Hunter&Swordsman ~狩人の日誌~[完結]
柏沢蒼海
ぼくの村のこと
瞼を突き破るような強い日差しが入り込んでくる。
どうやら、昼時まで眠っていたようだ。
惚けた頭が覚醒を促してきた。
目を開けると、飽きるほど見てきた天井がある。
だが、寝床から出る理由なんて何一つとしてありはしない。
――もうちょっと寝るか。
寝返りを打ち、瞼を閉じる。
再び、意識をまどろみに落とそうとした時だった。
何かが僕の上に乗り、耳元で吠える。
おまけに顔を舐め始める。その黒い獣は僕を二度寝させまいと蹂躙してきた。
たまらず、僕は身体を起こす。
涎だらけの顔を拭っていると「さっさと寝床から出ろ」と言わんばかりに、腕を噛んでくる。
「起きる、起きるって――」
寝床から抜け出し、身体を伸ばす。
夜明けまで村の周囲の警戒や森で狩りをしていた疲労感が抜けきっていない。
憂鬱な日中の時間を、僕は怠惰に過ごしていた。
足下にいる黒き獣――否、家族の一員である雌狼が僕を寝床から引き離そうとズボンの裾を噛んで引っ張っていた。
僕は彼女に渋々従い、のろのろと歩を進める。
雌狼の名は〈ルナ〉。僕が生まれた時から一緒に生活していた。
育ての親である狩人の〈ガペラ〉と僕とルナ、2人と1匹で一緒に暮らし続けてきたのだ。
欠伸をしながら、籠から青々としたリンゴを手に取り、噛り付く。
一齧りで目が覚めるほどの酸味と渋みが口中に広がる。
青リンゴを頬張りながら、僕は外に出た。
青々とした空、白い雲。
村のすぐ近くに流れている『リィーヒ河』のせせらぎが、ここまで聞こえてくる。
僕たちの狩人の家は村の中で最も高い場所にあった。
ここから村の全てが一望できる。
大きな河に水車小屋が建ち、村人が行き交い、農夫たちは田畑を耕す。
女子供は籠を背負って、ベリーを積みに『ネェベラの森』へと向かう。
その森の上には、薄っすらと雪化粧が残った『ヘマット高山』がそびえ立っている。
ずっと見てきた景色、僕の住んでいる村の全て。
きっと、これからも変わらないだろう光景だ。
足元にまとわりつくようにすり寄ってきたルナに、僕は半分まで平らげたリンゴをくれてやる。
彼女はそれを咥えると、あっという間に家の裏に駆けていってしまった。
「……今日もいい天気だな」
いつまでもぐうたらしていたら『〈トルム〉よ、夜遅く働いても真昼には起きるもんだぞ』とガペラに説教されてしまうだろう。
せっかく、気持ちよくお天道様の下に出られたのだ。今日はうーんと日向ぼっこをしよう。
遥か頭上を飛び回る鳶を見上げながら、僕はもう一度大きく背伸びをした。
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