第5話 第五話 ダンジョンの奥にいるオークって強いの?

 二人がダンジョンを進むと何かが威嚇をする大きな声が複数聞こえる。

 ミズホとクロフェは警戒しながら声のする方へ向かう。

 濡れた地面に足を取られないように気を付け、光の玉(ライト)の光量を下げる。


「きゃー」


 女性の声がダンジョンの石壁に反射して響く。

 声からするとすぐそこのようだ。クロフェはそう思いながら、ミズホに遅れないように必死についていく。

 ミズホが急に立ち止まり、クロフェは危なくぶつかりそうになる。


 細い道からミズホは広場を覗き込む。クロフェもミズホに習って広場を覗き込むと、そこには六人の男女がいた。

 二メートルは越す巨体は横幅はミズホの倍ほどあり、筋肉の上にたっぷりの脂肪がついている。

 その顔は豚の顔に猪のような牙を持つ、オークが五人いた。どのオークの手にも丸太を持っている。

 その肌の色は通常の緑とは違う赤黒い肌であった。


「あの肌の色はオークエースですね。普通のパーティーでも一匹くらいしか相手にできないのですけど、五匹もいるなんてやっぱり階層が低いと、出てくるモンスターの質も数も変わってきますね」


 そのオークエース五人の相手をしているのは、クロフェより一回り縦も横も大きいひとりの女性だった。

 身を包んでいる白地に金色の装飾を施された神官衣装からこぼれる、緑のウエーブのかかった髪の毛は恐怖のためか乱れていた。ピンク色の大きな垂れ目には不安の色が見える。

 装飾を施された神官杖(しんかんじょう)を体の前にかざし、光の壁を展開していた。

 オークエースの二人が前に出て、まるで太鼓を叩くように丸太で光の壁を叩く。


「我がマナより炎よ出でよ」

「我がマナより氷よ出でよ」


 後ろにいるオークエース二人が炎と氷の塊を飛ばす。

 オークエースの魔法と打撃に光の壁は耐えきれないようにヒビが入る。


「我がマナより雷よ出でよ」


 一番後ろに控えていたオークエースがヒビの入った光の壁を立て直す暇を与えず、雷の魔法を打ち込む。


「きゃ!」


 悲鳴と共に光の壁が消え、防ぎ切らなかった雷の一部が肉付きの良い神官服の女性に当たると、痺れたように倒れこみ、むっちりとした太ももが服からこぼれる。


「オークエースが魔法を使うなんて聞いたことがないです。ただのオークエースじゃなさそうですね」


 クロフェは声量を抑えながら驚きの声を上げる。


 オークエースは勝利の雄叫びと共に女性を捕まえ、服を剥ぎ取る。クロフェより大きな胸とむっちりとしたお尻があらわにされる。その人妻を思わせるむっちりとして男好きする体には線状の赤い痣が幾重にもついており、戦いの激しさを物語っていた。

 白い肌に扇情的についた痣はオークエースの嗜虐心を刺激したのか、ますます喜びの声を上げる。


「いひゃ~」


 雷の影響が残っているのか、ろれつが回っていない声で悲鳴をあげる。


「助けないんですか?」


 クロフェはミズホに問いかけるが、特に反応がない。

 ジッとオークエースたちの様子を見ている。

 そうしていると、オークエースがあらわにした下半身には女性の腕ほどある大きなものがそそり立っていた。


「でかいな……二人、頑張っても三人同時に相手するのが精一杯か」


 ミズホは呟く。


 一対多数戦。師匠と二人ずっと山で修行に明け暮れていたミズホにとって、山を降りてからしか実戦経験はなかった。

 ミズホは師匠の言葉を思い出す。

「結局のところ一対一の状況を作り出せばいいんだよ。相手同士が重なるように動くなり、一撃離脱なんかをうまく生かしてよ」


 おもむろにミズホは自分のバッグをクロフェへ預けて、オークエースたちの方へ歩き始めた。


「ミズホ様……」


 クロフェはミズホの背中を見て呟く。困った女性を見ると助けずにはいられないなんて、素敵な人なんだろうとクロフェは気持ちが高揚するのを感じていた。


「お前たち! そんな女を相手にしないで私と勝負しませんか?」


 今にも犯されそうな女神官はオークエースの腕を振りほどこうとしながら叫ぶ。


「助けてください! ただやられるなんて我慢できません」


 女神官を犯そうとしているオークエースは別の者に合図すると、嫌そうに一人がミズホに近づいてくる。


「我シルフ」


 ミズホは風の精霊を身にまとい、一気に間合いを詰めて飛ぶ。

 

 ゴトッ


 オークエースの頭が落ちる。

 女神官の上に。

 ミズホは向かってきたオークエースを無視して女神官に覆いかぶさろうとしていたオークエースの首を切り落とす。


 光一閃(こういっせん)!


