出会い系でもう一度君と出会う物語

ゆあん

シーズン1

1-1 人生最悪のモテ期

第1話 

 誰だって一度や二度、モテる男になりたいと思うだろう。

 

 モテる。それは青春において最強のステータス。

 モテれば、バラ色の青春が待っている。

 俺もそう信じていたんだ。


「……それでね、そこのカフェがすごいおしゃれなんだってぇ。素敵じゃない?」


 だけれど、実際はそうではないことを、今の俺は知っている。

 思い知らされたんだ。――この数カ月間で。


「でもぉ、そこはちょっとオトナ向けというかぁ、ちょっと高いらしいんだよね」


 モテて幸せになるには前提条件がある。

 それは、『自分自身の魅力でモテる』こと。


 その条件が抜けると、いったいどうなるか。

 ――その最たる例が、今の俺だ。


「そんな訳でぇ、私を連れてってくれない? ねぇ、才賀君」


 満面の笑みで俺を見つめる彼女も、そう。彼女の目当ては俺自身じゃない。

 彼女の興味は、俺が持っているもの――正確には、最近俺の家族が手にした、『この世で最もわかりやすい価値』に対してだ。


「もちろん、こんなこと、誰にでもお願いする訳じゃないんだよぉ」


 ――学年上位に位置するかわいい女の子に、デートに誘われている。

 それだけ聞けば、なんて羨ましいって思う人もいるだろう。


 けれど俺にはそうは思えなかった。

 だって、彼女が見ているものは、俺じゃないのだから。


「……あいにくだけど、僕はコーヒーに高いお金を出せないよ。持ち合わせがないんだ」


 俺は彼女を見上げて、作り笑いで答える。まさか断られると思ってなかっただろう彼女は、一瞬眉をぴくっとさせて、でも次の瞬間には完璧な笑顔で、首を傾けた。他の男だったら鼻の下を伸ばしただろうけれど、今の俺には悲しい感情しか湧いてこない。


「えー、またそんな事言ってぇ。だって、お小遣いとか貰ってるんでしょ?」

「そんなもの、必要最低限だよ。学食買うので精一杯」


 引き下がらない彼女に、俺は財布の中身を見せた。札の代わりに学食のレシートが並べられ、小銭が数枚。どこをどう探してもお金なんて出てきそうにない財布の、寂しい中身だ。

 だけれどこんな瞬間には、頼れる姿だった。効果はてきめんで、彼女も目を丸くしている。


「こんな感じだから、僕はそのお店には行けないよ。別の人を誘ってあげてよ」


 俺は目線を反らしながら財布をポケットにしまった。それは拒絶の態度としては十分だったと思う。目の前の彼女は大きく息を吸ったかと思えば、ゆっくり吐き出すと、そっか、と言って寂しそうな笑顔を作った。


「じゃあ悪いもんね。また誘うね」


 そういって軽く手を振って、俺の席から離れていく。数人の女子生徒が彼女を取り囲み、結果を聞くや否や、こちらに睨みを利かせてくる。それに目線をあわせなくても何が言いたいのか、俺にはわかる。


 ――調子に乗りやがって。ちょっと金持ってるからってよ。


 そう。彼女達の目的は俺じゃない。

 俺が最近手に入れた、『お金』に興味があるんだ――


 


 俺はきっとこの先も、本当の恋なんてできないのだろう。

 この時はまだ、そう思っていたんだ。

 やがて、あんなに可愛い子と大恋愛をすることになるとも、知らずに。

 

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