第10話 はぁ…圧巻



「なんだい兄ちゃん面白い恰好をしてるねー!一本食ってくかい?」


「なんだいその恰好、うちで買うんだったら安くしとくよー」


 早歩きでしばらく歩いていると、いつの間にか街の感じがだいぶ変わってきている事に気付いた。

 未だに不審な目を向けられる事はあるが明らかにその数は減っていた。それはつまりはおそらく貴族街を抜けたという事なのだろう。

 今の今まで気付かなかったが、すれ違う人々の服装も城を出たばかりの頃とはだいぶ変わってきていた。さっきまでの貴族然とした堅っ苦しい服を着ている者もいないし、なんなら鎧の様なモノを纏っている者までいる。


 (まぁこれだけ多種多様な人がいたら俺もそこまで目立たないか)


 先にも言ったが俺は箱入り勇者。街のどの辺りになにがあるか、そう言った事は一切わからない。

 このままでは事態が何も進展しないまま日が暮れてしまう。だから俺は、本来であればほぼお金を持たないこんな状態では話す事など無い筈の人にも声をかけてみる事にした。


 情けないし恥ずかしいがこの際そんな事は言ってられない。


「すいませんお金が無いので買う事は出来ないんですけど……冒険者ギルドの場所とかって教えて貰えないですか?」


 出店でよくわからない肉の串焼きを売っていたおばさんが、一瞬憂い顔を浮かべ俺の顔を見る。


「なんだいあんた冒険者になる為にレスティアに来た口かい?言っちゃ悪いけどあまり強そうには見えないけどねー……。まぁ私が口出す事でもないか、冒険者ギルドはそこをまっすぐ行って――――」


 先程まで様々な人達から陰口を言われながら歩いて来た俺の懸念はいい意味で裏切られ、おばちゃんは親切に冒険者ギルドまでの道のりを説明してくれた。


「ありがとうございます。知り合いとか全然いないのでほんと助かりました。報酬とか貰えたら次こそ食べに来ます!」


「いいのよ。でも……絶対に死ぬんじゃないよ?――――もしまた何か困った事があったら言いなさいな。」


 (いい人だ……。でもなんだか今まで冷たくされまくってきたからなのか、あの優しさにも何か裏があるんじゃないかと思ってしまう……。

 俺の心は汚れてしまったみたいです母さん……)


 それはそうと、やはり俺は弱く見えるらしい。

 身長は173ぐらいで体格もいたって標準だし当然と言えば当然なのだが。たまに見る鎧とかを着ている人達はレスラーみたいな体格をしている人がほとんどだし、細い人も細い人で何やら凄そうな杖なり弓を持っていたりする。


 それに比べて俺は……よくわからない服に武器らしき物は何も持っていない。


 これ冒険者ギルド行ったら絶対絡まれるやつだよな……。

 まぁ行くしか無いのだが。


「たしかーここを右に行ったらあるはず……。――――あった!」


 そこにはアニメとかで見た事があるような、『冒険者ギルド』のイメージそのままの建物があった。

 顔に傷が入ってるヤクザみたいなおっさんや、ほぼ下着姿のえっちぃお姉さん、色んな人がいるけど武器を持っていないのは――――見たところ俺くらいだ。さっきのえっちぃお姉さんもよく見ると禍々しい双剣を腰に備え付けていた。


「はぁ……とりあえず行くしかないよな」


 ちょっと心の準備をするのに時間がかかったが意を決し入ってみる







「かんぱーい!!」「てめぇ如きがグロウウルフを倒したー!?うそつくんじゃねーよ!」「んだとごら!やんのか?」「では報酬はこちらになりまーす」「お、喧嘩か?やれやれー」「あいつもう3日も帰ってこないぞ…」「じゃあ運悪くサーガファンゴにでも出くわしちまったかもなー」「ファーラちゃん今日も可愛いなぁ…」「アーロちゃんこっちでお酌してくれよー!」

「なんだあのガキルーキーか?」「なんだぁあの服、どこの田舎っぺだよ」

「俺明日の冒険から戻ったら告白しようと思ってんだ……」「お前それ絶対死ぬやつだぞ!」「あーだりぃもう狩りなんて行きたくねえよぉー!」「じゃあ恒例のクロスアーム大会でも始めるかー?」





 ――――――圧倒された


 この感情をなんと言い表せばいいのかよくわからなかったが、とにかくソレは凄かった。

 溢れんばかりの活気と熱気に当てられ、なんだかわからないが身体の内から熱いなにかが込み上げてくる様な気がした。  

 

 気付かないうちに俺は、長い間入り口に立ち尽くしていたみたいだ。


「おいっ!なにボサッと立ってんだそこにいたら邪魔だぞ坊主」


 流石に18で坊主なんて言われるとは思わなかったが、改めて周りを見て納得した。そういえば地球でも日本人は幼く見えるとか聞いた事あった様な気がする。


「すいません…初めて来たからちょっと圧倒されてました」


「ん、お前新入りか!そうだろうここはちょっと外とは違うだろ?楽しいぜぇここはよ。楽しみてぇならお前もさっさと馴染まねぇとな!」


 黒い肌にレスラーみたいなガタイ、更に背中に背負っている大剣と最初の「おい!」のせいでヤバイ奴かと思ったが割といい人そうだった。


「えー新人くんー?かわいいわねぇ。お姉さんが手取り足取り教えてあげよっかぁ?」


 大剣レスラーの後ろからひょこっと顔を出してきたロングの赤い髪をしたお姉さんが声をかけてくる。かわいいとか言われる様な年齢ではないし男としてはむしろ怒るべきなのかもしれないが……そのあまりにも妖艶な姿も相まり不覚にも少し照れてしまった。


「とりあえず受付に行けばいいんですよね?」


「そうだな。受付に行ってギルドカードを発行したら後はあの掲示板から適当なクエストを選んで受注するだけだ」


「ありがとうございます!俺はレイアって言います。もしまた会う機会があったら色々教えてください」


「おう!俺はサウロ。で、こいつがフィアだ。死ぬんじゃねえぞー」

「えー行っちゃうのー?またねぇ」


 最初はどうなる事かと思ったが、ギルドで最初に会ったのがこの人たちでよかった。

 何故そう思ったかはわからないが、この二人とは近い内に再び会う様な気がした。



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