 ミズホの納めるモリタ流の技の一つ。

 居合の一種で抜刀の際、光の魔法を剣撃に乗せる。歴戦の冒険者だったガースの首を落とした技。


「きゃー!」


 オークエース死体の下で血に溺れそうになりながら女神官が叫ぶ。

 しかしこの場には一人を除いて女神官の存在を無視していた。

 残ったオークエースは二人一組で前衛、後衛に分かれてフォーメーションを組み、前衛が二人がミズホへ襲いかかる。

 動き自体は単調だが、その一撃一撃が必殺の重い一撃である。

 ミズホはその二つの丸太をヒラリヒラリと美しい金色の髪をたなびかせながら避けていく。


 ザクッ


 ミズホの日本刀がオークエースの片腕に刺さる。


「硬いですね。切り落とすつもりだったんですけど……修行不足です。これでは師匠にお仕置きされてしまいます」


 傷を負ったオークエースは唸り声を上げてミズホに襲いかかる。


「我がマナより炎よ出でよ」

「我がマナより氷よ出でよ」


 傷を負ったオークエースは間合いに入る直前、急に横っ飛びすると、ミズホの目の前には炎と氷の塊が迫っていた。


 怒り狂った姿はフェイクだ!


「我ユグドラシル! ウォール」


 ミズホの目の前には石の壁がせり上がり、炎と氷の塊を防ぐ。

 その壁の左右からオークエースが丸太を振りかぶり、襲いかかる。


「神の御名において奇跡を起こせ! ライトウォール」


 クロフェに支えられた裸の女神官はミズホの周りに光の壁を作る。


「我サラマンダー」


 ミズホが火の精霊の炎をその身に纏うのを確認すると、女神官は光の壁を解除する。

 それと同時にミズホは右のオークエースに突きを繰り出す。

 ミズホの突きは硬いオークエースの皮膚に阻まれ、剣先しか刺さらなかった。

 オークエースは剣先が抜けないように胸に力を込めて、炎を纏った美形の剣士を掴もうと手をのばす。その赤黒い肌は硬さだけでなく、耐魔法特性まで持っているかのようにオークエースは躊躇しなかった。


「ファイアバースト!」


 ミズホを纏っている炎が一瞬にして消えるとオークエースの口や目、股の間から炎が吹き上がった。まるでオークエースの内側から燃え上がったかのように。


 ミズホは悶え苦しむオークエースを無視して、刀を引き抜くと腰につけた鞘に納めつつ、オークエースが迫る後ろに飛ぶ。


「我シルフ」


 ミズホの背中が丸太を振りかぶったオークエースの腹に当たり、オークエースは前につんのめる。

 ミズホは振り下ろされる腕を掴み、オークエースの勢いを借りて投げ飛ばした。魔法の石の壁を見るとちょうど崩れ落ち、二人のオークエースが魔法を放とうとしている。


 納刀した日本刀の柄に手をかけ、纏った風に乗り二人のオークエースの間を駆け抜ける。


 光一閃! 旋。


 ミズホが二人の間に入った一瞬、ミズホを中心に光の円が水平に出来る。

 一瞬間を置いて二人のオークエースの胴が横に真っ二つになる。

 投げ飛ばされたオークエースが立ち上がった時にはあたりが血の海になっていた。


「ウォー!」


 オークエースは叫び声をあげて、まだ火がくすぶっている仲間の焼死体をミズホに投げつける。

 ミズホは投げつけられた焼死体に向かって走ると、その下をくぐるように足からスライディングする。焼死体と一緒に走り込んで来たオークエースの股の下も一緒に抜ける。

 抜けざま、ミズホはオークエースの股を切りつける。


「ぎゃーーー!!」


 女性の腕ほどあるオークエースの男根が血を流して落ちる。


「しまった!」


 ミズホは振り向きざまに立ち上がると、股を抑えて苦しむオークエースがいた。

 静かに納刀すると、一瞬目を閉じた。


 光一閃!


 この場にいる最後のオークエースの首がゴトりと落ちた。


「この人たちも違うのですね」


 妖艶の美青年は悲しみの表情を浮かべて呟く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る