勝てるかではない

 そうして探した結果……周囲の建物には、攫われた人たちも魔法士も1人も居ないという結果しか出てはこなかった。


「どういうことだ……? まさか……」

「うん。ひょっとすると、もうサンデル山脈に連れていかれたのかもしれない」

「なんてことだ……!」

「ヴォード。さっきの君のカードで、何か距離を詰められるようなものはないのかい?」


 イヴェイラに言われヴォードは手持ちのカードを思い浮かべるが、移動に便利そうなものはない。


「いや、無いな……」

「そうなのか。だけど……うん。今から追いかければ何とかなるはずだ」


 一瞬落胆したような、そんな表情を見せた後、すぐにイヴェイラはガッツポーズを作る。


「ああ。だが……サンデル山脈といっても広いだろう。どの山にドラゴンが居るか分かるのか?」

「ちなみにヴォード、君のカードにそういう索敵が出来るようなものは」

「無い」


 正確にはあるのかもしれないが、今のヴォードは持っていない。


「そうか。でもまあ、何とかなるさ。とにかく急ごう!」

「ああ。今からなら山に入る前に追いつけるかもしれない」

「よし、じゃあすぐに!」


 走り出そうとするイヴェイラを見て、ヴォードは横に立つレイアを振り返って……難しそうな顔をしているレイアに気付く。


「どうした、レイア?」

「いえ、たいしたことじゃないのですが……」


 レイアは近くに倒れていた襲撃者を蹴ると「うぐっ」と呻いて意識を取り戻したその男の胸倉をつかみ上げる。


「聞きますけど、貴方達の司令塔は誰ですか」

「へ、へへっ。言うわけねえだろ」


 陶酔すら感じられるその顔を見て、レイアは軽く溜息をつく。


「そうですか。ならもういいです」

「ぐえっ」


 ぶん殴って再度気絶させると、レイアはヴォードへと笑顔を向ける。


「もういいですよ、ヴォード様。行きましょう」

「あ、ああ」

「中々バイオレンスだねえ、君の恋人」


 苦笑するイヴェイラにヴォードは「そうだな」と返し、そうして3人はイヴェイラの先導で近くの街門へと走っていく。


「アレは……!」


 壊された街門と、倒れた衛兵たち。そして静まり返った周囲……先程と似たような状況に、イヴェイラが舌打ちをする。


「なんてことだ! 連中、手段を選ばないつもりだな!」

「この門、打ち壊されてますね。何度も打撃を加えた跡があります」

「魔法じゃないのか」

「ええ。そのようです」


 地面に焦げ跡を作ったような火魔法を使わなかったのは何故なのか。

 その魔法なら街門など焼き焦がせたはずだが……。


「さっきの連中は僕達への足止め兼目くらまし……ってことか。魔法を使えばバレるからね」

「……そうか」

「残念だけど今は彼等を助けている余裕もない……行こう!」

「ああ」


 そうして再びヴォード達は走り、やがてサンデル山脈のふもとまで辿り着く。


「ここがサンデル山脈……のうちのトワット山だね」

「なんとかっていう登山家が制覇したってやつか」

「ああ、そうさ。そして、ドラゴンの住み着いた場所でもある」

「ドラゴン……か」

「僕が先導するよ。いざという時は……頼りにしてるからね」


 自分に勝てるだろうか。ヴォードはそんな弱気な事を考え、拳を握る。

 勝てるかではない。勝たねばならないのだ。

 それを改めて自分の心に刻み……ヴォードは、一歩を踏み出した。

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