世界を道連れにしようとも、委ねるしかなかった男の偏愛。

 ひとつなぎの感情の鎖のような独特の文体がとても魅力的ですね。それだけでなく、中盤の電子レンジの描写や男の最期など、引き込まれる文章が印象的でした。
 物語の規模としては、男の中に渦巻く孤独や絶望など、若者を襲う普遍的でミニマルなものですが、それが花弁を纏った少女の存在によって、世界を道連れにしてしまうような規模にまで、さながら花のように膨らんでいくというのが、感情の慟哭を聞かされているようでとても共感出来ました。
 少女は植物とは違い言葉を話しますが、出会いの瞬間からそこに感情など無く、それは感情という厄介なものを持った人間とは、確実に分かり敢え無い決定的な生物としての差だった。尊さなど説いても無意味な昆虫や深海魚と同じく、種の繁栄しか目的にない原始的な人外の少女。
 しかし、男はそんな少女に愛を見出した。それが、例え空虚なものであったとしても、男にしてみればそんなことは透徹したものだったのでしょう。例え、繁栄の為だけに利用されたとしても、男にしてみれば、都会という悪意の群衆にまみれた地で唯一自分を愛してくれた存在であり、その少女の為ならば世界を道連れにしようと構わなかった。男にとっての”世界”は、都会の小さな匣の中で少女に愛を注ぎ続けることだったのだから。
 共依存というテーマを残酷に、しかしせつなく、感情の慟哭を織り交ぜて綴られた、共感性の高い作品でした。