君、早く! 学校に遅れるよ!」直美の声が聞こえる。


「ああ、分かっているから、ちょっと待ってくれ」言いながら、モンゴリーに目をやる。彼女は大きく欠伸をした。


「よく、毎朝毎朝同じ事を飽きもせずに繰り返せるものね」呆れたような口調で彼女は呟いた。


「うるせー!」俺はモンゴリーに言い返す。

モンゴリーは呆れた顔でドアを見た。 その動作に合わせるように部屋の扉が開いた。


「幸太郎君、 早く! あ、モンゴリーおはよう」直美はモンゴリーに話しかけた。


「おはよう、直美」モンゴリーは軽く伸びをした。

 喋る猫。

 普通に考えれば異常な状況であるが、俺達にとってそれはいつの間にか普通の事となっていた。


「遅刻しそうよ! もう、私にも愛美みたいにテレポート能力があればいいのに!」

 愛美ちゃんはモンゴリーから貰った能力を頻繁に活用して、時間を気にしないで楽々と通学しているようだ。彼女は一番頻繁に変身を繰り返しているようだ。


「お前の能力はまだマシだろう! 俺の能力は役に立たない上に、変身したら女の体に変わるし本当に使いようがないぞ!」なかなか、日常の生活の中で物体を爆破させることなど起きない。


「でも、いいじゃない。綺麗な女の子に変身できて、・・・・・・・お風呂で変身しているんじゃないの?」直美が疑いの瞳で睨みつけた。


「アホか! 自分の体を見て欲情するほど変態ではございません!」

 鞄を取り部屋を飛び出しで学校へ向かう。その後を直美も追いかけてくる。


「ちょ、ちょっと馬鹿太郎! 置いていかないでよ!」直美の罵声が聞こえてくる。

 モンゴリーは後ろ足で頭を掻きながら俺たちを見送った。今日も空は濁りきった色をしていた。


 人通りの少ない通学路。

 目の前を小さな女の子が駆けていく。

小学校の高学年ぐらい、俺達と同じように遅刻しそうなのかすごく慌てている様子であった。

 信号機が青であったので、彼女は左右をろくに確認しないまま横断歩道に飛び込んだ。


「あ、危ない!」直美が叫んだ。

 大きなクラクションを鳴らしながら、車体の低い車が交差点に飛び込んできた。

直美は少女の近くに駆け寄りながら指輪に手をかざす。

俺も交差点の中に駆け込み少女の体を庇うように抱きしめていた。


「駄目だ!」ガラスの割れる音が聞こえた。しかし俺の体には衝撃を感じる気配が無い。

ゆっくり目を開くとピンクの髪の少女が間一髪で、車の動きを両手で制止していた。ナオミは素早い動きで少女の命を救った。

 フロントガラスを割って運転していた男の体が車外に飛び出していた。 どうやらシートベルトをしていなかったようである。飛び出した男の体を、いつの間にか現れたシオリさんが受け止めている。


「て、天使?!」男はシオリさんの顔を見て呟いて気を失った。 シオリさんは無造作に男の体を放り投げた。


「今は魔女よ・・・・・・・」彼女は呟いた。


「信号を渡る時は、気をつけなくては駄目よ。解って?」シオリさんは女の子の頭を優しく微笑みながら撫でた。


「御免なさい・・・・・・」女の子は申し訳無さそうな顔をして今にも泣き出しそうな様子であった。


「大丈夫? 体に怪我は無い?」ナオミは女の子の体を心配する。


「・・・・・・」女の子は無言のまま頷いた。


「良かった!」ナオミは満面の笑みを浮かべながら女の子の頭を撫でた。 女の子も安心した様子で同じように微笑んだ。


「早く学校に行きなさい。遅刻するわよ」シオリさんが女の子に言った。


「有難う! お姉さん達!」言いながら女の子は手を振りながら走っていった。

 俺も指輪に触れて少女の姿に変身した。 ゆっくりと車に近づいてからボンネットに触れる。


「皆、下がって!」皆に指示する。

 シオリさん達が車の位置から離れた事を確認してから、俺は先ほどの車を見つめた。 その瞬間。車は大きな音を立てて爆発した。


「な、なんだ?!」その音に驚き、運転していた男が眼を覚ました。

 目の前には燃えさかる炎が見えた。 燃えているのは明らかに自分の愛車であった。


「・・・・・・・」男はショックのあまり、言葉が出ない様子であった。俺達は爆発した車の騒動にまぎれて姿を消していた。

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