第12話 はぁ…地味



 てことでクエストを受けます。お金が無いからね。あの城の人達ほんとにケチです。ギルドの登録料払ったらほぼ空になったわ


「えーっと…この中から選べばいいのかな?」


 そういえばお姉さんも言ってたけどGランクのクエストなんかになると街の中で市民のお手伝いとかそんなのばかりらしい。


 (でもそれって冒険者の仕事って言えるのか?冒険の要素ないだろ……)


 そんな不満を抱えながらもとりあえず一通り見ていると、一つ上のランクではあったが外に出れそうなクエストを見つけた。

 

「薬草採取か……悪くないな、」


 まさにファンタジーって感じだ。

 ――――でもいきなり上のランクのクエスト持ってったらお馬鹿さん認定されちゃったりしないか…?さすがに薬草採取ぐらいなら平気だよな…。


「このクエスト受けたいんですけどいいですか?」


「大丈夫ですよ!でも薬草採取って言っても街の外には普通に魔物もいますので気を付けてくださいね?もしなにかあったら詰所の衛兵さんにすぐ言ってください。」


 街のすぐ近くで雑魚モンスターに絡まれ衛兵に助けを求める冒険者。

 想像するだけで羞恥に身が悶えそうになる絵だ。そして間違いなくこの街においてのその者の冒険者生命は終わりを告げる事だろう。 


「わかりました。毎度毎度心配ありがとうございます。」


「帰ってこない冒険者さん達も少なくはないので…当然の事ですよ。では気を付けて!いってらっしゃい!」




――――――――――――――――――――――――――――




「はぁ…なんか疲れたな。」


 まだクエストを受けただけで何もしていないのだが、冒険者ギルドで味わったあの独特の空気に少しやられてしまったみたいだ。


 ――――まぁなにはともあれ初クエストだ。気合入れていきまっしょい。


 (あのお姉さんには悪いけど正直目的は薬草じゃなくてその先のモンスターなんだよね。流石に勇者が真面目に薬草採取とかしてたら不味いでしょ。色々と)


「よし、問題無し。通っていいぞ」


 その後すぐに詰所へと向かった俺は詰所の衛兵にギルドカードを見せ、いよいよ初となる街の外に出た――――そしてそこに広がる大自然に感動を禁じ得なかった。


 草を踏む足の裏の柔らかい感触、眼下に広がる草原は砂丘のようにゆるゆかに起伏している。遠くには果てしなく続いている大きな山や視界の一端を埋め尽くす深い密林、少し離れた所には川なんかもあった。


「おーっ!外だー!――――なんだかすごい久しぶりに緑を見た気がするな」


 正直城の中はとても肩身が狭かったし、ようやく自由になった気がした俺は嫌でも自分のテンションが上がっていくのを感じた。


「いつかはあの山とか森にも行ってみたいなー。サザンさんが言ってたアザレアの森ってどれの事なんだろ」


 いや、でもたしかサザンさんはアザレアの森はAランクの冒険者がパーティーを組んで行くところだって言ってたよな――――入ったら一瞬で詰むやん。



 ――――なんだか急に冷静になってしまった


「まぁまぁとりあえず今は薬草採取です。モンスターはあとあと」


 先の事はあまり考えないタイプなのだ俺は。そもそも先の事をちゃんと考える様な人物だったなら大した考えも無くフリーターになどなって無かったに違いない。


 とりあえず街を出てからひたすら真っ直ぐ歩いてみたのだが、今のところ魔物らしきモノには遭遇していない。遭遇したのは元の世界でいう兎や豚の様な可愛らしい生き物ばかり。


「そりゃそうか。こんな街の近くに狂暴な魔物なんかいられても困るよな」


 流石Fランクのクエストだけあって薬草は割りとすぐに見つかった。大体にして1時間ぐらい経った頃だろうか、目標数の薬草を手に入れた俺は快適な温度に涼しい風、それらの自然を堪能しながら横になっていた。


「本当に魔王なんかいるのかねー。これ」


 そう思ってしまうのも無理ないくらいに、ここ最近で色々と見てきたこの世界は平和そのものだった。最近は少しバタバタしていて冷静に考える時間が無かったが、改めて考えてみると今現在自分が置かれている状況が物凄いモノなのだと気付く。

 そして自分の思いもよらぬ順応力に地味に驚く。だが少し冷静になって考えてみると家の事が心配になってきた。


 別に我が家は自分と母だけの母子家庭などでは無い。父親もいるし兄や弟だっている。だから自分一人が急にいなくなったとしても別になんら支障も無くあの家は回るだろう。


「ただ――俺は生きてるから大丈夫だよ。って事だけは伝えたいな……」


 それからしばらくは様々な事を思案していたが、程無くして起き上がる。


「まぁ何はともあれ早く強くなって魔王とやらを倒して帰んなきゃな」


 とりあえず今はあれこれ考えるのはやめにした。これ以上母さんの事を考えるとホームシックが発動して泣きそうになる気がしたからってのはここだけの話だ。


「いやー、離れてから改めて実感したけどやっぱ俺ってマザコンなのかなー」


 なんか不意に自分のキモさを再認識して恥ずかしくなり、なんとなく後ろを振り返った時



 ――――そいつを見つけた



「グギィァァアアアアアァアアッッ!!」



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