おやすみ

 そして2人は、ヴォードが悩み悩んで選んだ、1週間泊ってもまだ余裕が出るレベルの宿の部屋に居た。勿論ベッドは2つだが……そんな2人がどこにいるかというと、床であったりする。

 広げているのは、今日引いたカードのうち、使ってしまったゴーレムやトレジャーハンマーを除く3枚だ。


「今ある中で戦闘に使えそうなのは【ファイアボルト】と【ヒール】……か?」

「【ぷちラッキー】も捨てたものじゃないですよ。運を底上げできるって、何気に凄いですし」

「そうなのか……でも、この【ファイアボルト】、魔法士が使えばきっと凄いんだろうなあ」

「使えませんよ。カードホルダー専用ですもの」

「……そういえば、その辺聞いてなかったよな。そもそもこのカードって、何なんだ?」

「何って、勿論【カードホルダー】のスキルですよ?」


 そう言って、レイアは解説を始める。

 ヴォードが新たに目覚めさせたスキルは【ドロー】。

 これは様々な力を秘めたカードを5枚入手する、1日1回限定のスキルだが……。


「このカードが何処から来ているのか、という話になります」

「何処って……」

「具体的には、世界を巡る根源魔力より引き出された『可能性』がカードです」


 神は人にジョブを与え、正しい成長を促す。その助けとしてスキルが存在するが、スキル自体は本人の力ではなくシステムなのだ。


「……ごめん、分からん」

「そうですね……たとえば【剣士】のスキルである【パワースラッシュ】はご存じですか?」

「ああ、知ってる。強力な力を籠めた斬撃で、相当硬い敵でも斬れるとか」

「その通りです。しかしながら、それって……やろうと思えばスキルに頼らずとも出来るのでは?」

「いや、無理だろ。なんか剣とか一瞬光ったりするし」


 ヴォードの答えに、レイアは満足そうに頷いてみせる。


「その通りです。人の力だけでは成し得ぬ不可思議な現象。それがスキルです。そしてそれは成長により人の内に宿るもの……もっと言えば、世界から吸収するものなのです」


 そして人とスキルには相性というものが存在する。それを示す、それこそがジョブの正体なのだと、レイアはそうヴォードへと語る。


「つまり、世界には人にスキルを与える根源たる力が存在しています。それこそが根源魔力であり、【カードホルダー】はそこから力をカードの形で汲み上げる事が可能なのです」


 そして同時に、それを使用するのは勿論、カードのままで保管するのも【カードホルダー】にしか成し得ない。

 それはカード自体が魔法士の魔法や剣士の攻撃スキルのような「カードという形のスキル効果」であるからなのだ。


「分かったような、そうでないような……」

「そのうち感覚で分かるようになりますよ」

「そうか……ん?」


 言いかけて、ヴォードはふと疑問符を浮かべる。一つ、おかしなことに気付いたのだ。


「……そういえば、俺が追加スキルに目覚めるとき……君は何かスキルを使ったよな?」

「はい、使いました。【コネクト】ですね?」

「ああ、それだ。普通は追加スキルに目覚めると、自然とその使い方が頭に流れ込んでくると聞いたんだが」

「んー……それはですね。理由があります」

「理由?」

「はい。簡単に言いますと、【オペレーター】が目覚め【コネクト】を行う事が【カードホルダー】のスキルロックが解除される条件なんです」

「なんでまた……」

「【カードホルダー】の力の悪用を避ける為です」


 いつか、力に目覚める【カードホルダー】が現れた時……そのスキル習得条件もまた、世界に広がるかもしれない。そうなった時、強大な【カードホルダー】の力を悪用する為だけに何かをする輩も出るかもしれない。

 それゆえに、その防止機能として【オペレーター】は居るのだとレイアは語る。


「私達【オペレーター】は、【カードホルダー】に与えられた絶対の味方です。もし何者かが【カードホルダー】の力を悪用する為だけにその力を目覚めさせようとした時……私達は、【コネクト】を使うことなく消滅するようになっています」

「悪用……」

「簡単な例で言えば【トレジャーハンマー】が大量にあれば無限の財が手に入りますよね? 【カードホルダー】を監禁すれば可能な事です」

「うっ……」


 聞いて、思わずヴォードはゾッとする。自分の力がバレるということは、そういうリスクがあるということなのだ。


「そもそもの前提としてカードは【カードホルダー】と【オペレーター】にしか触れられませんが……やりようは幾らでもありますからね」


 その「やりよう」が容易に想像できてしまい、身体が冷えていくのをヴォードは感じていた。早々に自衛できるだけの力を手に入れなければ、ロクでもないことになる。それを理解してしまったのだ。


「まあ、すでに目覚めているヴォード様には私が消えるなんて危険性はありませんが……」

「いや、待ってくれ。そうだとすると、冒険者ギルドで戦うのはマズいんじゃないのか?」

「単純に強いと思わせる分には問題ないじゃないですか。【トレジャーハンマー】みたいな特殊なカードは隠さないとでしょうけど」

「む、そうか。『カードで戦う』だけなら戦闘スキルってことで解決できるものな」

「今のところは、そういうことです」

「今のところは?」

「ええ。だって、ヴォード様が強くなったら……手出し出来る奴なんて、この地上に居なくなりますから」


 その言葉に、ヴォードはゴクリと唾を飲み込む。手出し出来る奴が居なくなる。そんなレベルにまで自分が強くなれるという事が、中々想像がつかなかったのだ。


「なので、今は良いカードが出ることを祈って引くのみです!」

「……あ、そういえばそろそろ日付が変わるのか?」

「人間の作った日付はともかく、神の日付は朝が切り替わりです。夜更かししようとしないで寝ろっていう、素敵な配慮ですね!」


 そんな事を言うレイアに笑うと、ヴォードはカードを仕舞い、立ち上がって伸びをする。


「そうだな……明日の朝、良いカードが出ることを祈って寝るか」

「ええ、そうしましょう!」

「それじゃおやすみ、レイア」

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