俺達は生きる
そうしてヴォードが取り出したカードの色は……銀。そこに描かれた内容を、絵柄を……ファルグニールは、一度見ている。
「そ、それはまさか! やめて、まさかそんなものを私にィ!」
「打ち砕け……【必中必撃ケツストライカー】!」
そして、現れる。黄金に輝く棍棒を持った、黒一色の巨漢が。
「ヒッ、まさか、その輝きは……オリハルコン!?」
魔王たるファルグニールの身体は、普通の武具で貫けるようなものではない。
だが、神の金属であるオリハルコンであるならば。そして……カードに「そうあれ」と定められているのならば。
「くっ、来るなあああああああああああああああああああああ!」
叫ぶ。何者をも焼き尽くす炎をファルグニールは放つ。避けることすらせずにケツストライカーはそれを受け……それでも満足せずにファルグニールは連続で火魔法を叩きこみ、その背にドラゴンのような翼を生やし空へと舞い上がり……ヴォードごと焼き尽くそうというかのように魔法を放ち続ける。
常人であればその数だけ死んでいるであろう魔法の連打を放ち、ファルグニールは空中で荒い息を吐く。
「こ、これなら……ヒッ!」
見上げていた。
黒一色の巨漢と。異常な強度のマジックバリアを展開し、レイアを抱き寄せているヴォードの姿が。
そして。ケツストライカーが、その背に黒の翼を広げ舞い上がる。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
叫ぶ。魔王たる、最悪の魔王とすら言われるファルグニールが、恐怖で更なる上空へと舞い上がる。ありえない。ありえない。あんなモノ、ありえない。魔王たる自分が、あんなものに何かされるなんて、もっと有り得ない!
「ありえな……ひぎいああああああああああああああ!?」
凄まじい速度で追いついたケツストライカーの一撃が、ファルグニールの尻を思いきり叩き飛ばす。
天高く、宇宙まで吹き飛べと言わんばかりの痛打。勿論そこまで飛ぶことはなく、しかしファルグニールは白目をむき吹っ飛び……そして、サンデル山脈の何処かへと落下していく。
「え……倒した……? 魔王を……あのファルグニールを!?」
「さあな。アレで倒せたのかどうか」
ヴォードには魔王を倒した経験などない。だから、アレで倒せたかどうかなど分かるはずもない。
「だがまあ……」
「え?」
「盛大に吹き飛んだな」
ファルグニールの飛んで行った方向を見て笑うヴォードを見て、レイアもプッと吹き出す。
「ふふ……はい。中々に痛快でしたね!」
そして、二人は笑い合い……ファルグニールの落ちていった場所から、悍ましい量の魔力が噴き上がる。
それは、本来見えないはずの魔力が可視化されるほどの……そんな常識外れな量の魔力。
―ふざけ、るなあ……こんな、こんなふざけた事を私は認めない……!―
赤い、紅い炎の柱が天へと昇る。山の1つを焼き尽くし、その中に巨大な……あのレッドドラゴンを遥かに超える巨体が現れる。
全身が煮えたぎるような赤色で構成された巨人。そうとしか表現できないモノが、そこに居た。
―ヴォード! 恐るべき【カードホルダー】! 私は……貴様をこの地上から全力を持って焼き消す! その魂すら残しはしないいいいいいい!―
ビリビリと響く声は、それ自体が衝撃波となって周囲を消し飛ばしている。
「あれが……ファルグニールの真の姿、なのか……!?」
「恐らくは火の邪精霊か何かが変じたものだと思われます……!」
「火の邪精霊……」
ならば通常であれば効くのは水属性の攻撃。しかし手元にある魔法攻撃は【アイスボルト】が3枚。これでは、とてもではないがあの巨体には通用しないだろう。
―もう1度あのくだらんカードを使ってみるか!? 使ってみろ、燃やしてくれる!―
「そう出来れば是非やってみたいんだがな……!」
【必中必撃ケツストライカー】のカードは、もう無い。
残された銀カードはえっちなアメイヴァもどき、グレートヒール、質より量、ミスリルの盾。どれもあの真ファルグニールには通用しないだろう。
金カードは浄化聖域、ラストギャンブル。【浄化聖域】は今は意味が無いし、【ラストギャンブル】は使用条件を満たしていない。使うには銀カードが1枚……たった1枚だけ足りていない。
「ど、どどど、どうしますかヴォード様!」
「さて……今はどうにもならないな」
「えええええ!?」
―ハハハハハハハハハ! そうだな、その通りだろうとも! あんな力が続くはずがない!―
笑う真ファルグニールの両手に、炎が宿る。それは手の中に納まる程度とはいっても……真ファルグニールの巨体であれば、街一つ焼く炎となりかねない巨大な炎。
―さあ、消えよヴォード。貴様を殺し……これ以降も全ての【カードホルダー】を殺し尽くす!―
「断る。俺は……俺達は生きる!」
―フッ、ほざいていろ。冥界で永遠にな―
ファルグニールの炎がヴォード達のいる山へと投げつけられ……そして、それは巻き起こる暴風によって弾き飛ばされた。
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