お題:ほうらん【蓬乱】 よもぎのように乱れること。

 S国の技術で人間の全身3Dスキャンが身近になった。カプセルホテルのような狭いベッドで仰向けになりX線CTで頭から足までスキャニングする。まつ毛一本一本まで正確に記録されたデータはスマホに送られアプリの中でアバターとして利用できる。


 さらにこのスマホの中のアバターに課金してデコレーションすると、現実の自分もオシャレできるのが売りだ。基本的に夜9時までに課金すると翌朝までにはアイテムが自宅に届いている。メガネやTシャツなどが人気アイテムである。


 生まれた時から頭が蓬乱ほうらんで髪の毛が天然パーマとからかわれ、いじめの対象となっていたアスカは中学を卒業してすぐS国へ留学することにした。

 外国では肌の色も眼の色も髪の毛もいろんな色の子がいるし髪型なんかを気にとめる人はいない。それでもアスカは憧れのぱっつんストレートにしたくてアバターに課金してみた。


 翌朝、宅配ボックスにかつらが届いていた。アスカの髪ではボリュームが多いのでそのままかつらをかぶるとかえって不格好になってしまう。休みのうちに髪を切りに行って思い切ってショートにしよう。シャワーのあとに髪が乾くのも早いし手入れが楽だ。


 高校デビューするとすぐに友達がたくさんできた。昔の自分を知らない人ばかりなので楽だ。この国ではみんな当たり前にアバターに課金してオシャレしている。私学なので私服で通えるし日本のような面倒な校則もない。

 アプリの中でもフレンド登録すると、所持している服やアクセサリー類を自由に交換できる。アスカも、友達の不要になったワンピースやピアスをもらったりして高校生活を楽しんでいた。


 課金できるアイテムは、カラーコンタクトや爪、靴や服などファッション全般であったが、夏の大型アップデート後、『足』という部位が追加された。

 部活もやらず少し太り気味の太ももとふくらはぎが気になっていたアスカは、細い足アバターに課金し交換してみた。アプリの中の自分はスラっときれいな足になりミニスカートが映えていた。


「いくらなんでも足は届かないよね?」

と思いつつも期待してその日は寝ることにした。


1.義足が届く

2.足が細く見えるニーソックスが届く

3.足が細くなるサプリメントが届く


 のどれかだろうと予想をしていたのだが、翌朝アスカが起きたらスマホ内のアバターのように足が本当に細くなっていた! 仕組みはわからない。寝ている間にスーパー高速マッサージでもしてくれたのだろうか? 心なしか体も軽い。学校に行ったら友達の何人かも足が細くなっていて笑った。


 帰宅すると今度は『胸』というパーツが追加されていた。単純なCカップFカップというだけでなくアンダーとトップのセンチメートルとか、おわん型やロケット型などを選び微調整できる。これはうれしい。あまりいきなり大きくなると不自然なのでとりあえずアスカは今よりチョイ盛り上がるBカップくらいの設定にして眠った。


 翌朝本当におっぱいが少し大きくなっていた。シリコンではなく本物の自分の肉の感触のような気がする。さらに日が経つにつれ『目』や『鼻』だけでなく『手』や『心臓』『声』『脳』『年齢』『人種』まで変えられるようになっていった。

 驚いたことに『性器』という項目もある。性転換までできるというのか。


 学校の友達はもう誰が誰だかわからない。みな自分の理想の体型とスペックと知能に変えまくっていたからだ。親が金持ちでないと課金額は凄まじいことになり借金が増え学校を辞めた子もいる。モデルになって副業で稼いでなんとかしているという子もいる。アスカは怖くなりBカップまでで課金を辞めた。


 さらに月日が過ぎると教室からドンドンと人が減っていった。アバターには『猫』や『犬』のような動物の姿になるものも追加されている。街中に動物が増えている気もするけどまさかね…。

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