第六話 舌戦
「内海に
礼に則り両手を前に突き出して、袖を合わせたまま口上を述べる
「既に宰師殿には報告を上げております通り、此度の賊討伐には近隣の
袖の陰から切れ長の目だけを覗かせながら、
「あくまで内海の賊を滅するため。島主はそう申すか」
その彼を段上から見下ろす
「さようです」
「だが
「お言葉ですが宰師殿。この
「今回の件もあくまで内海の治安維持の範囲内のこと。
だが
「
段上から見下ろす冷徹な眼差しと、袖の陰から見上げる不敵な視線がぶつかり合う。見る者がいれば、広間の中空に火花が立つようにも思えただろう。ただその場にいるキムと
「私めの判断が越権行為に当たると陛下がお考えなのであれば、もちろんこの
顔の前に突き出した両腕を微動だにさせないまま、
「もしや宰師殿は、賊が紅河を上る可能性はないと仰られるのか。その保証を頂けない限りはこの
彼は賊の裏に
もし推測が外れていたらどうするつもりだったのか。だが彼のはったりは最低限の効果は発揮したようであった。
ただその代わりに
「島主の屋形には、
「……よくご存知で。確かに
そう答える
「
「……此度の賊討伐のために
「奴が現れた経緯はどうでも良い。だとすればなぜ未だ屋形におるのか、その理由を問うておる」
だが
そこで
「
これが王陛下の御前でなければ、島主といえども食ってかかりたいところであった。
「天女だと。そなたの後ろに控える頭巾の女が、そうだというのか」
案の定、
この期に及んでも彼女を天女の通訳として扱うことを、
やがて見事な金髪に瑠璃色の瞳の、見目の整った若い女の顔が現れて、さすがに
それ以上に彼にとって幸運だったのは、それまでほとんど存在感のなかった
「おお、噂には聞いたが、まさかこれほどの美しさとは」
それまで背凭れに預けていた上体を乗り出して、
「天女よ、もっとこちらへ近う寄れ。遠慮するな」
王の手招きに応じて良いものか、キムは困ったように
腰を屈めながらそろそろと歩を進めたキムが、王の手前の段で跪く。すると王はなお一層激しく手招きする。そこでキムは、今度は
ついに王の目の前までキムがたどり着くと、王はその痩せ細った手を伸ばして、彼女の白い指先を手に取った。
「まさかこの世に生ある内に、こうして天女を目にすることがかなうとは。願ってもない僥倖よ」
言葉を解さないということになっているキムは、その手を握り締めて離そうとしない王を前にして、なんとか微笑んでみせた。彼女の笑顔がよほど眩しく映ったのだろうか。王はますます鼻息を荒くして、キムの顔に自身の痩けた顔を近寄せる。
「もっとはっきりと見せてくれ。この目に天女の麗しい顔かたちを、しっかりと焼きつけて……」
そこで王の言葉は途絶えてしまった。
病弱の身で急激に頭に血を昇らせたためだろうか。まるで不意に全身から力が抜けてしまったように、王の上体ががくりと前倒しになる。慌ててキムが両手で王の身体を受け止めるのを見て、傍らに立つ
「誰か、医者を呼べ! 陛下がまた倒れられた!」
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