初めまして……そして

「ふふふ、くくく……」

「認めるんだな……自分が、ニルファだと」

「あはは……はは、ははは! 最高! 最っ高ですよう! まさか、そんなものを隠し持っていただなんて! 戦闘にしか使えないんだろうと思っていたのに!」

「この声……! あの痴女! 勇者そっくりに化けていたんですか!?」


 そう、レイアの知識にあった「新しい勇者」と今のイヴェイラ……いや、ニルファの姿はそっくりだった。そして本人が「イヴェイラ」という勇者の名を名乗ったことで、レイアも本人であると信じていた。

 だが……この声はニルファそのものだった。


「そういう事が出来るって事は……たぶん、まだまだ色々隠してますよねえ?」

「……狙いは俺か」

「【魔法士】に【召喚士】、念話は【異能使い】、これで最低でも3つのジョブの能力を貴方は行使してますねえ。なら……貴方は何処まで出来るのでしょうかあ?」


 そう言った瞬間、イヴェイラは凄まじい速度でヴォードへと突っ込んでくる。

 剣を振り上げて突っ込んでくるその動きに当然ヴォードは勿論、木人も対処できず……しかし、間一髪レイアがミスリルの剣を振るい防ぎきる。


「くっ……!」

「貴女の存在も不思議ですねえ。こうして観察しても、何かのスキルを使ってるようには見えません。ですが、確実に戦士レベルの補正がかかっていますねえ」

「それが……どうしたっていうんですか!」


 レイアが剣を押し込み、イヴェイラは軽く背後へと下がる。


「……分からないんですよねえ、貴女が何のジョブなのか。『おぺれえたあ』という単語はそれっぽいですけど、ひょっとして……そうなんですかあ?」

「気持ち悪い女ですね! ヴォード様だけじゃなくて私にまで興味津々ですか!」

「ふふふっ……当然でしょお? 暇つぶしに来たこんなド田舎に、貴方達みたいなのがポッと湧いて出るんですからあ。しかも1人は『最弱最悪』の【カードホルダー】!」

「暇つぶし……か。君の狙いは一体何なんだ?」


 そんなヴォードの問いに、イヴェイラは微笑み……その微笑みが、一瞬で邪悪なものに変わる。


「決まってるじゃないですかあ。貴方が何処まで出来るのか見たいんですよう。勿論、見せてくださいますよねえ?」


 そう言うと、イヴェイラの手がスッと上へと向けられる。


「まあ……嫌だって言っても見せてもらうんですけどねえ?」


 パチン、と鳴らされた指。それを合図にするかのように、山の上の方から無数の飛竜が飛来してくるのが見えた。


「あれは……ドラゴン、いやワイバーンか!」

「あんな数……対処しきれませんよ!?」

「ふふふ……ワイバーン? 私、ちゃんと言いましたよねえ?」


 楽しそうに……とても邪悪な笑みを浮かべたイヴェイラは、子供に諭すように囁く。


「この山にはドラゴンが住み着いている……忘れちゃいましたあ?」


 その言葉を証明するかのように、空を埋めるワイバーンの群れの中にひときわ巨大な姿が現れる。

 赤いウロコに覆われた巨体。大きな翼を広げ、飛翔するその姿。

 モンスターの中でも上から数えた方が良い強さを持つ巨大モンスター。

 空飛ぶ城砦とも言われ、上位のものであれば高い知性を持ち魔法を行使するとすら言われ……いや、そうであることは魔王の1人である「黒災のトゥールレイタス」が証明している。

 そして、トゥールレイタスでこそないが、飛翔するあの姿は。


「……ドラゴン。本当に、居たのか」

「わざわざ嘘はつきませんよう?」


 言いながらイヴェイラは、隙を突くように振るわれた木人の鞭を素手で掴む。


「私がつくのは、必要な嘘だけ。だからね? たとえば……」


 イヴェイラが掴んだ鞭が燃え上がり、そのまま一瞬で木人まで炎が届き焼き尽くす。

 光となって消失した木人にヴォードは驚愕するが……そんな事が出来るイヴェイラに戦慄する。


「そう、たとえば。今回の裏に魔王が居るっていうのも……真実だったりするんですよう」

「魔王……なら、君は……」

「はい。そうですよお?」


 微笑むイヴェイラの姿が炎に包まれ、イヴェイラでもニルファでもない「何か」に変じていく。赤い炎のような色の髪を持ち、明らかに人間ではない……しかし、人間に限りなく似たその姿。それを見て、レイアが戦慄したような声をあげる。


「その姿……まさか!」

「あらあ、ご存じなんですかあ? けどまあ……自己紹介はしておきましょうかあ」


 ワイバーンと竜で埋め尽くされる空の下、「それ」は優雅な一礼をする。


「人呼んで、火艶のファルグニール。初めまして……そしてさようなら。私を楽しませて死んでくださいねえ?」

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