限界突破3回目(4)
おまえは本当に清水か……か。
結局高橋からの問いに僕は「あたりまえじゃないか、なんでそんな風に思ったんだよ?」と返した。高橋は「……なんとなく、だ」とだけ答えた。僕らの間に気まずい沈黙が訪れ、少しすると高橋は特になにも言わずに僕の席から離れていった。自分の席に座ると、チラとだけ僕の顔を見た。目が合った僕はそれとなく視線を外してしまった。
なんなんだろう。どうして高橋は急に僕に話しかけてきたんだろう。フォルトゥナの知り合いということになっている僕を通してフォルトゥナと仲良くなろうとしただけだろうか。どストライクだって言ってたし。
でも、これは僕のなんとなくだけど、高橋はなにかに勘付いたんじゃないかと思う。僕とフォルトゥナの関係のことか、それとも僕以外に僕がいる——つまりドッペルゲンガーの存在にだ。
「……リョーくーん」
「おわっ! どっ、どうしたのフォルトゥナ!?」
「緊張したぁー!」
「緊張……? えっ、なにが!? いったいなんの話?」
聞けばさっきまでフォルトゥナがクラスのみんなに囲まれていたことだった。どうやら僕の想像とは違って、フォルトゥナは誰に対しても明るいというわけではなかったようだ。つまり、意外と人見知りだったのだ。人見知りの女神って……。
僕といっしょなら大丈夫だけど、ひとりだと知らない人とまともに話せないようだ。フォルトゥナがクラスメイトによる囲み取材でソワソワした様子だったのはこの人見知りが理由だとのこと。しかし、転校生設定なのに人見知りだなんてかなり致命的だ。そんなんじゃクラスに馴染めないじゃないか。
「そもそも、どうしてフォルトゥナが学校に来てるんだよ?」
僕はフォルトゥナの耳に顔を寄せ、小声で話しかけた。
「しかも、親戚で同級生って無理がありすぎだろ」
「でも、意外と似合ってない?」
フォルトゥナはせっかく小声で話すために近づいた僕からわざわざ離れ、スカートの裾を手に取りちょっとだけ持ち上げた。真っ白な太ももが露出する。そういうのやめて。
「似合ってるとか似合っていないとかだと…………なんだかいけないことをしている気がする」
「それじゃどっちかわかんない!」
よく似合ってるけどぶっちゃけ年齢が……。言っていいのか、そんなこと?
女子高生のコスプレをしている大学生が一番近いか? 単体で見たらそれっぽいけど、クラスの女子と並べれば年齢差があることがよくわかる。フォルトゥナがスタイル良すぎなのもあるけど、やっぱりちょっと年上感が強すぎる。
「似合ってるよ。それはもう不自然なくらいに」
「わー、ありがとー! やっぱりそうだよね? 私、自信あったんだ」
「……あぁ、うん」
褒めたわけじゃないんだけど……。
テンションが高くなったフォルトゥナが悪目立ちをしている。それ以上はしゃぐと女子から嫌われかねないぞ。ただでさえ、男子の目が集中しているのだ。ちょっと自重してくれないかな。
「ねぇ、フォルトゥナ」
ちょいちょいと手招きする。このクラスの中だとほとんどの内容が大きな声で話すことができない。不便すぎる。
「ん、なに?」
「まだ僕の質問に答えていない。どうしてわざわざ学校に来たんだ? 現実世界だとフォルトゥナは浮きすぎてる」
「それはもちろんリョーくんの護衛よ? 家でもそうしたじゃない」
そうなんだ。学校に来ていることも驚きだが、これもどうやったのかはまったくわからないのだが、フォルトゥナは普通に家に馴染んでいた。やっぱり親戚の子ってことになってたんだけど、僕の父さんと母さんはなぜか疑問に思わない。いったい両親どっちの親戚なんだ? 漠然としているのに、その漠然が受け入れられる妙。あたかも僕だけが狂っている世界みたいだ。
「護衛って……そんなに僕って危険な立ち位置にいるの?」
「そうねぇ、危険と言えば危険かな?」
軽いなぁ。
フォルトゥナは重要な件を軽く伝えるフシがある。重要なだけに簡単にスルーできないんだけど。
わざわざ自宅に居着いたり、学校で同級生になったり、僕の護衛をするための距離が相当近い。それくらい、なにかが起きるときは急展開なのだろう。
「なにかあってからじゃ遅いもの。私がリョーくんが安全に戦えるように見張っていないとね」
「それはありがたいんだけど……もっといい方法はなかったの? さすがに学校まで来られちゃうと僕が目立ちすぎるんだけど」
「他にもないわけじゃないけど、これが一番簡単だからね」
パチリとウィンク。クラスがざわつく。フォルトゥナのウィンクが自分に向いたものと勘違いしたのか、それとも僕に対する嫉妬の感情からか。
1対1だったら僕がドギマギするだけで済んでいたけど、衆人環視の中ではフォルトゥナのこの行動は目に余るものがある。やっぱり控えてもらわないと僕の地味な学校生活が台無しだ。もう台無しになりかかっている気しかしないけど。
それにさっきから気になっている。高橋がずっと僕らを睨むように見ているのだ。でもあれも睨んでいるわけじゃなく、僕とフォルトゥナがどんな関係かを観察して推察しているのだろう。とても仲睦まじくしているように見えているに違いない。
……はぁ、もう目立たず生きるのは無理なのかな、僕。
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