限界突破5回目(2)
僕とフォルトゥナが歩いていると、高橋と出会った。
「よぉ」
「……よ、よぉ」
気さくな挨拶だ。僕は同じ挨拶を返したが動揺が隠せない。どうしてここに高橋がいるんだ?
僕に関して疑いの目を向けていてフォルトゥナ大好きの高橋のことが、僕は正直苦手だ。陽キャなのもあるし、目つきが鋭くて怖いし、心の内を透かし見てくるようで警戒心が働いてしまう。
高橋は特にその場を動かない。僕達がそちらに向かっているので自然と距離が詰まっていく。
「なぁ」
1.5メートルくらいに近付いた段階で高橋がまた声をかけてきた。
「清水は格闘経験とかあるのか?」
「……いきなり、なんだよ?」
「格闘経験があるのか、って聞いてるんだけど」
僕が訝しむと高橋は同じ質問を繰り返した。目つきが鋭い。僕は警戒レベルをぐんぐんと上昇させる。
「ないけど……それがどうしたんだよ」
「そんなはずないだろう?」
「えっ!? 本当に格闘経験なんてないよ。僕が運動できないのはクラスじゃ結構有名じゃないか」
「運動と格闘は違うだろ?」
「そりゃ、違うかもしれないけど…………それ、なにか関係ある話??」
高橋はなにを考えているんだろうか。格闘経験なんかないって言ってるのに、どうしてこんなにグイグイと絡んでくるんだ!
「筋肉の付き方がそれっぽいからな。おまえ、そんなにガタイ良かったか?」
ドキッと心臓が高鳴る。高橋には僕のなにが見えているんだ……。
「普通のやつじゃそんな筋肉にはならないはずなんだがな。本当に、格闘経験ないのか?」
「な、ないよ……」
ウソは言っていない……よな? ドッペルゲンガーとの戦いは格闘技じゃないし、あれは実戦だし。実戦も格闘経験なのか? 高橋はそれを見抜いているのか? ……服の上からなにを覗いてきているんだ、こいつは。軽く変態の領域じゃないか。
「そっか。もったいねーな、そんなにいい体してるのに」
「き、気持ち悪い言い方するなよ」
「気持ち悪い? ……あぁ、そういう。安心しろ清水、俺は男には興味ないからな」
高橋はニヤッと笑う。そしてチラッとフォルトゥナを見る。
「どっちかと言えばフォルトゥナちゃんには興味あるけどな」
「わ、わわ、私っ!?」
キョドるなキョドるな。どれだけ人見知りなんだよ。
高橋はフォルトゥナがどストライクだと言っていたから今の発言もあながちウソじゃない。というか本心だろう。でも、なぜか冗談を言っているように聞こえる。彼の持つ雰囲気がそうさせるのか。
「ははっ、かわいい反応だな。フォルトゥナちゃんは、見た目よりもかわいい性格してるんだな」
「……見た目よりって、どういう意味?」
屈託なく笑う高橋に対し、人見知りを忘れてフォルトゥナがムッとして言い返す。年齢のことだと思ったんだろうな。高橋が言っているのは、おそらくキレイ系なのにかわいい系の反応をフォルトゥナが返していることだと思う。
こうやって笑っている高橋からは怖い印象が薄れる。目つきが悪いのは黙っているときと真剣なときくらいだ。普段はやっぱり陽キャの友達同士でこうやって笑い合っている。そのときの高橋だけを見れば怖いイメージはあまりない。
……間違っても僕と高橋がそんな関係になるとは思ってもいない。いないのだが……。
今のやり取りは、結構いい感じなんじゃないか? 友達……ではないけど、ただの知り合い、仲の良くないクラスメイトってわけでもない。高橋と僕が教室の一角で笑い合っている——そんなワンシーンを想像しても、罪じゃないよね?
「引き止めて悪かったな、清水」
高橋は笑顔のままだ。僕はどうとも言えない曖昧な顔で返す。
「なぁ、清水」
「なに、高橋?」
真剣な表情に切り替わった高橋は、やっぱり怖い目つきで僕を睨むように見る。
「せっかくだからなにか格闘技やれよ。おまえだったらいい線いくんじゃないか? その体で帰宅部インドアじゃもったいねーからな」
また笑顔になった。表情がコロコロ変わるやつだな、高橋は。
「……考えておくよ」
でも、そんな高橋とのやり取りもまんざら嫌でもない。これが、高橋が仲間を集め、日々たのしく過ごせているコツなのかもしれない。僕もなんだかそんな空気に呑まれてしまったようだ。
「なにか悩みがあったら俺に言えよ。相談だったらいつでも乗るぜ?」
「………………考えておくよ」
思いも寄らない高橋の言葉に僕の頭は一瞬フリーズしてしまった。
相談に乗る? あの高橋が?? 僕の!? ……なんの心理テストだ?
「じゃあ、また明日な」
僕が混乱の極みに陥りそうになっている間に、高橋はそう言って片手をシュッと上げて立ち去っていく。なんだか妙にサマになっているな。なにをやってもカッコいいんだな、高橋は。
「見た目よりいい子そうね、彼」
見た目より、の部分の強調が酷い。高橋クラスを捕まえて、いい子、とか言うフォルトゥナは器が大きい。まぁ、フォルトゥナから見れば高橋のようなイケメンでも子供扱い——しょせんは男の子ってことだろう。
だったら、そんな高橋よりも子供な僕は……やっぱり子供扱いだろうな。
してやったり、と満足そうな表情を浮かべているフォルトゥナの顔を僕は盗み見た。
ドヤ顔女神様はやっぱりキレイで、一般市民の僕にとっては高嶺の花で、神という世界にとって重要な存在で。
——とても手が届くことがないことだけを心の内側に刻み込むには充分だった。
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