もう異論はないよね
そして、昼食後。戻ってきたヴォード達は、待ってましたとばかりにシールカに1つの部屋に連れていかれた。
そうしてシールカがノックをするより前に扉が開かれ、満面の笑みのイヴェイラが顔を出す。
「やあやあ、待ってたよ! どうぞ入ってよ!」
やや強引に引っ張られて部屋に入ると、其処にはイヴェイラの他に2人の男達が居た。
1人は、恐らくは光神の神官であろう白い神官服の男。もう1人は魔法士だろうローブ姿の男。どちらからも、ヴォードへのあまり好意的ではない視線が感じられた。
「すまないが、そこの2人は……?」
「あ、うん。僕のパーティメンバーだよ。【神官】のザインと、【魔法士】のルイス。僕が貴方達と話をするって言ったら、どうしても同席するって……」
「当然です。貴方は自分の重要さをお分かりで無いのですか」
「ああ、しかもこんな怪しい奴……おいお前、ジョブは何だ?」
「【カードホルダー】だ」
そうヴォードが答えると、ザインとルイスは顔を見合わせ……やがて、爆笑する。
「カードホルダー!? カードホルダーって、あの【カードホルダー】ですか!」
「ハハハッ、初めて見たぜ! ほんとに実在したんだな、あの最悪ジョブ!」
「こいつら……」
レイアが怒りの表情を浮かべ一歩前に出ようとするが、ヴォードはそれを制する。
こんな扱いには慣れている。それだけの話だ。何より、ヴォードが話をしに来たのは彼等ではない。ないが……このままではマトモな話も出来そうにない。そう考えたその瞬間。
「2人とも……ちょっと黙って」
強大な圧か何かでもかかったように、ザインとルイスがビクリと震える。その顔は僅かに青くなり……しかし、すぐにルイスが慌てたように愛想笑いを浮かべる。
「ち、違うんだよイヴェイラ! 俺等はただ……」
「いいから。黙ってられないなら放りだすけど」
その言葉にルイスはゆっくりと座り込み……イヴェイラは大きく溜息をつく。
「はあー……ほんと、重ね重ねごめんね。余計な事しないでね、って言っといたんだけど」
「いや、いい。もう言ったが、慣れてる」
「ほんっとごめん。で、えーと……うん。まず端的に言うね」
姿勢を正し、イヴェイラはヴォードへと正面から向き直る。
「僕は」
「待った、イヴェイラ」
会話に割り込んできた魔法士ルイスに、イヴェイラは不機嫌そうな視線を向ける。
「黙ってって言ったはずだけど?」
「さ、流石にそういうわけにはいかねえよ。これは重要任務だぜ? こんな奴に聞かせていい話じゃねえ」
「私も同意しますよイヴェイラ。どうしてこんな人を連れてきたのですか?」
「まあ、僕も【カードホルダー】だってのは驚いたけどさ……おかしいな、確かにヤバそうな気配がしたのに……【カードホルダー】だっていうんじゃ、本気で勘違いっぽかった……かな?」
3人の会話にレイアはイラッとした様子を見せ、ヴォードも小さく溜息をつく。
此処に来たのは間違いだった。そう強く思ったのだ。
「……分かった。もう何も教えてくれなくていい」
「そうですね。帰りましょう」
「あ、待った待った!」
身を翻そうとするヴォード達にイヴェイラは慌てて立ち上がり、ヴォードの腕を掴む。
「確かに今の発言は失礼だったよ、ごめん。でも、ちゃんと理由があるんだってば」
「……理由?」
「うん。僕達は、この地に潜む危機を排除しに来たのさ」
「それと俺達に何の関係が?」
「うーん……それを話そうと思って来てもらったんだけどね」
イヴェイラが苦笑しながら見るのは、自分の仲間達だ。黙って首を横に振る2人を見て、イヴェイラは「うーん」と声をあげる。
「ねえ、ヴォード。僕はね、最初君を見た時……凄く『ゾワッ』としたんだよ」
ヴォードの腕を掴むイヴェイラの瞳が、ヴォードの瞳を覗き込む。
「今は、それを全く感じない。貴方が『カードホルダー』だって聞いて、勘違いだとも思ってる」
「なら、それでいいだろう。離してくれ」
「うん、普通ならそれでいいと思う。でもね……」
イヴェイラの瞳は、真剣そのもの。ヴォードを馬鹿にしていた者達とは全く違う、ヴォードの奥底を覗きこもうとするような……そんな目だった。
「それでも僕の直感は、貴方を初見で何か恐ろしいモノだと感じたんだ。ねえ、貴方……本当に『カードホルダー』なのかい?」
「間違いなく。それで散々苦労してきた」
「……そっか」
イヴェイラはヴォードの手を離し……しかしその瞬間、その手は腰の鞘へと伸びていた。
「なっ……」
何を、とレイアが叫ぶ暇もない。ヴォードはその動きに気付く事すら出来ない。高速の抜刀は誰も止める事すら出来ず、その刃はヴォードの首元へと振り抜かれて。
……瞬間。ヴォードの中から一枚のカードが飛び出し輝きへと変わる。それと同時に、ヴォードの身体も動いていた。
剣をイヴェイラにすら視認できないほどの速度で回避し、繰り出したのは轟音を伴う蹴り。
「ぐっ……!?」
腹に思いきり蹴りを受けて吹き飛んだイヴェイラは、そのまま部屋の壁にぶち当たり……そのまま何事も無かったかのように立ち上がる。
「凄いな……何今の。見えなかったよ?」
「見えなかった!? 俺達はともかく、イヴェイラがか!?」
「いえ、そんな事より……【カードホルダー】に補正など無いはず! あの速度と威力は一体……!?」
勿論、彼等の言う通りにヴォードにそんな身体能力はない。
ならばどういう仕組みかといえば……答えは当然のようにカードだ。
・【白】カウンターストライク……このカードは物理攻撃を受けた際に自動で発動する。相手の放った攻撃と同威力の物理カウンターを行う。
このカードを引いた時には使いこなせるかヴォードは不安だったが……結果は今披露した通りだった。そして勿論、それについて語るつもりはなかった。
「さて、な。で……今のは何のつもりだったんだ?」
「そうですよ。ヴォード様を殺そうとしたって理解でいいんですかね……?」
ヴォードがこの場で使っても問題なさそうなカードを思い浮かべ、レイアがミスリルの剣に手をかける。そんなヴォード達に、イヴェイラは苦笑しながら両手をあげる。
「違う違う、寸止めして反応を見るつもりだったんだよ。まさか、こんな反撃を受けるとは思わなかったけど」
「……それを信じていいのか、俺には分からない」
「だろうね。で、2人とも? この2人に事情を話す事……もう異論はないよね?」
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