俺は極度な恋愛脳の幼馴染と王道ラブコメなんか絶対にしない。

歌川 ヤスイエ

俺の日常編

第1話 幼馴染は極度の恋愛脳!?

 高校生の恋愛は青春と甘酸っぱさが溶け合った、レモンマーマレードの様な物だ。こんな常識は先人の恋愛脳達のエゴの押し付けである。


 これを正しく言い換えると、恋愛は曇天と苦味しか残らない、センブリ茶の様な物だ。


 宇都宮恋次うつのみやれんじ17歳。世間一般から言えば華の高校2年生。しかし、俺にとっての恋愛とは、高校生活において不必要な物の代表例であり、恋人が欲しいなど微塵も思ったことが無い。


 俺は決して彼女が作れないわけでは無い。見た目はそこそこのイケメンだし、身長も平均以上。成績も別に悪くは無い。クラス内のヒエラルキーは常に上位のものだ。女子に何度か告白を受けたこともある。


 それでも俺は、断り続けた。周りにはだのとバカにされようとも。俺からしてみれば高校生まで自身の貞操を守れないやつに将来何が守れると言うのだろうか。


 俺が恋愛に対して歪んだ思想を持ってしまったのには理由がある。それは幼馴染の早乙女光子さおとめみつこの存在だ。


 光子は容姿端麗、成績優秀、誰とでも分け隔て無く笑顔で接する事ができる1番男ウケする性格をしている。悪く言えば八方美人の言葉を具現化したような女子だ。


 そんな性格に整った顔立ちが相まって、光子は非常にモテる。


 ただ、表から見れば完璧な彼女だが、幼馴染として彼女の裏まで知っている俺からすれば光子は完全に恋愛対象外。


 幼馴染との恋愛は王道のラブコメかもしれないが、俺と光子に限っては断じて無い。仲は昔から良いが絶対に無い。なぜなら……、彼女が極度の恋愛脳だからである!


「恋ちゃんおっはよーう!! 今日も死んだ魚の様な顔をしてますな」


「お前は朝から何でそんなに元気出るんだよ。毎朝バタコさんに顔でも変えてもらってんのか?」


 俺と光子の家は住宅街に並ぶ群宅の隣同士だ。そして両親共に共働きと言う事もあって昔から互いの家にお邪魔したり、されたりしていた。


「ふっふっふ、気付いちゃったかね恋次君?」


「何が?」


 不敵な笑い声と共に光子は両手で口元を押さえている。


「何が、とは失礼な! 今日の私、どこか違くなーい?」


「……」


 どこか違うって言われてもなぁ。クラスも同じで行き帰りも一緒だから、何かが変わっても気付かねぇよ。


「うーんと……、太った?」


「天誅!!!」


 光子のチョップが俺の脳天に炸裂した。


 イッテェー! こいつ細い体してるくせに力だけはあるんだよな。


「嘘だっつーの!! いちいちチョップすんな! で、何が変わったんだ?」


 何が変わったのか当てれない僕に光子は頬を餅の様に膨らませいじけている。


 おほっ、可愛い……。いかんいかん、こいつは子猫の顔をした狩人だぞ! 自我を保て宇都宮恋次!


「そんなんだから恋ちゃんはいつまで立っても彼女ができないんだよっ! べー、だ!」


「何だとぉ!? 俺は彼女が出来ないんじゃ無くて作らないだけなの! どっかの恋愛バカと一緒にすんな」


 でも、確かに言われて見れば、こいつは可愛いよな。パッチリ二重に長いまつ毛、高く通った鼻筋にスタイルも抜群。色白の肌は毛穴一つ見えない。スッキリとした黒髪のショートヘアーは……、ん? ショートヘアー?


「ああ、お前、髪切ったのか」


「エッヘッヘー、やっと気付いたかね恋次氏。どう? 似合ってる?」


 変化に気づくと光子は隠すことなく嬉しそうな顔をしている。


「あー、いいんじゃねぇの」


「何でそんなに感情がこもってないのよ! もっとこう『最高に可愛いよ』とか『どんな髪型でも似合うんだね』とか無いわけ!?」


 誰の真似してんだよこいつ……。


 そもそも『幼馴染に恋をする』、なんて言うのは現代の漫画、アニメを推進する日本社会が作り出してしまったモテない男達の幻想であり、本当の姿など『髪切った』、『あっそ』程度である。


「恋愛において女の子の変化に気づくのは常識中の常識だよ! そして変化に気づいたら褒めてあげなきゃ!」


「へいへい」


 出たよ恋愛脳。変化に気づいて褒めろだと? 太ったて言ったら怒るくせに。それはあれか、進化した部分は褒めて、退化した部分は黙認しろってことか? 何だその横暴な要求は。


 俺は毎日光子にこんな様な、頼んでもいない恋愛ノウハウ授業を登校と下校の際に聞かされている。これが、俺の恋愛断固拒否思想が生まれた原因である。


 そのため俺には、こんなに可愛い幼馴染がいたとしても、、みたいなラブコメ主人公全開のあるある展開などは決して訪れはしないのだ。 


 

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