第43話:助っ人の実力

 メアのことを父親が内気と言っていたのは意外だった。道中、よく明るい表情を見せていた。


 しかし、確かにはじめは、僕に対し距離を置こうとしていた。自分の魂は汚れている、だから近づくな、と。きっとそういう態度を取ってしまうような、辛い経験が彼女にはあるのだ。


 だからこそ、協会で助けに入り、触れることを嫌がらなかった僕を、短期間で信頼してくれたのかもしれない。そうだとすれば、それは嬉しいことだ。


 そんなことを考えながら、小屋で体を休めるうちに、時間は過ぎていった。魔物に動きは見られなかったらしい。その日は、そのまま他にすることもなく眠りについた。


 翌朝になって、目覚めた僕は葬魂の村の中を見て回った。


 大きな建物はない。畑のようなものも、あまり見あたらなかった。果物や狩った肉を主に食べて生活しているのだろうか。


 ここで暮らす人々はみな細身で、服もぼろぼろの物を着ていることが多かった。髪の色はばらばらで、メア親子のように皆が紫紺の髪というわけではないようだった。


 外見だけであれば、街に溶け込んで暮らせそうにも見える。しかし、きっとメアのように魂を扱う職業を持った人が多いのだろう。その正体を隠して長く暮らすことは難しいのかもしれない。


 村の人々は、僕に対して警戒する様子をみせていた。よそ者が滞在することなどほとんどないのかもしれない。僕たちが助っ人の冒険者だということは伝わっているようで、声をかけてくる者はいなかった。


 そうやって時間を潰していると、やがてメアの父、カルダに呼ばれた。村の中では比較的広い小屋に入る。そこにはメアとエリル、それに数人の村人が集まっていた。


「ヒュドラが目覚めたようだ」

 カルダが一同を見渡して言う。どうやら、彼は村でも指導者に近い立場ようだった。


「進路は?」

 若い村人の男が、険しい表情をして聞く。


「残念だが、こちらへ近づいているらしい。秘匿魔法のおかげで、魔力やにおいでここが検知される心配はないが、魔法の壁は魔物の侵入を妨げるものではない。見つかるのも時間の問題だろう」


「やはり、戦うしかないか」


「この集落を戦場にするわけにはいかない。老人もこどもも、みなここへ避難している。戦える者でうって出て、魔物を迎え討つしかない」


「勝てるのか、俺たちで?」


「難しいが、やるしかない。それに、今回はテトラ・リルから腕利きの冒険者も助けにきてくれている。勝機はきっとある」

 カルダが言って、村人たちの視線が僕とエリルに集まる。


「こんな坊主と女の二人が、本当に役に立つのか? それによそ者は信用できん。魔物と一緒になって、俺たちに襲いかかってくるかもしれん」

 若い村人の男が、にらみつけてくる。他の村人たちも同じ意見のようで、険悪な雰囲気がただよう。


「この方々のことは私が保証する。それに、これを機に私たちを滅ぼしたいのであれば、たった二人でくるはずがないだろう」


「だから、そのたった二人が、魔物退治にどうやって役に立つんだ、ってきいて──」


「やめてください」

 メアが強い口調で遮る。


 男は、驚いた表情でメアを見つめる。どうやら、メアがこのような態度を見せるのは珍しいことらしい。


「誰も相手にしてくれない中で、この方々だけが、私を助けてくれました。葬魂の一族と知っても、手を貸してくれると……。そんな方々の誠意を疑うことは、許せません」


「しかし、外部の人間が俺たちを助けてくれるなんて、なにか裏があるに決まっている」

 簡単に疑いを晴らすことはできないようで、男はしつこく言い募る。


「ただ、お役に立ちたいだけです。必死に、村のために助けを求めるメアを見て、そう思ったんです。それって、そんなに信じられないことでしょうか?」


「お前たちが葬魂の一族をどう思っているのかなんてことは、よくわかってる。なんど罵られたことか。大事な人たちの輪廻を断ち切る、魂の汚れた邪教徒だと」


「それが、メアみたいな子が迫害されていい理由だとは、僕は思いません。それに皆さんの思想だって……」

 言いかけて、僕は言葉を飲み込む。


 迷う魂を天に還す。僕は、そういうことがあってもおかしくないのではないかと、昨晩ひとりで小屋にいるときに、思い至っていた。


 転生課のアイルの言葉を信じるのであれば、人は死に、魂がまた別の世界に転生するのだという。そうであれば、もしその世界で迷う魂があるのだとすれば、それを天に還すというのは、魂を次の世界に送るということではないのか。それこそが、輪廻を繋げる行為に他ならないのではないか。


 しかし、そんなことを説明しても相手を混乱させるだけだろう。


「……とにかく、皆さんを手助けしたい。その気持ちに嘘はありません」


「そこまでいうなら、まあお手並み拝見というところだが、それなりの実力はあるんだろうな?」


「僕は……まだランクワンです。でも、できるかぎりのことをします」


「はっ、これは驚きだな。助けどころか、足手まといにしかならん。わざわざメアが危険をおかして連れてきた助っ人が、ランクワンかよ」

 僕の答えを聞いて、男は大声で嘲笑する。


 何も言い返すことができない。男の言う通りだ。気持ちだけでは、魔物に向き合ってもどうにもならない。それは、ダンジョンで魔物に殺されかけた、僕もよくわかっている。

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