第32話 再会【佑李side】
「ユーリャ、久しぶり。グランプリシリーズのロシア大会以来かな?」
翌日の早朝。
父さんとホテルから少し離れた公園に歩いていた。
ロシア語で話ながら並んでいくのは、初めてかもしれない。
俺は父さんと会っていたときの記憶がないくらい小さかったんだ。
「うん。俺、もうちょっとで父さんの背を越えるね」
俺は父さんとほぼ同じ目線で話している。
こう見ると父さんはロシア人にしては小柄な印象がある。
「大きくなったな。俺にしょっちゅう抱っこされてたのに」
俺はずっと疑問に思っていたことを話した。
「あのさ、父さん。なんで母さんと別れたの? 一緒にいてほしかった」
公園に着いたとき、父さんに話しかけた。
「ユーリャ……リナコ、君のお母さんには申し訳ない気がする」
リナコというのは母さんの名前。
漢字は
俺はその話を公園について、ベンチに並んで座って聞いた。
「うん。でも、母さんは教えてくれないから」
母さんはそもそも父さんことは最低限のことしか教えてくれないし、複雑な心境なのかもしれなくて聞きにくかったんだ。
「だよな……ロシアに一度、ユーリャを見せに行ったことがあるんだ。そのときに俺の母さんがひどいことを言われたらしい」
「そんな……ことって、あるの?」
父さんは悲しそうに俺の肩に手を置いた。
「いや、母さんは少し……変に視野が狭いんだよ。自分は純粋なロシア人だってね」
そのときに俺は初めて父方の祖父母のことを聞いた。
「そうなの。それって……差別してる気がする」
「そうなんだよ。母さんに散々聞かされて、リナコと出会って変わったんだ。当時、彼女はロシアに留学する学生だったんだ」
確か二十歳のときにロシアに留学して、二十四歳の父さんと出会ったって聞いていたけど……。
「友人を通して知り合ってね。そのときから交際が始まったんだよ」
それで母さんが大学を卒業して、父さんが現役引退してすぐに結婚した。母さんの両親は反対していたという。
「俺の誕生日になんでチューリップのネクタイピンを?」
ネクタイピンのことを話した。
「一月七日の誕生花にチューリップがあったんだ。それをモチーフにして買ったんだよ」
「ありがとう。父さん、プレゼントをくれて」
父さんは笑って抱きしめてくれた。
「サーシャはお前を兄だと知ってるし、いつでも連絡してほしい。エアメールの住所に俺は住んでるから」
そのときに俺は涙が溢れてくる。
「うん、わかった。また手紙、待ってる」
いままで抱きしめてくれたのは限られた人しかいない。
だからそのぬくもりがとても嬉しかった。
俺は父さんの家族について聞いた。
ロシアで帰国して翌年に、幼なじみの人と結婚して、アレクサンドルとソフィアが生まれた。
二人とも父さん譲りのダークブロンドで、フィギュアスケートをしているという。
「サーシャとは仲が良さそうだし。ソーニャは来シーズンシニアデビューだから、試合が被る可能性があるから、よろしくね」
彼女は今年の五月に十五歳シニアデビューする最低年齢は七月までに十五歳になるという規定をクリアする。
そうすると彼女は来シーズンからは、同じ大会に出場するかもしれないんだ。
「うん。わかった」
「ソーニャはずっとユーリャに会いたがってる。この大会に出てるから、応援してあげえくれる?」
俺はうなずくと、一旦ホテルに戻って公式練習に参加することにした。
その前にジュニア女子も公式練習をしているみたいで、そこにソフィア・ペトロワ選手――ソーニャがいたんだ。
「
「はい」
シニア男子の公式練習が始まって、昨日成功していた四回転ルッツを確認をする。
あんなに苦戦していたのに、今日は軽々と跳べていた。
その他にすでに成功している四回転サルコウと四回転トウループも跳んでみた。
「
「やった。通しで跳んでもいい?」
四回転の完成度に先生は驚いている。
「佑李くん、何か吹っ切れた?」
先生に言われてうなずくと、トリプルアクセルを跳んでいく。
父さんにジャンプが似てるってサーシャに言われて、少しびっくりしてしまった。
そのときに俺はフリーのイメージが変わってきた。
いままでは寂しさが強かった。
でも、いまは幸せな気持ちを表現したい。
Tシャツの下につけているリングを握り、そっと深呼吸をしてから滑り始めた。
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