駆け出しエンジニアは億万長者の夢を見る

コピペエンジニア

第一章 プログラミンスクール?

第1話 紫煙たゆらせ

「ふぅー」


 一息に大きく煙を吐き出し、彼は喫煙室で一人紫煙しえんをたゆらせていた。

 朝日が喫煙室の窓を照らし始めた、工場の始業前、作業着に着替える前に彼は一服をすることが習慣だ。


 彼の名前は掛田かけだ 翔太郎しょうたろう。歳は24歳になったばかりで、この工場で既に6年働いている。


 彼は今胸の内に小さな引っ掛かりがある。先週の事だ。大型連休で久しぶりに友人達が地元に集まっているので酒を酌み交わそうと集まった。


 その場でふと誰かが言ったのだ。


「お前ら年収いくら?」


みんな順番に答えていった。


「俺は手取り20だから20×12で240かな?」


「俺歩合のおかげで500は行ってるぜ」と答えていく。


「俺350でちょうど24歳大卒の平均らしい」


スマホを見つつ答えている者も居た。翔太郎しょうたろうくんは「俺は300くらいだね」と答えた。


 だが、彼の年収は実のところ250万、手取りは20万に届かない程だろう。彼は友人達に軽くであるが見栄を張るために嘘をついた事。

 そして友人達と比べると劣る年収。友人達より早くに社会人として働いているのに学歴でこんなにも変わるのかと衝撃を受けていた。


 連休が明けても彼は悩んでいた。


「お、翔太郎しょうたろうくん。おはよう。」


 口に煙草たばこを咥えつつ、ライターを手に作業着姿で喫煙室に入ってきたのは寺田てらだ勝則かつのり翔太郎しょうたろうくんの上司で、この工場の製造部の部長だ。


「おはようございます」


 翔太郎しょうたろうくんは挨拶を返した。

 勝則かつのりさんは口に咥えた煙草たばこに火をつけて、煙を大きく吐き出してから聞いたのだ。


翔太郎しょうたろうくん、どうしたの?元気ないじゃ~ん」


 この工場に入った頃から付き合いがある勝則かつのりさんには翔太郎しょうたろうくんの気落ちした声もわかってしまったのだろう。


「あぁ~、連休中に友人達と飲んでたら年収の話になって同い年なのに年収こんなに差がでるんだって思ちゃって…」


「学歴ってものがあるからね…同期なのに学歴が違うとスタートする給与も違うんだよね。あと会社側が用意してるキャリアパスが違うんだよな…」


 勝則かつのりさんは少し申し訳無さそうに答えた。


「あ、僕そろそろ着替えてきます。」


 時計を見て翔太郎しょうたろうくんとそう言って喫煙室を後にした。

 本当ならもう1本くらい煙草たばこを吸う時間はあったが尊敬する上司の勝則かつのりさんが申し訳無さそうにしたのが彼の中で気まずくなって喫煙室を出たのだ。


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